スプラッシュパッド(splash pad)は水が噴き出す装置やスプレーが設置された遊び場であり、ユーザー(殆どが子ども)に向けて水をスプレーまたはジェット噴射する。幼児であっても溺れることはなく、十分に楽しむことができる。しかし、幼児の臀部を洗い流した水が噴霧されることから、便に含まれている病原体によるアウトブレイクを引き起こすことがある。CDCがスプラッシュパッド関連アウトブレイクについて報告しているので紹介する1)。
はじめに
- 1990年代に登場したスプラッシュパッドは、ユーザーがアクセスできるエリアに水が溜まらないように設計されている。この機能により溺死のリスクが最小限に抑えられるが、感染性または化学性病因による水系感染症のアウトブレイクが引き起こされることがある。
- このレポートは、1997年(2件のスプラッシュパッド関連アウトブレイクが初めて報告された年)から2022年(データが利用可能な最新の年)までに、CDCに報告されたスプラッシュパッド関連アウトブレイクに関するデータを要約したものである。
結果
- 1997年から2022年の間に、米国23州とプエルトリコの公衆衛生当局は、60件のスプラッシュパッド関連アウトブレイクを報告した[図表1]。これらのアウトブレイクにより、10,611人の患者、152人の入院、99人の救急外来受診が発生したが、死亡者は報告されていない。
- 水系感染症のアウトブレイクの原因が、60件のアウトブレイクのうち52件(87%)で検査により確認された[図表2]。クリプトスポリジウム属は40件(67%)のアウトブレイク(ジアルジア属も原因が1 件、赤痢菌属も原因が1件を含む)を引き起こした。その結果、9,622人(91%)の患者が報告され、123人(81%)が入院し、21人(21%)が救急外来を受診した。
- 具体的には、Cryptosporidium hominisが14件(23%)のアウトブレイクを引き起こした。その結果、7,833人(74%)の患者、97人(64%)の入院、3人(3%)の救急外来受診が発生した。C.hominisは、3件の大きなアウトブレイク(2,307人、2,050人、2,000人)も引き起こしている。
- Cryptosporidium parvumは4件(7%)のアウトブレイクを引き起こし、9人(<1%)の患者、2人(2%)の救急外来受診が発生したが、入院はなかった。
- クリプトスポリジウム属(種不明)は17件(28%)のアウトブレイクを引き起こし、1,478人(14%)の患者、21人(14%)の入院、6人(6%)の救急外来受診という結果となった。クリプトスポリジウム属(複数の種)は3件(5%)のアウトブレイクを引き起こし、199人(2%)の患者、10人(10%)の救急外来受診、1人(1%)入院という結果となった。
- 赤痢菌は5件のアウトブレイク(うち 1件はクリプトスポリジウム属によるものも含む)、大腸菌 O157:H7は3件のアウトブレイク、Campylobacter jejuni、Giardia duodenalis(クリプトスポリジウム属によるものも含む)、ノロウイルス、Salmonella serotype Newport はそれぞれ 1件のアウトブレイクを引き起こした。これらの 12件(20%)のアウトブレイクにより、急性胃腸疾患の患者が271人(3%)、入院が 16人(11%)、救急外来受診が 6人(6%)となった。
- スプラッシュパッド関連アウトブレイクで報告された 99人の救急外来受診のうち、72人(73%) はノロウイルスが原因と疑われる 2件のアウトブレイクによるものであった。
- スプラッシュパッド関連アウトブレイク60件のうち、57件(95%)は5月から8月に報告された[図表3]
考察
- クリプトスポリジウム属は、CDC に報告されたスプラッシュパッド関連アウトブレイクで最も頻繁に確認されている病因である。この寄生虫は感染者の排泄物で汚染された水を摂取することで伝播し、急性胃腸疾患を引き起こす。
- 5歳未満の幼児の急性胃腸疾患が最も多く報告された。幼児はトイレや衛生スキルを習得している可能性が低く、水泳用おむつではレクリエーション用水の排泄物による汚染を防ぐことはできない。
- スプラッシュパッドで遊んでいる子どもが、水流の上に座ったり立ったり、おむつや水泳用おむつを着用したりすることがよく見られる。前者の行動により、おむつや肛門周囲の表面が洗い流されるが、この部位には幼児では10gもの排泄物が付着している可能性がある。このように、スプラッシュパッドはその設計上、病原菌による汚染のリスクが高い。
- 一般に、子どもは成人よりもレクリエーション用水を多く摂取し、スプレーされた水やジェット水に口を開けて触れることが多いため、子どもがスプラッシュパッドの汚染された水に含まれる病原菌に晒されるリスクが高い。
- 塩素は化学消毒薬であり、レクリエーション用水による病原体の伝播に対する主なバリアとなっている。ほとんどの病原体(細菌やウイルスなど)は、pHが7.2 ~7.8、温度が25℃の場合、遊離塩素濃度1ppmの水で数分以内に不活性化される。
- CDCは、一般に公開されている処理済みのレクリエーション用水の場所(スプラッシュパッドを含む)では、遊離塩素濃度を最低1ppmにすることを推奨している。しかし、スプラッシュパッドでは、水を噴霧または噴射すると遊離塩素がエアロゾル化して濃度が低下するので、適切な遊離塩素濃度を維持することが困難である。適切な遊離塩素濃度を維持しないと、遊離塩素によって容易に不活性化される病原体の伝播のリスクが高まる。
- クリプトスポリジウム属のオーシストは塩素に耐性がある。温度25℃、pH7.2~7.8の場合、オーシストは1ppmの遊離塩素を含む水中で 7日以上生存できる。
- オーシストの塩素耐性が非常に高いため、遊離塩素濃度が適切であっても、スプラッシュパッドの水でクリプトスポリジウム属が伝播することがある。
- クリプトスポリジウム属は遊離塩素で容易に不活化される病原体によって引き起こされるアウトブレイクよりも大規模なアウトブレイクを引き起こすことがある。
文献
- Lawinger H, et al. Waterborne disease outbreaks associated with splash pads ̶ United State,1997‒2022
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/ss/pdfs/ss7308a1-H.pdf
矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問