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141号 Post-COVID condition
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 Post-COVID condition(long COVID)は、COVID-19による急性疾患の発生後、数カ月または数年にわたって持続することがあり、新たな症状の出現や、出たり消えたりする症状の発生が含まれる場合がある。CDCが週報(MMWR)にpost-COVID conditionについての前向き研究の詳細を記載しているので紹介する1)

はじめに

  • Post-COVID conditionは、最初のSARS-CoV-2感染後4週間以上持続または出現する様々な症状で構成され、相当な罹患率と生活の質の低下に関連している。その有病率の推定値は、設定、期間、患者集団によって異なる。そして、多くの研究では比較グループがなく、時間の経過に伴う症状の変化に殆ど注目していない。
  • 症状は持続する場合と出現する場合があるが、これまでの有病率の推定では通常、持続する症状と出現する症状の両方が含まれており、それらは区別されていなかった。このようなことから前向き研究が実施された。

調査方法

  • 8つの主要な医療システムを含む前向き研究において、SARS-CoV-2検査結果が陽性もしくは陰性(それぞれ、COVID検査陽性参加者またはCOVID検査陰性参加者)の研究登録時にCOVID様疾患に罹患している患者の長期的な症状と転帰を評価した。
  • 参加者は、追跡調査でその後のCOVID検査陽性結果を報告することができる。
  • 受診時およびすべての過去の期間にわたり、症状があれば「持続的症状がある」と定義された。「新規症状」とは特定の時点では存在するが、以前の時点では存在しなかった症状であり、症状が解消して、解消後に再び出現した場合も含まれる。
  • 新規症状と持続的症状の区別を容易にするために、ベースライン調査と3、6、9、12カ月の追跡調査を完了した参加者が含まれた。
  • アウトカムには、8つの症状カテゴリー(①頭、目、耳、鼻、喉[HEENT:head,eyes,ears,nose,throat]、②全身、③肺、④筋骨格、⑤胃腸、⑥心血管、⑦認知障害、⑧極度の疲労)の自己申告の症状が含まれた。

結果

  • 登録参加者6,075人のうち、3,726人(61%)が12カ月の調査を完了し、そのうち1,741人(47%)が12カ月を通じて四半期毎のすべての調査を完了した。そのうち、1,288人がCOVID検査陽性、453人がCOVID検査陰性であり、この研究に含まれた。
  • 12カ月の追跡期間中に、271人(21%)のCOVID検査陽性参加者が再感染を報告し、174人(38%)のCOVID検査陰性参加者が新規感染を報告したため、これらの参加者は解析から除外された。
  • 参加者の約3分の2が女性(842人、67.4%)であり、905人(72%)が非ヒスパニック系白人であった。
  • COVID検査陰性参加者と比較して、COVID検査陽性参加者では、女性の割合が低く(65.2% vs 75.2%;p<0.01)、結婚しているかパートナーと同居している割合が高く(60.3% vs 48.9%;p<0.01)、急性COVID様疾患で入院したことがある割合が高かった(5.6% vs 0.4%;p<0.01)。
  • 喘息の有病率はCOVID検査陰性参加者で高く(18.3% vs 11.6%、p<0.01)、同様に、腎臓病の有病率(2.5% vs 0.6%、p<0.01)やその他の不特定の疾患の有病率も高かった(20.1% vs 14.5%;p=0.02)。
  • ベースラインでの症状の有病率と12カ月間の持続性は、症状カテゴリーによって異なった(図表1)。COVID検査陽性参加者は、COVID検査陰性参加者と比較して、ベースライン時に、極度の疲労を除く各カテゴリーの症状を報告した割合が高かった。
  • 「何らかの症状」の有病率は、ベースラインと3カ月の追跡調査の間で大幅に減少し、COVID検査陽性参加者では98.4%から48.2%に、COVID検査陰性参加者では88.2%から36.6%に減少した(図表1)。
  • 症状の有病率は、各症状カテゴリー内で時間の経過とともに減少した。そして、COVID検査陽性参加者の18.3%、および、COVID検査陰性参加者の16.1%が、12カ月間を通じて持続的な「何らかの症状」を報告した(図表1)。
  • 特定の症状カテゴリーにおける12カ月間の症状持続率は、COVID検査陽性参加者では0.3%(胃腸症状)から5.9%(HEENT症状)、COVID検査陰性参加者で1.1%(心血管症状または肺症状)から6.8%(極度の疲労)の範囲であった(図表1)。
  • 極度の疲労の持続のみが、12カ月時点で、COVID検査陽性参加者(3.5%)とCOVID検査陰性参加者(6.8%)の間で統計的に有意な差があった(図表1)。
  • 追跡期間中、極度の疲労を除く各カテゴリーの症状の有病率は、COVID検査陽性参加者とCOVID検査陰性参加者の両方で各時点で同様であった(図表2)。
  • 合計9つの症状カテゴリーの4つの期間において、COVID検査陽性参加者とCOVID検査陰性参加者の間で症状の有病率に差は観察されなかった(図表2)。
  • COVID検査陰性参加者は、COVID検査陽性参加者と比較して、極度の疲労の有病率が、9カ月後と12カ月後に高かった(図表2)。
  • 両グループの各追跡期間で、症状カテゴリー毎に新規症状が報告された。COVID検査陰性参加者は、重度の疲労を除く各症状カテゴリーにおいて、6カ月および12カ月の時点で新規症状の有病率が高かった。

