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vol.62 南アフリカにおいて以前のCOVID-19流行と比較したオミクロン株流行中の入院患者の特徴と予後
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はじめに

2021年11月24日、南アフリカでのCOVID-19第4波の原因として、変異株であるオミクロン(B.1.1.529)が原因として同定された。スパイク変異が多いことから、ワクチン回避能力および拡散能力が懸念される。我々は、第4波でSARS-CoV-2検査が陽性となった入院患者について、以前の波と比較して評価した。

方法

Netcareは、南アフリカ全土に49の急性期病院(1万床以上)からなる民間医療グループである。南アフリカは3回のCOVID-19流行を経験している:(1) 2020年6月~8月、(2) 2020年11月~2021年1月、(3) 2021年5月~9月。2021年12月7日の時点で市中での検査陽性率が26%に到達した。これまでの波で陽性率が26%に達した期間を特定し、研究対象期間とした。COVID-19陽性で入院したすべての患者を対象とした。患者の特徴、酸素供給と人工呼吸の必要性、集中治療室への入院、入院期間、死亡率を電子情報システムから収集・算定した。フォローアップは2021年12月20日までとした。

結果

各流行の同じ初期に病院で治療された患者数は異なっていた。第1波から第3波まではCOVID-19陽性で救急部を受診した患者の68~69%が入院したのに対し、第4波では41.3%であった(表)。第4波で入院した患者は、より若く(年齢中央値36歳、第3波では59歳、P<0.001)、女性の割合がより高く、併存疾患のある患者が少なく、急性呼吸器症状のある患者の割合は低かった(第4波の31.6% 対 第3波の91.2%、P<0.001)。酸素療法を必要とする患者の割合は、機械的換気を受けている患者の割合と同様に、有意に減少した(第4波の17.6% 対 第3波の74%、P<0.001)(表)。集中治療室への入院は、第4波では18.5%、第3波では29.9%であった(P<0.001)。入院期間の中央値(前波では7~8日)は、第4波で3日に減少した。死亡率は、第1波では19.7%、第3波では29.1%であったが、第4波では2.7%に減少していた。第4波で入院した971例の患者のうち、24.2%がワクチン接種済み、66.4%がワクチン未接種、9.4%が接種状況不明であった。

考察

COVID-19で入院した患者の特徴と転帰は、南アフリカにおける第4波の初期と第3波以前とを比較すると異なるパターンが観察され、患者は若く、併存疾患が少なく、入院や呼吸器系の診断が少なく、重症度と死亡率が減少していた。この研究の限界は、第一に、患者のウイルス遺伝子型を調べることができなかった点である。しかし、オミクロン株は2021年11月までに81%、12月までに95%を占めていたと推定されている。第二に、7%の患者が2021年12月20日現在、まだ入院している。第三に、国による規制やロックダウンの実施状況が異なるため、患者の行動や入院の特徴が流行の波によって異なる可能性がある。一方、これらの要因は緊急入院には影響を及ぼしていないはずである。第四に、COVID-19で入院した患者は、検査結果が偶然に陽性となった他の診断で入院した無症状の患者と区別することができず、これは第4波で呼吸器系の診断で入院した割合が低かったことから示唆されたように、波によって異なる可能性がある。
2021年12月時点で南アフリカの成人人口の44.3%がワクチン接種を受けており、人口の50%以上がSARS-CoV-2に過去に曝露されている。従って、流行の波による様々な特徴の相違が、既存の獲得免疫または自然免疫に影響されるか、またはオミクロン株が以前の株よりも病原性が低いかどうかを明らかにするには、さらに研究が必要である。

訳者コメント

オミクロン株が最初に流行拡大した南アフリカでは、それ以前の流行(アルファ株やデルタ株などが主体)に比べて、入院を必要とする割合が低かった。入院患者は若く、併存疾患もあまり有しておらず、予後も明らかに良好で特に致死率が10分の1程度であった。この所見から、社会全体としてオミクロン株の与える影響が患者数の割にはさほど大きなものではないという推論が成り立つ。高齢者の占める割合が少ない理由については明らかではないが、この論文の後に発表されている様々な国も同じような状況であり、流行株の特性か、あるいはワクチンの有効性か、など、様々な推測が可能であろう。
抄訳時点(2022年1月18日)では、日本も過去最大の1日あたりの患者発生数となっており、他の国と同様に急激に流行が拡大している。一方、論文で紹介した南アフリカでは既に流行がピークアウトし、急激に患者数が減少しつつある。流行の推移、その背景にある因子など、まだまだ不明な点も多い。