背景
耐性菌感染症は致死的であり、抗菌薬への曝露が薬剤耐性の進展に対する決定的なリスク因子である。外科手術の予防的抗菌薬(SAP)が耐性菌感染症のリスクを増大させるなら、トータルの感染率を低減させたとしても予防投与自体が害である可能性がある。
研究対象・方法
2008年から2016年までにニューヨークにある急性期病院において主に泌尿器科・整形外科・産科領域(ガイドライン上、SAPの投与・非投与が主治医に任されている領域)の待機的手術を受け、術後30日以内に感染を発症した成人を対象とした。耐性菌感染症と感性菌感染症の2群に分け、両群で各種因子に差が無いか検討した。耐性菌の定義は、当初少なくとも1つのクラスの抗菌薬に耐性と設定し、のちに3つ以上のクラスに耐性に設定を変えて検討した。
結果
研究対象689人のうち338人が術後耐性菌感染症を発症した。SAP投与は、耐性菌感染症のリスク因子ではなかった。耐性菌感染症の既往が、術後耐性菌感染症のリスク因子であった。耐性菌の条件を変え、3つ以上のクラスに耐性とした場合、オッズ比は1.53となったが、それでもSAP投与は有意なリスク因子とならなかった(95%信頼区間0.90-2.60)。
結論
SAPの投与は、術後感染症の大きなコホートの中で耐性菌感染症と関連がなかった。この結果は、SAPの投与を再保証するものである。
監修者コメント
SAPは、感性菌による術後感染症の防止のメリットと、当該患者および人類全体にとって有害な耐性菌の選択というデメリットのバランスを考えて投与の是非を判断しなければならない。多くの領域ではその点について十分な検討が行われ、ガイドラインが策定されているが、本研究はガイドラインがない領域の手術において、各々の術者にSAP投与の可否を委ねた観察研究である。そして、術後予防的抗菌薬投与と術後耐性菌感染症の関連性は無い、という趣旨の論文である。ほとんどの症例が手術当日入院して術後24時間以内に退院しており、SAPの投与は単回であったと推測される。この程度の投与であれば、耐性菌感染症のリスクを増大させることはなく、著者らが結論で述べている「SAPの投与を再保証するものである」というのは、本研究で対象とした領域の手術に対してのみ言えることかもしれない。解釈に注意が必要である。