1998年、CDCは「医療従事者における感染制御に関するガイドライン」1)を公開し、医療従事者と患者の間での感染症の伝播の予防についての情報と推奨を提供した。今回の更新版「医療従事者における感染制御:医療従事者と患者の間で伝播する特定の感染症の疫学と制御」2)は、1998年ガイドラインの一部に取って代わるものである。推奨事項を抜粋して紹介する。
ジフテリア
- ワクチン接種の有無にかかわらず、医療従事者がジフテリアに曝露した場合:
・曝露後予防を実施する。
・仕事から外し、ジフテリア培養のために鼻腔および咽頭のスワブを採取する。
- 鼻腔および咽頭培養で毒素産生性ジフテリア菌が検出されなかった場合、医療従事者は曝露後の抗菌薬療法を完了しな
がら仕事に戻ることができる。
- 鼻腔または咽頭培養で毒素産生性ジフテリア菌が検出された場合:
a .曝露後の抗菌薬療法を完了する。
b .医療従事者は、以下の場合に仕事に戻ることができる。
ⅰ.曝露後の抗菌薬療法が完了し、かつ、
ⅱ.曝露後の抗菌薬療法の完了後少なくとも24時間が経過し、少なくとも24時間の間隔を空けて採取した2回連
続の鼻腔および咽頭培養で、毒素産生性ジフテリア菌が検出されない。
・最後の曝露後7日間、ジフテリアの兆候と症状を毎日監視する。 - 呼吸器ジフテリア感染症の医療従事者は、以下の期間まで仕事から外す。
・抗菌薬および抗毒素(必要な場合)療法が完了し、かつ、
・抗菌薬療法の完了後少なくとも24時間が経過し、少なくとも24時間の間隔を空けて採取した2回連続の鼻腔および咽頭
培養で、毒素産生性ジフテリア菌が検出されない。 - 皮膚ジフテリア感染症またはその他のジフテリア感染症の症状がある医療従事者については、連邦、州、地方の公衆衛生当局と協議して、仕事から外す期間を決定する。
A群連鎖球菌
- A群連鎖球菌に曝露した医療従事者には、曝露後予防および仕事の制限は必要ない。
- A群連鎖球菌の感染が判明または疑われる医療従事者については、可能であれば感染部位からA群連鎖球菌の検体を採取する。そして、排膿している皮膚病変が適切に封じ込められ覆われるならば、A群連鎖球菌感染が除外されるまで、または有効な抗菌薬療法の開始後24時間が経過するまで仕事から外す。
・排膿している皮膚病変を適切に封じ込めたり覆ったりすることができなければ(顔、首、手、手首など)、病変からの
排膿がなくなるまで、仕事から外す。 - A群連鎖球菌の保菌が判明または疑われる医療従事者については、医療現場における病原体の伝播と疫学的に関連がない限り、仕事の制限は必要ない。
- A群連鎖球菌を保菌している医療従事者が医療現場での病原体の伝播と疫学的に関連のある場合:
・CDCの推奨に従って抗菌薬療法を実施し、かつ、
・有効な抗菌薬療法の開始後24時間が経過するまで仕事から外し、かつ、
・抗菌薬療法の完了後7~10日目に、感染部位から検体を採取してA群連鎖球菌の検査を行う。検査が陽性の場合は、抗菌
薬療法を繰り返し、有効な抗菌薬療法の開始後24時間が経過するまで再度仕事から外す。
麻疹
- 麻疹に対する免疫のエビデンスがあると推定される医療従事者が麻疹に曝露し、無症状の場合:
・曝露後予防は必要ない。
・仕事の制限は必要ない。
・最初の曝露後5日目から最後の曝露後21日目まで、麻疹の兆候と症状を毎日監視する。 - 麻疹に対する免疫のエビデンスがないと推定される医療従事者が麻疹に曝露し、無症状の場合:
・CDCおよびACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会:Advisory Committee on Immunization Practices)の推奨に
従って曝露後予防を実施する3)。
・曝露後予防を受けているかどうかに関わらず、最初の曝露後5日目から最後の曝露後21日目まで、仕事から外す。
・曝露前にMMRワクチン(麻しん・風しん・ムンプス混合ワクチン)の初回接種を受けた医療従事者には仕事の制限は必
要ない。
-できるだけ早く(1回目の接種から少なくとも28日後)、MMRワクチンの2回目を接種する。
-最初の曝露後5日目から最後の曝露後21日目まで、麻疹の兆候と症状を毎日監視する。 - 麻疹が判明または疑われる医療従事者は、発疹が出てから4日間は仕事から外す。
- 麻疹が判明または疑われる免疫不全の医療従事者は、病気の期間中は仕事から外す。
- 麻疹のアウトブレイク時には、CDCとACIPの推奨に従って、医療従事者に麻疹ワクチンを接種する3)。
髄膜炎菌感染症
- ワクチン接種の有無にかかわらず、髄膜炎菌に曝露した医療従事者には予防的抗菌薬療法を実施する。
- 侵襲性髄膜炎菌感染症に罹患した医療従事者は、有効な抗菌薬療法の開始後24時間までは仕事から外す。
- 鼻咽頭にのみ髄膜炎菌を保有している医療従事者には仕事の制限は必要ない。
ムンプス
- ムンプスに対する免疫のエビデンスがあると推定される医療従事者がムンプスに曝露し、無症状の場合:
・仕事の制限は必要ない。
・最初の曝露後10日目から最後の曝露後25日目まで、ムンプスの兆候と症状を毎日監視する。 - ムンプスに対する免疫のエビデンスがないと推定される医療従事者がムンプスに曝露し、無症状の場合:
・最初の曝露後10日目から最後の曝露後25日目まで、仕事から外す。
・曝露前にMMRワクチンの初回接種を受けた医療従事者には仕事の制限は必要ない。
