CDC が小児におけるインフルエンザ関連脳症または脳炎について報告しているので紹介する1)。
はじめに
- あらゆる年齢の小児(特に特定の基礎疾患を有する5 歳未満の小児)はインフルエンザウイルスに関連する重篤または致命的な合併症を経験する可能性がある。これには、肺炎、心筋炎、心膜炎、神経学的合併症が含まれる。
- 「インフルエンザ関連脳症または脳炎(IAE: influenza-associated encephalopathy or encephalitis)」はインフルエンザウイルスによって引き起こされる一連の神経症候群で構成され、宿主の炎症反応の調節不全を引き起こし、様々なレベルの脳機能障害、炎症、またはその両方を引き起こす。
- 「急性壊死性脳症(ANE: acute necrotizing encephalopathy)」は、最も重篤な脳症の1つであり、インフルエンザやその他のウイルス(SARS-CoV-2およびヒトヘルペスウイルス6を含む)の感染の合併症である。ANEの診断は、神経学的徴候や症状の発現および発熱性疾患(急速な神経学的衰弱に先行または同時)を患う小児において、頭部CTまたはMRIによって検出された両側視床および脳の他の部位の特徴的な対称性病変に基づく。
- 2025年1月下旬、IAEによる小児の入院の事例(ANEによる数人の死亡を含む)が CDCに報告された。さらなる調査のために、CDCのインフルエンザ関連小児死亡監視システムのデータがレビューされた。
方法
- インフルエンザ関連小児死亡監視システムは、2004年以降の全米で報告義務のあるインフルエンザ関連小児死亡に関するデータを収集する全国監視システムである。
- インフルエンザ関連小児死亡とは「インフルエンザが検査で確認され、臨床的に一致する病気に罹患し、病気から死亡までの間に完全に回復する期間がない 18歳未満の小児の死亡」と定義される。
結果
2010‒11年から2024‒25年までの米国インフルエンザシーズン中に報告されたIAE症例
- 2010‒11年から2024‒25年のインフルエンザシーズンにCDCに報告された1,840人のインフルエンザ関連小児死亡のうち、166人(9%)にIAEがみられ、その範囲は0%(2020-21年シーズン)から14%(2011-12 年シーズン) であった。
- 2024‒25年シーズンの予備データ(2024年10月1日~2025年2月8日に報告) によると、死亡68人のうち9人(13%)にIAEがみられた[ 表]。
- 年齢層別に見ると、IAEの有病率は2~4歳の小児で最も高く(死亡334人中34人[10%])、6か月未満の乳児で最も低かった(死亡148人中8人[5%])。
IAE症例の特徴
- IAEを合併したインフルエンザ関連小児死亡166人では、年齢の中央値は6歳(IQR=2.5~10.5歳)、52%が女性、40%が非ヒスパニック系白人であった。
- インフルエンザAは119人(72%)、インフルエンザBが46人(28%)であった。サブタイプが判明しているインフルエンザA症例73人のうち、41人(56%)がA(H1N1)pdm09、32人(44%)がA(H3N2)であった。
- 全体で155人(93%)が人工呼吸器を必要とした。その他の記録された急性合併症には、急性呼吸窮迫症候群(57人、34%)、肺炎(54人、33%)、敗血症(47人、28%)などがあった。全死亡例のうち、159人(96%)が入院中に死亡し、2%が救急外来で死亡し、2%が病院外で死亡した。
2024~25年インフルエンザシーズン中のIAEおよびANE症例
- 2025年2月8日までの2024-25年シーズン中にCDCに報告されたIAE によるインフルエンザ関連小児死亡は9人で、うち4人はANEと診断されていた(ANEによる死亡2人が州保健局からCDCに積極的に報告され、CDCが州に働きかける中でさらに2人の死亡が特定された)。
- ANEによる死亡4人はいずれも5歳未満で、1人には基礎疾患があり、4人とも検査でインフルエンザA(H1N1)pdm09が確認された。
- ANEの小児2人は発症の2週間以上前にインフルエンザワクチン接種を受けていたが、その他の小児は2024-25年のインフルエンザシーズン中にインフルエンザワクチンを接種していなかった。
- ANEの小児2人はオセルタミビル治療を受け、2人は入院中に発作を起こし、4人全員が人工呼吸器を使用した。
考察
