目的
この研究の目的は、重症患者における医療関連感染に対してクロルヘキシジングルコン酸塩(chlorhexidine gluconate, CHG)の清拭が与える影響を評価することである。
方法
本メタ解析では、PubMed、Embase、Cochraneデータベースから英語で記述された研究を評価した。日々のCHG清拭と中心ライン関連血流感染(CLABSI)、MRSA、VREの各疾患・病原体を獲得するリスクの関連性に関する全ての研究を評価するために、Cochrane Collaborationメソッドを使用した。リスク比(RR)とログリスク比の比(RRR)をその95%信頼区間とともに算出した。
結果
18個の研究が解析対象となった。従来のケア方法に比べ、CLABSI、MRSA、VREのリスク比(95%信頼区間)は0.45(0.37-0.55)、0.67(0.59-0.77)、0.60(0.42-0.85)であった(全てp<0.05)。MRSA獲得に関しては、CHG清拭のみの場合と比べ、同時に鼻腔内除菌も併用した場合に低減した(RRR:0.81、95%信頼区間:0.66-0.98、p=0.035)。長期の介入を行った研究では更に大きなリスク低減がみられた(1か月ごとのRRR:-0.02、p=0.027)。
結論
日々のCHG清拭はCLABSI、MRSA、VRE獲得のリスクを低減させた。より長期の介入や鼻腔内除菌の併用がMRSA獲得の低減と関連があった。
監修者コメント
スタッフの介助によってもシャワーや入浴を行うことができない重症患者の保清は、清拭という行為によってしばしばなされる。これは看護ケアの中でも重要な行為のひとつであるが、清拭に対するある介入が感染対策上も注目されている。それは、CHG水溶液を含んだ布で清拭することであり、従来のCHGを含まない布で清拭するよりも様々な感染症の防止効果があることがわかってきた。本研究ではこの10年ほどの研究をレビューし、メタ解析の手法を用いてその効果を検証した。アウトカムとしては、デバイス関連感染症であるCLABSIと、耐性菌(MRSAとVRE)の獲得を選択した。結果は、いずれのアウトカムもCHG清拭によってリスクが低減され、本介入の効果が明確になった。日本では、現時点でCHG清拭布は販売されておらず、清拭の適応を持つCHG含有薬液が無いこともあり、本介入が実施しにくい状況にある。使用できる薬液アレルギーなどに留意しつつ、ひろくCHG清拭を実施できるようになれば、医療関連感染症のより一層の減少につながることであろう。