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138号 インフルエンザ菌による侵襲性疾患での化学予防
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 インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae:Hi)は、髄膜炎やその他の深刻な侵襲性疾患を引き起こすことがある。二次感染の予防のために化学予防を実施するかどうかは重要な問題である。それについて、CDCが詳細に記述しているので紹介する1)

Hibワクチン導入前後の化学予防の推奨について

 Hibワクチンの導入前後では化学予防の推奨が異なっている。莢膜型インフルエンザ菌は、莢膜多糖類の化学組成に基づいて6つの血清型(a~f)に分類され、無莢膜株は型別不能株(nontypeable Hi:NTHi)と呼ばれている。

[Hib ワクチンの導入前]

  • 1980年代にHibワクチンが導入される前は、インフルエンザ菌b型(Hib)は米国における小児での細菌性髄膜炎の最も一般的な原因であり、侵襲性Hi疾患の全症例の95~98%を占めていた。
  • Hibワクチン以前の時代の研究では、Hibの高い保菌率と、家庭または小児ケア施設でHibに曝露した小児における二次感染について記録されている。二次感染のリスクは、生後12~23か月の小児の1.2%から生後12か月未満の乳児の6%までの範囲であった。予防接種諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)は、Hibの二次感染を防ぐために、特定の状況では抗菌薬の化学予防を推奨していた。

[Hib ワクチンの導入後]

  • Hibワクチンの導入後、米国における侵襲性Hib疾患の発生率は約99%減少し、2018年では侵襲性Hi疾患のわずか1.3%を占めるに過ぎなかった。しかし、non-b血清型Hi(特に血清型a[Hia]とNTHi)によって引き起こされる侵襲性疾患が増加している。2008年から2017年にかけて、米国ではHiaの発生率が年間11.1%増加した。
  • Hi疾患の疫学が変化しているにもかかわらず、二次感染が証明されなかったため、2014年に発行された米国のHib疾患の予防と管理に関するACIP勧告では「non-b血清型Hiによって引き起こされる侵襲性疾患の症例に対する化学予防は推奨されない」と記述されている。

侵襲性疾患の二次症例の調査

 現在、CDCはnon-b血清型Hi(Hib以外の血清型およびNTHi)によって引き起こされる侵襲性疾患患者の濃厚接触者に対する化学予防を推奨していない。そのため、Hiによって引き起こされる侵襲性疾患の二次症例が調査された。

[調査]

  • 人口ベースの積極的監視ネットワークの一部として収集されたデータがHiの二次感染を調査するために分析された。
  • 莢膜型Hi疾患のクラスターは「2011年から2018年の間に互いに60日以内に発生した、同じ郡で診断された同じ血清型による侵襲性疾患の症例」として定義された。
  • 非莢膜型Hi疾患のクラスターは「2015年から2018年の間に互いに14日以内に発生した、同じ郡で診断された侵襲性NTHi疾患の症例」として定義された。NTHiは発生率が高く、リソースが限られているため、制限された期間が選択された。
  • 各々のクラスター内での二次感染は「疫学的に関連があることが確認された、または疑われる2人以上の症例の発生」として定義された。
  • 二次感染が疑われる場合、患者分離株の全ゲノム配列決定(WGS:whole genome sequencing)を実施して、一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)の違いから配列の関連性を評価した。この分析では、SNPの違いが10未満であれば「分離株ペアは濃厚に関連している」と見なされた。
  • 二次感染率は、二次感染の数を症例の総数で割って計算され、パーセンテージで表された。

[結果]

  • 2011年から2018年までに報告された莢膜型侵襲性Hi疾患の1,584症例のうち、二次感染の可能性が高い5件の事例を含む合計157件のクラスターが特定された。莢膜型Hi 症例の二次感染率は、互いに60日以内で0.32%であった(表)。
  • 二次感染の3ペアは血清型fであり、1ペアは血清型a、1ペアは血清型eであった。血清型bの二次感染のペアは発生しなかった。
  • 2015年から2018年までに報告された2,426例のNTHi疾患のうち、二次感染の可能性のある3件の事例を含む合計373件のクラスターが特定され、NTHi症例間の二次感染率は、互いに14日以内で0.12%であった(表)。
  • 二次感染の分離株はすべて、一次感染の分離株とのSNP差が0~1であり、遺伝的に高度に関連していることが示された。
  • 莢膜型Hiの二次感染の5件の事例のうち、特定された疫学的関連は「①家族との接触(3ペア)」「②同じ長期介護施設の居住者(1ペア)」「③ホームレスを経験している人々(1ペア)」であった。
  • NTHiの二次感染の可能性が高い3件の事例のうち、2ペアは同じ長期介護施設の居住者で発生し、1ペアは同じ世帯の居住者で発生した。
  • 8人の二次症例(莢膜型および型別不能)はすべて、一次症例から2週間以内に診断され、6例は一次症例から7日以内に発生した。二次症例はすべて、基礎疾患がある患者で発生し、1人を除くすべてが成人であった。

インフルエンザ菌の血清型別の症例、クラスター、二次感染のペア — 積極的細菌コアサーベイランス、米国の10の管轄区域、2011~2018年

[考察]

  • 1980年代にHibワクチンが利用できるようになって以来、米国における侵襲性Hi疾患のほとんどは、non-b血清型または型別不能株によって引き起こされている。
  • この研究では、Hibクラスターでの二次感染のエビデンスは見出されなかった。これはおそらくHibワクチンの有効性と、Hibの二次感染を防ぐための化学予防の既存の推奨事項を反映している可能性がある。そして、この調査結果は、non-b血清型Hiの二次感染が米国で少数の症例で発生している可能性が高いことを示唆している。
  • non-b血清型Hiの二次感染のすべての症例で、2番目の患者は、侵襲性感染症の素因となる可能性のある 1 つまたは複数の基礎疾患を持っていた。
  • non-b血清型Hi疾患の発生率の増加と、米国の一部のコミュニティでのHiaアウトブレイクを考慮して、Hia疾患の発生率が高い管轄区では、Hia症例の濃厚接触者に対して化学予防が推奨されている。2018年にアラスカ州保健社会福祉局は、特に4歳未満または免疫不全の家庭内接触者がいる場合、侵襲性Hia患者の濃厚接触者に化学予防を提供することを推奨した。
  • 2018年以降、米国小児科学会の感染症委員会は、4歳未満の小児または免疫不全の小児がいる家庭での侵襲性Hia疾患の症例では化学予防を推奨している。
  • 米国におけるHiの疫学の変化と、この報告書に記載されているnon-b血清型Hiの二次感染の可能性を考えると、現在の化学予防の推奨事項を拡大することは、特定の集団の疾患を予防するために正当化される可能性がある。

文献

  1. Oliver SE, et al. Secondary Cases of Invasive Disease Caused by Encapsulated and Nontypeable Haemophilus influenzae ̶ 10 U.S. Jurisdictions, 2011‒2018
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/pdfs/mm7215a2-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問