- CDCは、インフルエンザ関連のANEまたはIAEの症例に関するデータを体系的に収集していないが、2024-25年のシーズン中(2025年2月8日まで)のインフルエンザ関連小児死亡監視システムでは、症例の13%でIAEが検出され、そのうち4人がANEと診断されていた。
- IAEは米国では届出義務がないが、感染による脳症や脳炎が届出義務のある日本では、2010年から2015年までの全年齢層での症例数はシーズンあたり64~105件であった。症例の74% は18歳未満で、18歳未満のIAE症例の致死率は8%であった。
- 3つの主要なIAE症候群が報告されている。ANEは最も重篤な形態で、長期にわたる神経学的後遺症および致死率が高く、次に二相性発作および遅発性拡散低下(磁気共鳴画像法では通常、組織損傷または異常を示す所見)を伴う急性脳症、および可逆性脳梁膨大部病変を伴う臨床的に軽度の脳炎または脳症が続く。その他のあまり報告されていないIAE症候群には、難治性部分発作を伴う急性脳症および可逆性後頭葉白質脳症がある。
- インフルエンザ関連ANEを含むANEの診断基準には「神経学的徴候や症状の発現に先行または同時の発熱性疾患」「急速な神経学的衰弱」「両側視床および脳の他の部位に影響を及ぼす対称性の病変を示す神経画像検査」などが含まれる。
- 小児のIAE症例で報告されている以下の特徴は、臨床判断と併せて、サーベイランス目的または臨床診断に有用である:「①18歳未満」「②インフルエンザウイルスが検査で確認される」「③脳症または脳炎の診断、または神経学的徴候または症状(発作、精神状態の変化、せん妄、意識レベルの低下、無気力、幻覚、24時間を超えて続く人格の変化を含む)」「④脳浮腫、炎症、脳病変などの神経画像異常(常に存在するとは限らない)または脳波異常などがあり、他の既知の疾患原因がない」
- インフルエンザの症状発現後、IAEによる重篤な神経障害および死亡への進行は急速に起こる可能性がある。そのため、迅速な認識および介入が極めて重要であり、それには頭蓋内圧亢進を伴う患者に対する神経集中治療および多臓器不全の管理が含まれる。
- インフルエンザ関連合併症のリスクが高い小児には抗ウイルス治療の早期開始が推奨されるが、抗ウイルス治療が IAEの管理に有益であるかどうかは不明である。ある研究では、オセルタミビル治療がインフルエンザ患者の神経精神疾患イベントのリスク低下と関連していることが報告されている。
- 現在、IAE症例の標準化された臨床管理に関するエビデンスに基づく国際的ガイドラインはないが、高用量メチルプレドニゾロンパルス、血漿交換、治療的低体温、およびガンマグロブリン、アナキンラ(インターロイキン-1受容体拮抗薬)、トシリズマブ(インターロイキン-6受容体遮断薬)などの免疫療法が使用されている。
- ある研究では、非ステロイド性抗炎症薬のジクロフェナクナトリウム(アセトアミノフェンではない)の使用がIAE 症例の死亡率の上昇と関連していた。
公衆衛生実践への影響
- 医療従事者は、発熱性疾患および臨床的に適合する神経学的徴候または症状(発作、精神状態の変化、せん妄、意識レベルの低下、無気力、幻覚、24時間を超えて続く人格の変化を含むがこれらに限定されない)のある小児にはIAEを考慮する必要がある。
- IAEの徴候または症状、ならびに急速な神経学的衰弱および両側の視床および脳の他の部分を侵す対称性の病変を示す神経画像検査がある小児ではインフルエンザ関連ANEを考慮する必要がある。
- 包括的な評価と管理には、インフルエンザおよびその他のウイルスの検査、神経画像検査、インフルエンザが確定または疑われる場合の抗ウイルス治療の早期開始(つまり、医療従事者は抗ウイルス治療を開始する前にインフルエンザの検査確認を待つべきではない)、および IAEに必要な支持的な集中治療管理が含まれる。
文献
- Fazal A,et al. Reports of Encephalopathy Among Children with In fluenza-Associated Mortality ̶ United States, 2010‒11 Through 2024‒25 Influenza Seasons
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/74/wr/pdfs/mm7406a3-H.pdf
矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問