-できるだけ早く(1回目の接種から少なくとも28日後)、MMRワクチンの2回目を接種する。
-最初の曝露後10日目から最後の曝露後25日目まで、ムンプスの兆候と症状を毎日監視する。 - ムンプスが判明または疑われる医療従事者は、耳下腺炎の発症後5日間は仕事から外す。
- 耳下腺炎はないが、ムンプスが判明または疑われる医療従事者は、最初の症状が現れてから5日間は仕事から外す。
- ムンプスのアウトブレイク時には、CDCとACIPの推奨に従って、医療従事者にムンプスワクチンを接種する3)。
百日咳
- ワクチン接種の有無にかかわらず、重症百日咳のリスクが高い人と接触する可能性のある医療従事者が百日咳に曝露し、無症状の場合:
・曝露後予防を実施する。
・曝露後予防を受けない場合は、最後の曝露後21日間は、重症百日咳のリスクが高い患者やその他の人との接触を制限す
る(例:休職、職務制限、配置転換)。 - ワクチン接種の有無にかかわらず、重症百日咳のリスクが高い人と接触する可能性が低い医療従事者が百日咳に曝露し、無症状の場合:
・曝露後予防を行う、または
・最後の曝露後21日間、百日咳の兆候や症状の発現を毎日監視する。 - ワクチン接種の有無にかかわらず、百日咳によって悪化する可能性のある既存の健康状態のある医療従事者が百日咳に曝露し、無症状の場合:
・曝露後予防を実施する。 - 百日咳が判明または疑われる医療従事者に症状がある場合、咳の発症から21日間、または有効な抗菌薬療法の開始後5日間は仕事から外す。
- 重症百日咳のリスクが高い人との接触のリスクにかかわらず、百日咳に曝露し、曝露後予防を受けている無症状の医療従事者には仕事の制限は必要ない。
狂犬病
- 狂犬病ウイルスに曝露した医療従事者には曝露後予防を実施する。
- 狂犬病ウイルスに曝露した無症状の医療従事者には仕事の制限は必要ない。
- 狂犬病ウイルス感染が判明または疑われる医療従事者については、連邦、州、および地方の公衆衛生当局と協議の上、仕事から外す。
風疹
- 風疹に対する免疫のエビデンスがあると推定される医療従事者が風疹に曝露し、無症状の場合:
・仕事の制限は必要ない。
・最初の曝露後7日目から最後の曝露後23日目まで、風疹の兆候と症状を毎日監視する。 - 風疹に対する免疫のエビデンスがない医療従事者が風疹に曝露し、無症状の場合は、最初の曝露後7日目から23日目まで、仕事から外す。
- 風疹が判明または疑われる医療従事者は、発疹が出てから7日間は仕事から外す。
水痘帯状疱疹ウイルス
- 水痘に対する免疫のエビデンスがある医療従事者が水痘または帯状疱疹(全身性もしくは局所性)に曝露し、無症状の場合:
・曝露後予防は必要ない。
・仕事の制限は必要ない。
・最初の曝露後8日目から最後の曝露後21日目まで、水痘の兆候と症状を毎日監視する。 - 水痘に対する免疫のエビデンスがない医療従事者が水痘または帯状疱疹(全身性もしくは局所性)に曝露し、無症状の場合:
・CDCおよびACIPの推奨に従って曝露後予防を実施する4,5)。
・最初の曝露後8日目から最後の曝露後21日目まで、仕事から外す。
-曝露前に水痘ワクチンを1回接種している医療従事者の場合、曝露後5日以内に2回目のワクチン接種を受けるなら
ば、仕事の制限は必要ない。
a .最初の曝露後8日目から最後の曝露後21日目まで、水痘の兆候と症状を毎日監視する。
-曝露後予防として水痘帯状疱疹免疫グロブリンを投与した場合は、最初の曝露後8日目から最後の曝露後28日目まで
仕事から外す。 - 水痘に罹患した医療従事者については、すべての病変が乾燥して痂疲になるまで仕事から外す。
また、痂疲のない非水疱性病変のみがある医療従事者については、24時間以内に新たな病変が現れなくなるまで仕事から外す。 - 全身性帯状疱疹の医療従事者、または局所性帯状疱疹の免疫不全の医療従事者については、全身性疾患が除外されるまで、すべての病変が乾燥して痂疲になるまで仕事から外す。
- ワクチン株の帯状疱疹を含む局所性帯状疱疹を有する正常免疫能の医療従事者、および局所性帯状疱疹を有し全身性疾患が除外されている免疫不全の医療従事者の場合:
・すべての病変を覆い、可能であれば、すべての病変が乾燥して痂疲ができるまで、重症水痘のリスクが高い患者の直接
ケアから外す。
・病変を覆うことができない場合(手や顔など)、すべての病変が乾燥して痂疲ができるまで仕事から外す。
妊娠中の医療従事者
- 胎児に害を及ぼす可能性のある感染症(サイトメガロウイルス[CMV]、ヒト免疫不全ウイルス[HIV]、ウイルス性肝炎、単純ヘルペス、パルボウイルス、風疹、水痘など)の患者の治療から、妊娠または妊娠の予定があるという理由だけで医療従事者を日常的に除外しない。
文献
- Bolyard EA, et al. Guideline for infection control in healthcar e personnel, 1998. Hospital Infection Control Practices Advisory Committee. Infect Control Hosp Epidemiol. 1998;19(6):4 07-463.
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矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問