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147号 梅毒検査におけるCDC推奨
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 CDCが梅毒検査における推奨を公開した1)。そのなかから「梅毒の症状と病期」「梅毒検査」「米国における梅毒検査の推奨事項」を抜粋して紹介する。

梅毒の症状と病期

[梅毒トレポネーマの侵入と感染]

  • 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)は粘膜または皮膚の微小傷から侵入してから局所で増殖し、心血管系およびリンパ系を介して、中枢神経系を含む体全体に急速に拡散する。全身感染を引き起こし、中枢神経系、眼球系、耳系などの複数の臓器に重篤な後遺症を引き起こすことがある。
  • 垂直感染は先天梅毒を引き起こすことがあり、自然流産、流産、死産を引き起こす可能性がある。先天梅毒の乳児は、出生時または出生後数か月から数年後に感染の臨床症状を示すことがある。

[第1期梅毒]

  • 成人の臨床症状は、第1期梅毒から始まり、さまざまなステージを経て進行する。多くの場合、第1期梅毒は、曝露後約3週間で現れる(潜伏期間は10~90日)。
  • 第1期梅毒は、単一または複数の潰瘍様病変(下疳)が特徴で、多くは無痛であるため、口、膣、直腸の内部に発生しても気づかれないことがある。下疳は自然に治癒するまで2~6週間持続することがある。

[第2期梅毒]

  • 第2期梅毒は通常、ほとんどの第1期梅毒の病変が治癒してから2~24週間後に始まり、一般に体幹、手のひら、足の裏に現れる皮膚粘膜発疹を特徴とする。口の中の粘膜斑や、性器や直腸の扁平コンジローム(condylomata lata)が患者の約4分の1に発生する。
  • 第1期と第2期梅毒の症状が同時に発生することがあり、HIV感染者ではその可能性が高くなる。第1期と第2期梅毒の湿潤病変には、性的接触を通じて伝播する可能性のある梅毒トレポネーマが含まれている。
  • 二次的な臨床症状には、リンパ節腫脹、脱毛症、ときどき神経症状や眼症状がみられる。通常、第2期梅毒の症状は約3か月(1~12か月の範囲)で消失するが、未治療患者の25%以下で感染後最初の数年間に定期的に再発することがある。

[無症候梅毒(潜伏期)]

  • 第1期から第2期、および第2期から第3期までの期間は梅毒の症状がみられなければ、潜伏期と言われる。第2期から第3期梅毒までの期間は、症状が現れるまでに数年または数十年である。患者の最大3分の2で生涯潜伏し続け、第3期梅毒に進行することはない。
  • 無症候潜伏梅毒は「早期潜伏梅毒」(1年以内に感染した)、「晩期潜伏梅毒」(1年以上前に感染した)、「期間不明の潜伏梅毒」(臨床データ、病歴データ、検査データに基づいて感染のタイミングを決定できない)の3つのカテゴリーに分類される。

[第3期梅毒]

  • 第3期梅毒の臨床症状には、心血管梅毒(胸大動脈または冠動脈での梅毒トレポネーマの増殖に起因する動脈瘤または狭窄を伴う)、ゴム腫(柔らかい肉芽腫性の増殖を伴い、骨や軟骨を含むあらゆる器官系の組織破壊を引き起こすことがある)、神経梅毒(脊髄癆や全身麻痺などの晩期の神経症状を伴う)が含まれる。
  • 神経梅毒は梅毒のどのステージでも発生する可能性がある。

梅毒検査

[非トレポネーマ検査]

  • 梅毒トレポネーマの脂質組成は 1979 年に初めて記述され、梅毒トレポネーマには非トレポネーマ検査で使用されるすべてのリン脂質が含まれていることが報告された。
  • 梅毒トレポネーマ感染時のカルジオリピン、ホスファチジルコリン、コレステロールに対する抗体の増加は、宿主組織の損傷だけでなく、梅毒トレポネーマと宿主の両方からの抗原の組み合わせの結果である。
  • 非トレポネーマ検査で使用される抗原は梅毒トレポネーマおよび宿主の膜に存在するため、この検査を非トレポネーマ検査と呼ぶことは誤っている。非トレポネーマ検査と称されるものは、正確には類脂質抗原検査と呼ぶことができる。このレポートでは、これらの検査を「非トレポネーマ(類脂質抗原)検査」(nontreponemal[lipoidal antigen]test)と呼ぶこととした。

[トレポネーマ検査]

  • トレポネーマ検査という用語は、非トレポネーマ検査とともに1960年に導入された。
  • トレポネーマ検査は、梅毒トレポネーマに特異的な抗原に対する抗体反応を検出する検査のことである。

米国における梅毒検査の推奨事項

[非トレポネーマ(類脂質抗原)検査]

  • 通常、非トレポネーマ(類脂質抗原)検査は、梅毒のスクリーニング検査として、「患者に梅毒を示唆する症状がある場合」「既知の性的接触がある場合」「再感染の可能性を評価する場合」「治療結果をモニタリングする場合」の診断検査として、使用されている。
  • 非トレポネーマ(類脂質抗原)検査は、第1期梅毒の早期ではトレポネーマ検査よりも感度が低いことがある。そして、治療に関係なく時間の経過とともに減弱する傾向がある。
  • 非トレポネーマ(類脂質抗原)検査で測定される抗体価は感染状態と相関する可能性があり、治療結果をモニターするために利用できる唯一の検査である。
  • 同一の非トレポネーマ(類脂質抗原)検査による2回の検査結果の抗体価の4倍の変化は、臨床的に重要である。

