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vol.54 英国の医療従事者におけるCOVID-19ワクチン接種率とBNT162b2 mRNAワクチン(SIREN)の感染予防有効性:前向き多施設コホート研究
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背景

BNT162b2 mRNAワクチンおよびChAdOx1 nCOV-19アデノウイルスベクターワクチンは、2020年12月から英国で急速に展開されている。我々は、両ワクチンの接種率に関連する要因を明らかにし、定期的な無症状検査を受けている医療従事者のコホートにおいて、BNT162b2 mRNAワクチンのワクチン効果を記録することを目的とした。

方法

SIREN研究は、英国の公的資金で運営されている病院に勤務する職員(18歳以上)を対象とした前向きコホート研究である。参加者は、追跡期間開始時に陽性コホート(抗体陽性または感染歴《過去に抗体検査またはPCR検査が陽性であったことを示す》)と陰性コホート(抗体陰性で過去に検査陽性がなかった)のいずれかに割り当てられた。ベースラインの危険因子は登録時に収集され、症状の状態は2週間ごとに収集され、ワクチン接種状態はNational Immunisations Management Systemとの連携とアンケートにより情報収集された。参加者は2週間に1回の無症状のSARS-CoV-2 PCR検査と月に1回の抗体検査を受け、SIREN以外のすべての検査(症状のある検査を含む)を把握した。本分析のためのデータカットオフは2021年2月5日であり、追跡期間は2020年12月7日~2021年2月5日であった。主要アウトカムは、ワクチン接種率分析ではワクチン接種を受けた参加者(ワクチン接種歴のバイナリ変数;2つのワクチン接種データソースのうち少なくとも1つで記録された少なくとも1回のワクチン接種で示される)、ワクチン効果分析ではPCR検査で確認されたSARS-CoV-2感染であった。ワクチン接種率に関連する因子を特定するために、混合効果ロジスティック回帰分析を行った。ポアソン分布を用いた区分的指数関数ハザード混合効果モデルを用いてハザード比を算出し、ワクチン未接種者とワクチン接種者の感染までの期間を比較し、PCR陽性の全感染症(無症候性および症候性)に対するBNT162b2ワクチンの影響を推定した。

結果

104施設の23,324人の参加者がこの分析のための組み入れ基準を満たし、登録された。参加者の年齢中央値は46.1歳(四分範囲36.0~54.1)で、19,692人(84%)が女性であった。8,203人(35%)が解析期間の開始時に陽性コホートに割り付けられ、15,121人(65%)が陰性コホートに割り付けられた。総追跡期間は2暦月、1,106,905人日(ワクチン接種者396,318人、非接種者710,587人)。ワクチン接種率は2021年2月5日時点で89%、そのうち94%がBNT162b2ワクチンを接種していた。有意に低い普及率は、過去の感染、性別、年齢、民族、仕事の役割、Index of Multiple Deprivationスコア(*註)と関連していた。追跡期間中、ワクチン未接種のコホートでは977件の新規感染があり、発生密度は1万人日あたり14件であった。ワクチン接種を受けたコホートでは、初回接種後21日以上経過してからの新規感染が71件(発生密度は1万人日あたり8件),2回目の接種後7日経過してからの新規感染が9件(発生密度は1万人日あたり4件)であった。ワクチン未接種の感染者977人中、PCR 陽性検査日の1~14日前に543人(56%)が典型的な COVID-19 の症状を呈し、140人(14%)が無症状であったのに対し、ワクチン接種の感染者80人中、典型的な COVID-19の症状を呈する者が29人(36%)、無症状の者が15人(19%)であった。BNT162b2ワクチンの1回目の接種から21日後に70%(95%CI 55~85%)、2回目の接種から7日後に85%(74~96%)のワクチン効果が認められた。

*註:「複数剥奪指標」居住地域の社会において期待される機会やリソースへのアクセスの欠如

結論

今回の調査結果は、BNT162b2 ワクチンが労働年齢の成人における有症状および無症状の感染を予防できることを示している。このコホートは、流行している主なウイルス株がB1.1.7であったときに接種されており、この変異株に対する有効性を示している。

訳者コメント

先月に引き続き、COVID-19ワクチンが無症候性感染を予防するか否かという疑問に答える研究。英国のSIREN研究は、医療従事者をコホートとして、2週間ごとにPCR検査を受けてもらうコホート研究である。全体で1回接種により70%、2回接種により85%の感染が防げたという結果となった。

この研究の結果を解釈する上で重要な点は二つある。まず、本研究は、日本で現在(2021年5月中旬)流行している主な株である英国由来の変異株(B1.1.7)が流行する最中に、日本で現在接種されているのと同じBNT162b2ワクチンを接種した人に対して行われた。従って、研究結果は現在の日本におけるワクチンの有効性を予測するために最も相応しい情報である。2回接種後7日が経過した段階で、85%の有効性ということであり、同ワクチンの治験段階における95%よりは若干低下しているものの、十分に有効であることを示している。

次に、陽性コホート、つまりCOVID-19既感染者(無症状も含む)の中に81人も感染者が出ており、そのうち6名はワクチンを接種しても感染している。陰性コホート、つまり未感染者に比べるとその割合は極めて低いが、COVID-19に罹患し、更にワクチンまで接種しても再び罹患するという研究の結果は、COVID-19再感染が決してまれではないことを示している。流行していた株であるB1.1.7の特性かもしれない。

ともあれ、医療従事者という特性の偏った集団ではあるものの、2週間ごとに無症状でもPCR検査を受検するというSIREN研究のコホートは、無症候性感染に関する貴重なデータを我々に示してくれる。この研究は、本稿の読者の多くを占める医療従事者にとって、ワクチンが大きな支えになり、接種することでより積極的かつ安心してCOVID-19診療に従事することができる手段であることを、再認識させるものである。