最近、ニューヨークに到着した中南米からの移民において水痘のアウトブレイクが発生している。その詳細がCDCの週報(MMWR)に記述されているので紹介する1)。
調査と結果
水痘のアウトブレイクの特定
- 2022年春以来、ニューヨーク市は約18万人の移民を歓迎し、医療サービス、法的サービス、教育、住宅などの支援を提供してきた。移民の多くは米国への亡命を求めている。
- 現在、約6万5千人の亡命希望者が、市が運営するシェルターや居住施設で暮らしている。多くの移民は、「水痘ワクチンを定期予防接種プログラムに含めていない国」や「定期予防接種プログラムが中断されている国」の出身である。
- 2022年10月、ニューヨーク市保健精神衛生局は、中南米から最近移住したか中南米を通過した居住施設の居住者の間で水痘の症例3人を特定し、さらなる調査を実施した。これらの最初の症例の特定以来、この集団において水痘のアウトブレイクが続いている。
アウトブレイク関連水痘症例の特定と分類
- アウトブレイク関連症例とは、臨床的に適合する水痘発疹(すなわち、全身性斑状丘疹状および水疱性発疹)があり、「2022年6月以降に中南米からまたは中南米を経由して最近移住した人」または「移住した人と疫学的関連がある人(学校、居住地、南の国境を通過しての他国から米国への移住など)」で、医療提供者による水痘または帯状疱疹の診断または曝露がある場合と定義された。
- 症例は、医療提供者、避難所、居住施設、学校から保健局に報告された。そして、患者の聞き取り、電子検査報告、救急科の主訴や水痘を示す退院時の診断の症候群調査を通じて、追加の症例発見が行われた。
- 症例調査には、患者の聞き取り、医療記録と予防接種記録のレビュー、潜伏期間(発疹発現の10~21日前)または感染性期間(発疹発現の2日前からすべての病変が痂疲化し、新規病変が24時間現れなくなるまで)に訪れた場所の特定が含まれた。
アウトブレイク関連水痘症例の特徴
- 2024年3月8日現在、2022年9月12日から2024年3月6日までに発症した873人のアウトブレイク関連水痘症例が確認されている[図]。
- 患者年齢の中央値は11歳(範囲=生後2週間~70歳)であった。そして、症例の17.5%は4歳未満の小児、53.0%は4~18歳の小児および青年、29.4%は18歳以上の成人に発生した。ほとんどの患者(802人、91.9%)は、症状発症時に水痘ワクチン接種の記録がなかった。
- 水痘関連入院は28人報告されている。入院患者の年齢の中央値は22歳(範囲 = 生後2週間~43歳)であった。そして、15人が脳炎、肺炎、菌血症、二次的な細菌性皮膚重複感染などの合併症で入院し、3人は診断評価のため、10人は隔離または観察のため入院した。
- 9人の患者は感染時に妊娠しており、そのうちの5人はニューヨーク市で出産し、出産検査では異常はなかった。これらの妊娠患者のうち 4人はアシクロビルで治療された。2人はニューヨーク市外で出産し、他の2人はまだ出産していない。
- 水痘関連死亡は報告されていない。
感染源
- 感染源が判明している780人(89.3%)の症例のうち、41.3%が避難所または居住施設で感染した。症例の39.4%は輸入または輸入の可能性がある人(つまり、患者の潜伏期間の全部または一部がニューヨーク市到着前に発生した人)であり、18.2%は家庭または家族から感染した。学校での感染は症例の1.2%を占めた。
- 患者は105カ所の避難所と居住施設で生活し、各施設で中央値3人(範囲=1~197人)の症例が発生した。特に、家族用に約950室ある1つの大規模な居住施設では、全症例のほぼ4分の1(197人、22.6%)が報告されている。
- この居住施設でのアウトブレイクは、水痘ワクチン接種キャンペーンの延長後に終息した。その後、水痘含有ワクチンの記録または免疫のエビデンスを持つ小児の割合が、2022年12月の28%から2023年2月の80%以上に増加した。
- 居住施設でのアウトブレイクは、最後の症例から2回の潜伏期間(合計42日間)にわたって追加の症例が報告されなかった場合に終息したと見なされた。
公衆衛生の対応
隔離、検疫、曝露後予防
- 市保健局は、避難所や居住施設を監督するニューヨーク市の機関と緊密に連携し、迅速な症例報告と感受性のある接触者(水痘ワクチン接種の記録がない小児および青少年、水痘疾患に罹患していないと報告した成人)の隔離および検疫を実施した。
- 水痘に曝露した妊婦は、水痘ワクチン接種記録の確認、以前の出生前ケア記録の水痘免疫グロブリンG(IgG)の結果、または血清学的IgG検査の紹介を通じて、免疫のエビデンスについてスクリーニングされた。
- 水痘免疫のエビデンスのない妊娠接触者には、水痘帯状疱疹免疫グロブリンによる曝露後予防が紹介された。
避難所や居住施設におけるワクチン接種とプライマリケアとの連携
- 水痘患者が複数いる居住施設で水痘ワクチン接種を迅速に行うため、生ウイルスワクチンの接種間隔は最低28日間と推奨されているため、MMR(麻疹、おたふく風邪、風疹)ワクチンを28日間延期する必要がないように、水痘ワクチンがMMRワクチンとともに提供された。
- インフルエンザおよびCOVID-19ワクチン接種、およびニューヨーク市の学校に通うために必要なすべての小児の定期予防接種も提供された。
- 水痘ワクチンの記録がなく、水痘疾患に罹患したことがないと報告した成人にも、水痘およびMMRワクチン接種が提供された。
- 市保健局は約130校と緊密に連携し、学校で感染した児童および青少年の家族に学校での感染について通知し、水痘ワクチン接種を受けるまで、感染しやすい児童および青少年を学校から除外するよう勧告した。
考察
- このアウトブレイクは2024年3月8日現在も続いている。ほとんどの症例(70.6%)は小児および青少年で発生しているが、18歳以上の成人にも相当数の症例が発生している。
- このアウトブレイクは、水痘ワクチンの接種率を高めることの重要性と、このワクチンを定期的に提供していない国から最近米国に到着した人々に対する迅速かつ大規模なワクチン接種の取り組みを支援するインフラの必要性を浮き彫りにしている。
- かなりの伝播が見られたニューヨーク市の大規模な居住施設では、水痘免疫(ワクチン接種または免疫のエビデンス)を持つ小児の割合が80%を超えた後、感染は沈静化した。
- 学校での複数回の曝露と、症例の約3分の2が学齢期の小児で発生したにもかかわらず、この環境では最小限の伝播(1.2%)が報告された。この結果は、ニューヨーク州の法律により、K-12学年(註釈: 幼稚園の年長から高校3年生まで)に通うには水痘ワクチン2回接種の証明書の提示が義務付けられているため、学齢期の小児の水痘ワクチン接種率が高いことに起因している可能性が高い。ニューヨーク市では、2021〜22学年度の幼稚園児の水痘ワクチン接種率は96.7%であった。
文献
- Graham KA, et al. Varicella Outbreak Among Recent Arrivals to New York City, 2022–2024
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/pdfs/mm7321a1-H.pdf
矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問