図表1 SARS-CoV-2検査結果別§の、成人におけるCOVID様疾患の自己申告症状*のベースラインにおける有病率と12カ月までの持続率† — SARS-CoV-2 感染症登録患者に対する革新的なサポート、米国州、2020 年12月~2023年3月

図表2 SARS-CoV-2 検査結果**による新規感染または再感染のエビデンスがない急性COVID様疾患の成人における、 12カ月間の症状カテゴリー別の新規出現および再出現した症状の自己報告有病率 *,†,¶ ―SARS-CoV-2 感染登録患者に対する革新的なサポート、米国、2020年12月~2023年3月

考察

  • これまでの研究では、標準化されていないさまざまな期間または単一時点における症状の有病率の推定値が報告されている。その結果、「COVID-19の診断時に報告された持続的症状の残存」「解消してから再出現した症状」「最初の解消後に新規出現した症状」を区別することが困難であった。また、これまでの縦断的研究では「COVID検査結果陽性者の症状」「COVID様疾患を患い、COVID検査結果陰性者の症状」を比較した例は殆どない。
  • この研究では、新規症状と持続的症状を連続測定することにより、特定の時点で症状があった参加者には、新規症状(つまり、3カ月前には存在しなかった症状)のある参加者だけでなく、持続的症状のある参加者も含まれていることを確認することができた。
  • COVID様疾患やCOVID検査結果陰性参加者を含めることで、post-COVID conditionに関連する症状の特徴付けについての議論を促進することができた。
  • 多くの参加者は、急性疾患の発症から6カ月以上経過してから新規症状を経験している。このことはCOVIDのような急性疾患の発症から数カ月で新規症状が出現する頻度がかなり高いことが示唆された。そして、認知困難と極度の疲労は、6カ月後に出現する2つの一般的な症状であり、post-COVID conditionで発生することがよく報告されている。
  • 時間の経過とともに解消する症状と出現する症状を区別することは、post-COVID conditionを特徴づけるのに役立ち、単一時点での測定が疾患の真の影響を過小評価または誤って評価していることを示唆している。
  • 急性COVID様疾患に罹患した人の約16%が12カ月間持続する症状を経験する可能性があるという調査結果を考慮すると、post-COVID conditionは健康と医療システムに大きな影響を与える可能性がある。

文献

  1. Montoy JCC, et al. Prevalence of Symptoms 12 Months After Acute Illness, by COVID-19 Testing Status Among Adults ̶ United States, December 2020‒March 2023
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/pdfs/mm7232a2-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問