淋菌感染症の治療
以下の推奨事項は、妊婦やHIV感染者を含む成人および青少年に適用される。利用可能な場合は国または地域の抗菌薬耐性データに基づいて治療法の選択を決定することを推奨する。
淋菌感染症の治療に関する推奨事項
[ 1 ] 性器、肛門直腸、および/または口腔咽頭の淋菌感染症を患っている成人および青年(妊婦を含む)に対して、WHOは以下を推奨する。
・セフトリアキソン1g(単回)を筋肉内投与する。
[ 2 ] セフトリアキソンが入手できない場合または拒否された場合、WHOは以下を提案する。
・セフィキシム800mgを経口投与し、治癒検査を実施する。
[ 3 ] 治癒検査が不可能な場合、または口腔咽頭感染症が診断されたり、潜在的な懸念がある場合、 WHOは次のように提案する。
・セフィキシム800mgを経口投与し、かつ、アジスロマイシン2gを経口投与する。
[ 4 ] セファロスポリンに対する耐性、アレルギー、入手可能性が懸念される場合、WHOは次のいずれかの選択肢を提案する(条件付き推奨、効果のエビデンスの確実性は低い)。
・スペクチノマイシン2g(単回)を筋肉内投与し、かつ、アジスロマイシン2gを経口投与する。
・ゲンタマイシン240mg(単回)を筋肉内投与し、かつ、アジスロマイシン2gを経口投与する。
備考:
・セフトリアキソン1gを筋肉内投与すると痛みを伴う場合がある。注射時に希釈剤としてリドカインを使用するかどうか、患者と話し合うとよい。
・アジスロマイシン2gは、特に空腹時に胃腸の副作用を引き起こすことがある。副作用を軽減するために、アジスロマイシン1gを6~12時間間隔で服用することを検討する。
・性行為の禁欲、コンドームの使用、パートナーの治療について話し合う必要がある。
・妊婦では、副作用(アナフィラキシーショックを含むアレルギー反応、 早産、早期破水など)がないか注意深く監視する必要がある。
治療失敗後の淋菌感染症の治療に関する推奨事項
症状が持続したり、淋菌感染の検査結果が陽性であったりして、治療が失敗した淋菌感染症の成人および青年(妊婦を含む)の場合、WHOは、再感染または抗菌薬耐性の可能性を考慮して治療法を選択することを推奨する。
[ 1 ]WHOが推奨していない治療法の後に治療の失敗が発生した場合、WHOはWHO推奨の治療法で再治療することを推奨する。
[ 2 ] 再感染が疑われる場合、WHOはWHO推奨の治療法で治療を再開し、性行為の自粛、コンドームの使用、パートナーの治療の必要性を強調することを提案する。
[ 3 ] 治療が失敗し、抗菌薬感受性試験データが利用可能な場合、WHOは感受性プロファイルに従って、再治療することを推奨する。
[ 4 ]WHO推奨の治療法の後に治療の失敗が発生し、再感染の可能性が低いと評価された場合、WHOは、以下のいずれかのオプションから、過去に使用したことのない治療法で治療を再開し、治癒検査を行うことを推奨する(条件付き推奨、効果のエビデンスの確実性は非常に低い)。
・セフトリアキソンを過去に使用したことがない場合にのみ、セフトリアキソン1g(単回)を筋肉内投与し、かつ、アジスロマイシン2gを経口投与する。
・スペクチノマイシン2g(単回)を筋肉内投与し、かつ、アジスロマイシン2gを経口投与する。
・ゲンタマイシン240mg(単回)を筋肉内投与し、かつ、アジスロマイシン2gを経口投与する。
備考:
・再治療を遅らせてはならない。患者がこれらの治療失敗の推奨事項に反応しない場合は、さらなる評価と管理のために専門医に紹介する。
クラミジア感染症の治療
単純性クラミジア感染症(性器、肛門直腸、口腔咽頭)の治療に関する推奨事項
[ 1 ] 成人および青年の単純性クラミジア感染症(性器、肛門直腸、および/または口腔咽頭)に対して、WHOは以下を推奨する。
・ドキシサイクリン100mgを1日2回(7日間)経口投与する。
[ 2 ] ドキシサイクリンが入手できない場合、または複数回の投与の遵守が深刻な懸念事項である場合、WHOは以下を提案する。
・アジスロマイシン1g(単回)を経口投与する。
[ 3 ] ドキシサイクリンおよびアジスロマイシンが入手できない場合、WHOは以下のいずれかの選択肢を提案する(条件付き推奨、効果のエビデンスの確実性は中程度である)。
・エリスロマイシン500mgを1日4回( 7日間)経口投与する。
・オフロキサシン200~400mgを1日2回( 7日間)経口投与する。
・テトラサイクリン500mgを1日4回(7日間)経口投与する。
備考:
・ドキシサイクリン徐放剤(ER:extended release)は、ドキシサイクリンの1日2回投与の代替手段となることがあるが、コストが高いため使用できない可能性がある。
・淋菌感染症の代替治療法(セフィキシム800mgとアジスロマイシン2gの併用)を使用する場合、クラミジア感染症をカバーするためにアジスロマイシン2gの投与量を維持する。
・ドキシサイクリン、テトラサイクリン、オフロキサシンは妊娠中および授乳中の女性には禁忌である。
妊婦および授乳中の女性におけるクラミジア感染症の治療に関する推奨事項
