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vol.7 入院後48時間が経過してから分離された多剤耐性菌は必ずしも院内獲得とは限らない
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背景

アメリカCDCの定義によれば、入院後48時間を経過してから検出された多剤耐性菌(MDRO)の感染・保菌は、院内獲得であるとされている。しかしそのうちある割合は、院内獲得ではないにもかかわらず診断検査の遅れのために院内獲得と判定されており、感染対策の効果が期待できないものである。

目的

スイスの急性期医療機関でMDROに感染・保菌した患者を解析することにより、医療関連感染のうち防止可能な割合を推定すること。

方法

2002年から2011年までの間に「医療関連MDRO感染・保菌」または「CDCの定義による医療関連MDRO感染・保菌」と判定される症例に対して、疫学的・微生物学的・分子型別的データを加味して院内獲得かどうかを調査し、真に防止可能な割合を検証した。

結果

MDRO感染・保菌1,190例のうち、CDCの定義に合致するものが274例であった。そのうち52%のみが真の院内獲得であり、防止可能と考えられた。菌種別では、MRSAの57%、VREの83%、ESBL産生菌の44%が真の院内獲得であると考えられた。

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結論

CDCの定義は、防止できる医療関連感染を50%以上も過大評価していた。CDCの医療関連感染の定義のみに依存することは、感染対策の効果測定を不正確にする。

監修者コメント

日本の医療機関でも、入院48時間後以降に採取された検体から分離されたMDRO、特にMRSAを「院内伝播」と判定し、医療関連感染対策の効果に関する目安としているところは少なくないと思われる。しかしこのうち、半分くらいが疫学的・分子疫学的に院内獲得ではないとすれば、それ以外の基準を用いている施設との比較、またそもそも施設間の比較にあまり意味がないことになる。院内の医療従事者に対してより説得力のあるデータを提示するためにも、院内伝播の判定には個別の要因を考慮する必要があるだろう。