背景
消毒薬による皮膚清拭と鼻腔除菌がICUにおいて耐性菌感染や血流感染を低減する。しかし、非ICU病棟での効果は不明である。ABATE Infection trialの目的は、非ICU病棟において、ICUで実施して効果があった介入と同様のものを実施することの効果を検証することである。
方法
本研究は53病院のクラスターランダム化比較試験であり、非ICU病棟において通常の清拭/シャワー浴を行う群と全員クロルへキシジン(CHG)清拭/シャワー浴と保菌者に対する鼻腔ムピロシン塗布を行う群とを比較した。全ての病院がHCAヘルスケアグループに属しており、2013年3月から2014年2月までがベースライン期間、2014年6月から2016年2月までの21ヶ月が観察期間であった。病院はランダム化され、介入群に割り当てられた病院の研究参加病棟では、患者全員にCHGによる全身清拭またはCHGソープによるシャワー浴を行い、更にMRSA保菌陽性者にはムピロシンによる除菌を行った。非介入群の病院の参加病棟では、消毒薬非含有クロスによる清拭またはボディソープによるシャワー浴を行った。一次アウトカムは、研究参加病棟のMRSA陽性またはVRE陽性臨床検体であり、ベースライン期間に対する観察期間のハザード比(HR)を求めた。
結果
53病院の194個の非ICU病棟において、ベースライン期間189,081人、観察期間の339,902人(非介入群156,889人と介入群183,013人)が対象となった。病棟内発生のMRSA陽性またはVRE陽性臨床検体に関しては、介入群で0.79(95%信頼区間0.73-0.87)、非介入群で0.87(0.79-0.95)であった。両群間に相対的HRに相違は見られなかった(p=0.17)。介入群に割り当てられた183,013人のうち25人に副反応が見られ、全てCHGに関するものであり、ムピロシンに関する副反応は報告されなかった。
解釈
非ICU患者に対する普遍的CHG清拭/シャワー浴とMRSA保菌陽性者に対するムピロシン除菌は、MRSAやVREを有意に減らすことはなかった。
監修者コメント
非ICU患者はICU患者に比べて自立度が高く、使用しているデバイスが少ないなど感染リスクが低いと考えられる。そのため、CHG・ムピロシンによる介入に効果が見られないという結果になったと考えられる。一方で、デバイスを使用している患者のみを対象とした二次解析では、今回の介入が非介入に比べて主要アウトカムを相対的に37%減少させ、また血流感染も32%減少させている。非ICU患者の中にも、この介入の恩恵を受ける患者集団が居るであろうことにも着目すべきであり、更なる研究が待たれる。