[ 1 ] 合併症のないクラミジア感染症の妊娠中および授乳中の女性に対して、WHOは以下を推奨する(強い推奨、効果のエビデンスの確実性は中程度である)。
・アジスロマイシン1g(単回)を経口投与する。
[ 2 ] アジスロマイシンが入手できない場合、WHOは以下のいずれかの選択肢を提案する(条件付き推奨、効果のエビデンスの確実性は低い)。
・アモキシシリン500mgを1日3回(7日間)経口投与する。
・エリスロマイシン500mgを1日4回(7日間)経口投与する。
備考:
・淋菌感染症の代替治療(セフィキシム800mg とアジスロマイシン2gの併用)を使用している場合は、クラミジア感染症をカバーするためにアジスロマイシン2gの投与量を維持する。
梅毒の治療(妊婦)
以下の推奨事項は妊婦に適用され、感染期間によって異なる。これには、早期梅毒(第1期、第2期、感染期間が2年以内の早期潜伏梅毒)、後期梅毒(感染期間が2年を超える後期潜伏梅毒および第3期梅毒)、または梅毒感染期間が不明の場合が含まれる[ 註釈]。
妊婦における早期梅毒の治療に関する推奨事項
[ 1 ] 早期梅毒の妊婦に対して、WHOは以下を推奨する(強く推奨されるが、効果のエビデンスの確実性は非常に低い)。
・ベンザチンペニシリンG240万単位(単回)を筋肉内投与する。
[ 2 ] ベンザチンペニシリンが入手できない場合、WHOは以下を推奨する。
・プロカインペニシリン120万単位を1日1回(10日間)筋肉内投与する。
[ 3 ] ベンザチンまたはプロカインペニシリンが使用できない場合(人口の3% 未満に発生するペニシリンアレルギーが確認され、ペニシリン脱感作が不可能な場合など)または入手できない(在庫切れなど)という稀な状況では、WHOは、慎重かつ強化されたフォローアップを伴って、以下のいずれかのオプションを提案する(条件付き推奨、効果のエビデンスの確実性は非常に低い)。
・セフトリアキソン1gを1日1回(10~14日間)筋肉内投与する。
・エリスロマイシン500mgを1日4回(14日間)経口投与する。
備考:
・梅毒のステージが不明な場合は、後期梅毒の妊婦に対する推奨事項に従う。
・エリスロマイシンは妊婦を治療できるが、胎盤を完全に通過しないため、胎児は治療されない。そのため、出産後すぐに新生児を治療する必要がある。
・ドキシサイクリンは妊婦には禁忌である。
妊婦における後期梅毒または感染期間不明の場合の治療に関する推奨事項
[ 1 ] 後期梅毒または感染期間が不明な妊婦に対して、WHOは以下を推奨する(強く推奨されるが、効果のエビデンスの確実性は非常に低い)。
ベンザチンペニシリンG240万単位を週1回(3週間連続)筋肉内投与する。
備考:
・ベンザチンペニシリンGの連続投与間隔は14日を超えないようにする。
[ 2 ] ベンザチンペニシリンが入手できない場合、WHOは以下を推奨する。
・プロカインペニシリン120万単位を1日1回(20日間)筋肉内投与する。
[ 3 ] ベンザチンまたはプロカインペニシリンが使用できない場合(人口の3%未満に発生するペニシリンアレルギーが確認され、ペニシリン脱感作が不可能な場合など)または入手できない(在庫切れなど)という稀な状況では、WHOは、慎重かつ強化されたフォローアップを伴って、以下を使用することを推奨する(条件付き推奨、効果のエビデンスの確実性は非常に低い)。
・エリスロマイシン500mgを1日4回(30日間)経口投与する。
備考:
・エリスロマイシンは妊婦を治療できるが、胎盤を完全に通過しないため、胎児は治療されない。そのため、出産後すぐに新生児を治療する必要がある。
・ドキシサイクリンは妊婦には禁忌である。
[註釈]
早期梅毒(early syphilis)2) CDCは感染から1年以内を早期梅毒とし、それ以降を後期梅毒(late syphilis)と定義している。 WHOは感染から2年以内を早期梅毒とし、それ以降を後期梅毒としている。
文献
- WHO. Updated recommendations for the treatment of Neisseria go norrhoeae, Chlamydia trachomatis and Treponema pallidum (syphilis), and new recommendations on syphi lis testing and partner service
https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/378213/9789240090767-eng.pdf - Tiecco G, et al. A 2021 Update on Syphilis: Taking Stock from Pathogenesis to Vaccines. Pathogens. 2021; 10(11):1364.
矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問