目的
接触予防策中止および標準予防策適用の前後で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や基質拡張型ベータラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌(ESBLE)の集中治療室(ICU)内獲得の発生密度を比較すること。
対象と方法
2012年1月~2014年1月の接触予防策(CP)期間と、2014年2月から2016年2月までの標準予防策(SP)期間の、前向き非劣勢前後比較試験。研究はフランスの地方中核病院の、全て個室で医療器具も部屋専用である16床のICUで実施された。CP期間、SP期間にこのICUに入室する全ての患者、それぞれ1,547人と1,577人を研究対象とした。1,000患者日あたりのICU獲得MRSA・ESBLEの発生密度を算定した。それ以外に、患者背景、入院時MRSA・ESBLE保菌の発生密度、手指衛生手順の遵守率、抗菌薬消費などの要因も検討した。
結果
CP期間とSP期間において、ICU獲得MRSAの発生密度は1,000患者日あたりそれぞれ0.82(95%信頼区間0.31~1.33)と0.79(同、0.30~1.29)であった。ESBLEの発生密度はそれぞれ2.7(同、1.78~3.62)と2.06(同、1.27~2.86)であった。SP期間の数値はCP期間の数値に対して有意に非劣勢であった。その他の要因はCP期間とSP期間でほぼ同等であり、入院時ESBLE保菌者のみがSP期間で有意に少なかった。両期間を通じて、手指衛生に対する高いレベルの遵守が観察された。
結論
CPを中止しても、全個室・専用の医療器具・厳格な手指衛生実施・チームのリーダーシップ・抗菌薬適正使用という条件のそろった我々のICUにおいては、MRSAとESBLEの伝播が増加しなかった。
監修者コメント
MRSAなどの耐性菌に対する接触予防策は半ば当たり前の対策として多くの施設で実施されているが、それに一石を投じる内容の論文である。接触予防策を中止してもMRSAやESBLEの伝播は増えなかった。手指衛生の遵守率がそれぞれ81%と75%と非常に高かったことが効果的に交叉感染を防止していたと思われる。一般的には手指衛生の遵守率は高くても50%程度であり、そのような状況下では依然として接触予防策が必要と考えられる。