ケンエー海外論文 Pickup

vol.36 全個室の新病院における医療関連感染の時系列解析
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背景

医療関連感染(HAI)は多剤耐性菌が頻繁に原因となり、病院のコストや避けられる医原性有害事象の重要な要因である。新たな医療機関は個室で建築することが推奨されているが、費用を要する一方でHAIを低減させるエビデンスは弱い。

目的

個室化が、多剤耐性菌の伝播やHAIの発生率低減と関連するかどうかを検証すること。

デザイン、場所、研究対象

100%個室の病院への移転前(2013年1月~2015年3月)と移転後(2015年4月~2018年3月)で医療機関全体の新規多剤耐性菌保菌およびHAIの発生率の時系列解析を実施。このカナダ史上最大の病院移転では、3人部屋または4人部屋で構成されていたモントリオールの417床の旧三次ケア病院の入院患者を、350床全て個室の病院に移動させた。移動は2015年4月26日に実施された。

主なアウトカムと測定方法

院内獲得バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、VREおよびMRSA感染症、Clostridioides difficile感染症(CID)。10,000患者日あたりの発生率で評価。

結果

移転前の27ヶ月(218,868患者日)に比べ、移転後の36ヶ月(318,257患者日)において、院内獲得VRE保菌(イベント数766から209に減少、発生率比[IRR]0.25、95%信頼区間[CI]0.19-0.34)・MRSA保菌(129→112、IRR 0.57、95%CI 0.33-0.96)・VRE感染症(55→14、IRR 0.30、95%CI 0.12-0.75)が直ちに低下し、その低下は維持された。一方、CDI発生率とMRSA感染症は減少しなかった(CDI:236→223、IRR 0.95、95%CI 0.51-1.76 MRSA:27→37、IRR 0.89、95%CI 0.34-2.29)。ケンエー海外論文Pickup vol.36_page-00012

結語

個室のみの新病院に移転することは、MRSA・VREの保菌獲得とVRE感染症発生率の持続的低減と関連があるように思われる。一方、CDI・MRSA感染症の低減には関連がなかった。これらの所見は、感染制御を展開する上で病院建築の役割における重要な知見を有する。

監修者コメント

本研究は約5年間の経過を検討したものであり、その間に発生した様々な変化(地域のVREやMRSAの流行状況、院内でのその他の感染対策実践など)の影響を受けている可能性がある。しかし、VRE保菌とMRSA保菌の発生率は新病院移転後すぐに低下しており、これは純粋に病院移転の効果によるものと言える。

一般的に、病院の移転によって療養環境中の耐性菌がリセットされる。また、移転後の病院の病室は全て個室であり、患者間の距離が遠くなることによって患者間の移動の際に医療従事者が手指衛生を行う機会も増える。本研究は、MRSAやVREによる患者療養環境汚染が患者の保菌獲得に関連があることを強く示唆するとともに、手指衛生の機会増加の効果も加わって、全個室の医療機関では耐性菌の院内保菌獲得を抑制することができることを示唆している。