[梅毒治療後の血清学的反応]

  • 通常、非トレポネーマ(類脂質抗原)検査の抗体価は梅毒治療後12か月間で少なくとも4分の1に減少する(図1)。特に、感染の初期段階で治療を受けた患者では顕著である。第2期梅毒の前に治療を受けた患者では時間の経過とともに陰性化する可能性がある。しかし、特定の人では、推奨される治療にもかかわらず、非トレポネーマ(類脂質抗原)検査の抗体価の低下は4倍未満である。
  • 早期梅毒[註釈1]の治療に関する前向き無作為化二重盲検多施設研究(n=541)では、患者の14%が治療後12か月での非トレポネーマ(類脂質抗原)検査の抗体価の低下が4倍未満であった。
  • 第1期および第2期梅毒のHIV感染者は、HIV感染のない患者よりも、非トレポネーマ(類脂質抗原)検査の抗体価の不十分な低下を示すことが多かった。
  • 梅毒治療後に非トレポネーマ(類脂質抗原)検査が陰性化せず、持続的に陽性が続くことがあり、これをserofastと呼ぶ。この状態は「梅毒罹患後1年以上経過してから治療を受けた人」「梅毒を複数回経験した人」に最も多く見られる。

[生物学的偽陽性]

  • 非トレポネーマ(類脂質抗原) 検査が梅毒以外の状態で陽性となることを「生物学的偽陽性(BFP:biologic false positive)」と呼ぶ。
  • 生物学的偽陽性は人口の0.2~0.8%で発生すると推定されており、梅毒以外の医学的状態と関連している。生物学的偽陽性は「マラリア、ハンセン病、HIVなどの感染症」「最近の予防接種」「自己免疫疾患」「注射用麻薬常用」に起因する可能性がある。

[トレポネーマ検査]

  • トレポネーマ検査で検出される抗体は、感染早期に治療が行われない限り、治療の有無に関係なく、生涯持続する。しかし、第1期梅毒の治療を受けた患者の約15~25%は、治療後2~3年以内にトレポネーマ検査が陰性化することがある。
  • 2件の研究によると、第2期梅毒または感染期間がより長い段階で治療を受けた患者でトレポネーマ検査が陰性化した患者はいなかった。
  • トレポネーマ検査の陰性化は進行したHIV感染症およびAIDS患者でも発生する可能性がある。
  • トレポネーマ検査は、非トレポネーマ(類脂質抗原)検査とは異なり、陽性がいつまでも続くので、治療に対する反応をモニタリングするために使用できない。
  • 梅毒の治療歴があり、トレポネーマ検査が陽性の患者では、トレポネーマ検査は再感染の検出には役に立たない。

[梅毒血清検査アルゴリズム]

  • 梅毒の一次検査が陽性である場合、非トレポネーマ(類脂質抗原)検査とトレポネーマ検査を組み合わせて使用する必要がある(図2)。
  • 伝統的アルゴリズム[非トレポネーマ(類脂質抗原)検査による初期スクリーニング]と逆順アルゴリズム[トレポネーマ検査による初期スクリーニング]の両方が受け入れられている。
  • 伝統的アルゴリズムと逆順アルゴリズムの両方が米国で使用されており、2つのアルゴリズム間で約99%の一致率がある。
  • 伝統的アルゴリズムは、非トレポネーマ(類脂質抗原)検査から始まり、陽性であれば、トレポネーマ検査によって確認される。非トレポネーマ(類脂質抗原)検査は比較的安価であり、トレポネーマ検査は手動で高価であるため、このアルゴリズムが数十年にわたって広く使用されてきた。
  • 現在は、自動化トレポネーマ検査が米国食品医薬品局によって認可されていることから、逆順アルゴリズムが導入されている。このアルゴリズムでは自動化トレポネーマ検査による初期スクリーニングで陽性となれば、定量的な非トレポネーマ(類脂質抗原)検査を実施する。これらの検査結果が不一致であれば、異なる方法で異なる抗原を含む2番目のトレポネーマ検査によって判断する。

[註釈1] 早期梅毒(early syphilis)2)
CDCは感染から1年以内を早期梅毒とし、それ以降を晩期梅毒(late syphilis)と定義している。 WHOは感染から2年以内を早期梅毒とし、それ以降を晩期梅毒としている。

[註釈2] プロゾーン(prozone)
過剰な濃度の抗体によって凝集の形成が妨げられ、免疫複合体が可溶性なままの状態である。血清を希釈するとプロゾーンを除去できる。プロゾーンによる偽陰性は、非トレポネーマ(類脂質抗原)検査では報告されているが、トレポネーマ検査では報告されていない。梅毒を示唆する症状のある患者が未希釈血清で非トレポネーマ(類脂質抗原)検査が陰性であれば、プロゾーンを除外しなければならない。

文献

  1. Papp JR, et al. CDC Laboratory Recommendations for Syphilis Testing, United States, 2024
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/rr/pdfs/rr7301a1-H.pdf
  2. Tiecco G, et al. A 2021 Update on Syphilis: Taking Stock from Pathogenesis to Vaccines. Pathogens.2021; 10(11):1364.

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問