目的
505床の急性期ケア施設におけるSerratia marcescens菌血症の集積事例の調査とその制御を記述すること。
方法
2014年3月2日から4月7日までの間にS. marcescens菌血症をきたし、パルスフィールドゲル電気泳動による分子学的型別解析で同一または関連する菌が分離された患者を集積症例と定義した。症例は、症例と同一時期・病棟に入院していて4:1で選択された対照と、二変量解析を用いて比較された。
結果
上記の期間中に、入院後48時間以内にS. marcescens菌血症をきたした患者が全部で6人いた。このうち、分子学的型別解析で5人から同一のS. marcescensが分離され、その5人に対して症例対照研究を行った。二変量解析により、麻酔後ケア病棟への曝露がリスク因子として同定された。最初の患者が発生した直後に、数カ所の病棟でオピオイド含有シリンジが不正に操作されていた形跡が発見され、全ての麻薬の流用に関する調査が行われた。麻薬の流用に関与した職員として、麻酔後ケア病棟で働いていた1人の看護師が同定され、集積事例の5人の患者全てに対して疫学的に関連していた。この職員を解雇した後、更なる症例は発生しなかった。
結論
医療従事者による不法な薬物使用は、入院患者における血流感染の発生に対して未だに重要な機序である。医療現場における麻薬の流用とそれに関連する患者の害を防止・検知・制御するために、能動的な仕組みとシステムを導入しておくべきである。
監修者コメント
3月の2例が発生した頃、病棟で開封されたオピオイドシリンジが発見され、濃度を調査したところ何者かによって薄められていることが判明した。監視カメラが設置され、その後も薬剤の調査を続けていたところ、同様のシリンジが4月にも新たに発見され、合計42本のシリンジの薬剤が流用された。監視カメラの映像などから、不正流用に関与した看護師が特定され、解雇された。並行して薬剤部と感染対策部によって本論文で述べられている調査が行われ、その関連性が疫学的に証明された。アメリカでは過去にも呼吸器療法士によるフェンタニルの流用をはじめとする同様の事例の報告があり、皮肉なことに今回の事例が発生した医療機関からも26年前に報告されていた。日本でも、輸液バッグに対して故意に穴が開けられるなどの事例も発生しており、医療従事者による現場での不正行為により一層留意しなければならない時代になっているのかもしれない。