ケンエー海外論文 Pickup

vol.56 COVID-19ワクチンのB.1.617.2(デルタ)変異株に対する有効性
PDFファイルで見る

背景

コロナウイルス感染症2019(Covid-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のB.1.617.2(デルタ)変異株は、インドでの感染者の急増に寄与し、現在では英国での患者数の増加が顕著になるなど世界中で検出されている。この変異株に対するBNT162b2およびChAdOx1 nCoV-19ワクチンの有効性は不明である。

方法

検査陰性症例対照法を用いて、デルタ変異株が流行し始めた期間に、デルタ変異株または優勢株(B.1.1.7、アルファ変異株)による症候性疾患に対するワクチン接種の有効性を評価した。変異株は、遺伝子配列決定やスパイク(S)遺伝子の状態に基づいて同定された。イングランドにおけるCovid-19のすべての有症状で遺伝子配列が決定された症例のデータを用いて、患者のワクチン接種状況に応じて、いずれかの変異株に感染した症例の割合を推定した。

結果

ワクチン(BNT162b2またはChAdOx1 nCoV-19)を1回接種した後の有効性は、アルファ変異株に感染した人に比べて、デルタ変異株に感染した人で顕著に低かった(30.7%、95%信頼区間(CI):25.2~35.7 対 48.7%、95%CI:45.5~51.7)。この結果は、両ワクチンで同様であった。BNT162b2ワクチンでは、2回接種の有効性がアルファ変異株感染者で93.7%(95%CI:91.6~95.3)、デルタ変異株では88.0%(95%CI:91.6~95.3)であった。一方、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンでは、2回接種の有効性がアルファ変異株で74.5%(95%CI:68.4~79.4)、デルタ変異株で67.0%(95%CI:61.3~90.1)であった。

結論

2回接種後のワクチンの有効性は、アルファ変異株と比較してデルタ変異株ではわずかな差しか認められなかった。ワクチンの有効性の絶対的な差は、1回目の接種後により顕著であった。この結果は、感受性のある人々の間で2回接種によるワクチン接種を最大化する努力を支持するものである。

訳者コメント

日本でも、英国由来のアルファ変異株からインド由来のデルタ変異株への置き換わりが進みつつあり、2021年7月中旬には首都圏などでデルタ変異株が主流となりつつある。ワクチンの有効性に関して、治験段階ではいずれの変異株も流行しておらず、検証が困難であった。その後、アルファ変異株に対してはBNT162b2(ファイザー/BioNTech製)、ChAdOx1(アストラゼネカ製)のいずれも有効であることが判明してきている。そうなると次に関心が寄せられるのがデルタ変異株へのワクチンの効果である。

今回紹介した論文は、これまでも多数のワクチンの有効性に関するデータを報告してきた英国からの報告である。デルタ変異株に対して、日本で多く接種されているファイザー/BioNTech製のワクチンが、2回接種を完了した人において有効率88%という充分に高い値を示したことは、日本や世界においてワクチンによるCOVID-19の制御が前途有望であることを示唆している。

なお、英国は保健福祉に関するデータベースが確固たるものであること、ファイザー/BioNTechのワクチンとアストラゼネカのワクチンの双方をいち早く入手してボランティアなどにも接種させるという柔軟な指針で早期ワクチン接種を推進したこと、いくつもの大きな流行の波にのまれたことという、幸運と不運に恵まれ見舞われた国である。このような環境が、ワクチンの効果に関するリアルワールドデータを元にいくつもの論文や声明を発出することを可能にしたと言えよう。