ケンエー海外論文 Pickup

vol.9 アルコールベース擦式製剤による手指衛生:どのくらいの時間をかければ十分なのか?
PDFファイルで見る

背景

手指衛生は感染制御対策の中心的要素であるが、その標準的手法は定まっていない。

目的

手指衛生に要する時間の長さが医療従事者の手指上の細菌数の減少に及ぼす影響を検証した。

方法

イソプロピルアルコール60%の擦式製剤を3mL用いて、WHOの手指消毒の方法を、10,15,20,30,45,60秒で終わらせるように実施した。手指は予め実験用大腸菌で汚染させた。利き手の指先を液体培地に浸漬し、それに含まれる細菌数で手指の汚染の程度を評価した。

結果

32人の医療従事者が参加し、全部で123回の手指消毒を行った。手指衛生前の細菌数に比べて、全ての所要時間で有意な細菌数の減少がみられた(表、数字は細菌数を対数表示)。また、15秒と30秒では細菌数に差が見られなかった。表9

結論

今回の実験的状況において、15秒の手指衛生は30秒の手指衛生に比べて、手指の細菌数を減少させる点において劣っていないことが明らかになった。また、30秒よりも長い時間をかけて手指衛生を行うことに関して、メリットは無かった。

監修者コメント

手指衛生にかける所要時間に関して、WHOの手指衛生ガイドラインはあいまいな記載しかなく、CDCの手指衛生ガイドラインでは「10~15秒で終える場合、手指衛生に使用したアルコール性擦式製剤の量が少なすぎることが考えられる」としている。手指衛生はなるべく簡便に行えた方が、頻度もあがり、遵守しやすくなる。この研究をきっかけに、手指衛生に必要な時間の見直し、特に現行の30秒程度という数値から15秒程度への短縮について、議論や研究を行う必要があるだろう。