ケンエー海外論文 Pickup

vol.24 多剤耐性病原体に対する接触予防策の中止:系統的文献レビューとメタ解析
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背景

いくつかの研究によると、アウトブレイクではない状況下で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の制御のための接触予防策(CP)を廃止することが感染率に影響しないことが示唆されている。急性期医療現場でCPを中止することの影響に関する系統的文献レビューとメタ解析を実施した。

方法

多剤耐性病原体に対するCP中止を評価する2016年までの研究を、PubMed、CINAHL、コクラン系統的レビューデータベース、Database of Abstracts of Review of Effects、Embaseで検索した。プールリスク比を得るためにランダム効果モデルを使用した。多様性はI2評価とコクランQ統計で評価した。MRSAとVREに対するプールリスク比を別々に評価した。

結果

14件の研究が組み入れ基準を満たし、最終的なレビューに含められた。6件の研究でMRSAとVREの双方に対してCPを中止し、MRSAのみ中止が3件、VREのみ中止が2件、基質拡張型βラクタマーゼ産生大腸菌に対するCP中止が2件、1件はC. difficile感染症に対するCP中止であった。研究結果をプールすると、CPを中止した後のMRSA感染症の減少傾向(プールリスク比 0.84, 95%信頼区間 0.70-1.02, p=.07)、およびVRE感染の統計学的有意な減少(プールリスク比 0.82, 95%信頼区間 0.72-0.94, p=.005)がみられた。

結論

MRSAとVREに対するCPの中止は、感染率の上昇には関連しない。

監訳者コメント

「ケンエー海外論文Pickup vol.18」で紹介した論文をはじめ、ここ数年でCP中止による耐性菌伝播の増加が見られないという論文が目立つ。今回研究対象となった14件のうちMRSAとVREを対象とした11件の論文は1件を除き2010年以降の研究である。そして、全てにおいてCP中止後のMRSAやVREの院内発生増加が見られなかった。

耐性菌伝播を制御するためのCPは1970年代に提唱されたが、その時代は個室も少なく、アルコール性手指消毒薬も無く、手指衛生の遵守状況も悪く、クロルヘキシジングルコン酸塩による患者清拭や強化環境制御対策も行われていなかった。これらの点が改善された現在は、CPを実施しなくても、MRSAやVREの保菌・感染が判明している患者だけでなく潜在的な保菌者からの伝播も効率的に防止できている可能性が十分考えられる。一方、CPの弊害には様々なものがあり、患者病室への訪問回数の減少やそれに伴う有害事象発見の遅れ、患者の精神的状態に対する悪影響などが知られている。CPの効果と弊害を天秤にかけると、手指衛生をはじめとする感染対策が充実している医療機関においてCP中止という選択肢は現実的に思える。

一つだけ注意すべき点は、11件の研究のうち10件がアメリカで実施されていることである。アメリカはMRSAとともにVREも日常的に分離される国であり、腸球菌に占めるVREの率も高い。日本ではVREがまれであり、伝播によるVRE拡散を是が非でも食い止めなければならず、CP中止は早計と考える。