目的
多剤耐性菌(MDRO)が流行している状態の集中ケアユニット(ICU)において、環境保菌を低減させるための 銅コーティングの効果を評価すること。
研究施設・対象患者
ギリシャ・アテネにあるアッティコン大学病院の一般ICU。その区域A とB(各6 床)に研究期間中に入室し
た患者。比較交差試験。
方法
介入の前に、環境検体の最適なサンプリング方法を評価・検証した。ベッドと周囲物品を銅コーティングしたセットを6床分製作した。第一段階では、区域AとBの両方で、コーティングしていないベッドと隣同士になるように配置した。第二段階では、区域Aではベッド等を全て銅コーティングとし、区分Bでは全て非コーティングとした。患者は無作為に空いているベッドに収容された。環境サンプリングは臨床的に重要な細菌に関して評価した。臨床的および人口統計学的データを医療記録から収集した。
結果
銅コーティングは、菌が付着している表面の割合、多剤耐性グラム陰性菌(MDR – GN)が付着している表面の割合、腸球菌が付着している表面の割合、菌の総数、グラム陰性菌(GN)の総数の全てを有意に低減させた。この効果は、第二段階においてより顕著であった。
結論
MDRO の高度流行状態にあるICU 環境における銅表面は、MDRO の環境汚染を低減させた。
監修者コメント
ギリシャは、多剤耐性アシネトバクターなどの耐性グラム陰性菌の分離率が高く、特に苦労している国である。耐性グラム陰性菌対策として環境制御が重要であるが、古典的な清拭による方法には限界がある。それを補うものとして、紫外線や蒸気化過酸化水素を発生させる装置や、本研究で使われた銅表面などの手法が徐々に普及しつつある。本研究では銅表面の環境汚染抑制を検証したが、研究デザインが興味深い。介入の第一段階では、区域AとBの両方に銅表面ベッドと通常ベッドを交互に配置したが、この状態では銅表面と通常ベッドの環境表面の汚染はさほど違わなかった。第二段階で銅表面ベッドを全て区域Aに配置したところ、区域Bに対して有意な低減効果が見られた。つまり、銅表面ベッドを導入するのであれば、区域全体で行う必要性が示唆された。
ただし、同じ号の本論文の後に掲載されている論評でも述べられているとおり、銅表面の効果に関しては様々な検討すべき課題がある。清掃の併施の要否、医療関連感染そのものの低減効果、病原体の銅への耐性、費用対効果などである。有用な技術だけに、今後の動向を注視したい。