ケンエーIC News

158号 CDCのインフルエンザワクチン推奨の変遷
PDFファイルで見る
 CDCは毎年8月末にインフルエンザワクチンの推奨を更新している。ここで2002年以降の24年間の推奨の変遷を紹介する1-3)

インフルエンザワクチンの接種対象者

[ポイント]

2002年以降のCDCのインフルエンザワクチン推奨の傾向は、より多くの人々へのワクチン接種を推奨する方向に明確にシフトしている。初期の推奨は、主に高リスク群に集中していたが、時間の経過とともに、健康な成人や小児を含むより広範な集団に拡大してきた。

[推奨の変更]

2008年:5歳から18歳までのすべての小児への毎年のワクチン接種を推奨した。これは、小児がインフルエンザに感染しやすく、学校や地域でウイルスを拡散する可能性が高いという認識に基づくものである。
2010年:禁忌がない限り、生後6ヶ月以上のすべての人への毎年のインフルエンザワクチン接種を推奨するという、より包括的な推奨に移行した。この推奨は、すべての人がインフルエンザのリスクがあり、ワクチン接種は自分自身と周りの人を守る最善の方法であるという考え方を反映している。
これらの推奨の変更に加えて、CDCは、「医療従事者、妊婦、長期ケア施設の居住者」など、特定の高リスク群へのワクチン接種の重要性を一貫して強調してきた。この集団は、インフルエンザによる合併症のリスクが高いため、ワクチン接種による恩恵が特に大きい。

妊婦へのインフルエンザワクチンの接種

[ポイント]

2002年~2006年は妊婦への推奨を明記しつつ、低い接種率を問題視していた。
2007年~2016年は安全性と有効性に関するエビデンスが蓄積された。2017年以降は接種時期の明確化と安全性に対するさらなる研究が行われ、現在はインフルエンザワクチンは妊娠中のすべての段階で安全かつ効果的であるとされ、積極的に推奨されている。

[推奨の変更]

2003年:インフルエンザシーズン中に妊娠後期に入る女性がワクチン接種の対象として明記された。2008年:妊婦は高リスクグループとして明記され、2009年には妊娠中のインフルエンザ感染が、母体への合併症リスクや入院リスク、医療機関受診の増加につながることが複数の研究で示された。
2009年~2010年:妊娠中のインフルエンザワクチン接種には、胎児への悪影響(低出生体重、先天異常、アプガースコアの低下)がないことが報告された。
2010年~2016年:妊婦は一貫してインフルエンザワクチン接種の対象者に含まれた。
2017年:妊娠中のどの段階でもインフルエンザワクチンを接種できることが明記された。
2018年~2019年:生インフルエンザワクチンについては妊婦には禁忌とされ、不活性化ワクチンが推奨された。
2021年:妊婦はワクチン接種を強く推奨されるグループに分類された。
2023年:妊娠中のどの段階でもインフルエンザワクチン接種が可能であることが再確認された。
2024年:インフルエンザワクチンは妊娠中のすべての段階で安全かつ効果的であると結論付けられ、早産、流産、死産のリスクを高めることはないとされた。

卵アレルギーを持つ人へのインフルエンザワクチンの接種

[ポイント]

CDCのインフルエンザワクチン推奨における卵アレルギーに関する記述は、初期は卵アレルギーを持つ人への接種は禁忌とされていたが、研究の進展により、徐々に制限が緩和されてきた。そして、現在では、卵アレルギーを持つすべての人が、年齢や健康状態に適したインフルエンザワクチンを接種すべきであると推奨されている。

[推奨の変更]

2002年~2010年:卵アレルギーへの対応の模索の時期であり、卵摂取後にじんましん以外の症状が出たことがある人や、アナフィラキシーの既往がある人は、医師に相談の上、ワクチン接種を受けるかどうか判断するように推奨されていた。
2011年~2015年:研究の進展により、卵アレルギーを持つ人に対しても積極的にインフルエンザワクチンを接種するように推奨が変化した。2011年、ACIP(ワクチン接種に関する諮問委員会: Advisory Committee for Immunization Practices)は、卵摂取後にじんましんのみが出たことがある人は、追加の安
全対策を講じた上で、不活化インフルエンザワクチンを接種できると推奨した。その根拠となったのは、卵アレルギーを持つ人を含めた4,172人の患者を対象としたデータレビューである4)。このレビューでは、アナフィラキシーの発生は報告されなかったことから、卵アレルギーを持つ人でも卵ベースのインフルエンザワクチンによる重篤なアレルギー反応は起こりにくいという結論に至った。
2016年以降:卵アレルギーに関する制限が緩和された。2023年、ACIPは、卵アレルギーを持つすべての人は、年齢や健康状態に適したインフルエンザワクチンを接種すべきであるという推奨を発表した。卵アレルギーの既往歴のみならば、他のワクチン接種者と同様の安全対策で十分であり、特別な対策は不要となった。

文献

  1. CDC. Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices ̶ United States, 2024‒25 Influenza Sea son
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/rr/pdfs/rr7305a1-H.pdf
  2. CDC. MMWR Recommendations and Reports: Past Volumes (1990-2023)より抜粋
    https://www.cdc.gov/mmwr/mmwr_rr/rr_pvol.html
  3. CDC. MMWR Weekly: Past Volumes (1982-2023)より抜粋
    https://www.cdc.gov/mmwr/mmwr_wk/wk_pvol.html
  4. Des Roches A, et al. Egg-allergic patients can be safely vaccin ated against influenza. J Allergy Clin Immunol 2012;130:1213‒6.e1.

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問