コロナ禍が終わりつつある。それによって様々な感染対策が緩和されてゆくが、同時に、2年間流行できなかった病原体が再び流行することであろう。CDCがエンテロウイルスによる重症呼吸器疾患の小児が増加していることを記述しているので紹介する1)。
はじめに
- 2022年8月、複数の地域の臨床医がCDCに「ライノウイルス/エンテロウイルス(RV/EV: rhinovirus/enterovirus)検査が陽性の重症呼吸器疾患の小児患者」の入院が増加していることを通知した。
- 米国ではエンテロウイルスD68(EV-D68)に起因する小児および青年での重症呼吸器疾患および急性弛緩性脊髄炎(AFM: acute flaccid myelitis)の増加が、2014年、2016年、2018年の隔年で、夏の終わりと秋に発生したことがある。
- EV-D68を継続的に監視することは、急性呼吸器疾患(ARI: acute respiratory illness)と急性弛緩性脊髄炎の増加に備えるために重要である。
[エンテロウイルス D68]
- EV-D68によって引き起こされる急性呼吸器疾患は様々な重症度で幼児に影響を与える。
- 典型的な症状としては、咳、鼻閉、喘鳴、呼吸困難などがあり、感染は喘息または反応性気道疾患(RAD: reactive airway disease)を悪化させることがある。
- 喘息/反応性気道疾患の既往歴のある小児は、医療を必要とする可能性が高くなり、EV-D68によって引き起こされた急性呼吸器疾患の小児は重篤な疾患になる可能性がある。
- EV-D68は急性弛緩性脊髄炎と関連している。これは筋力低下と麻痺を引き起こす可能性がある重篤な状態である。
調査
- このレポートでは、3つの異なる監視システムからの週次データが解析された。
- 全米症候群監視プログラム(NSSP):2018年第1週から2022年第37週までの期間における、18歳未満の小児および青年の週ごとの救急部門への受診が解析された。
- 国立呼吸器および腸管ウイルス監視システム(NREVSS):2014年第1週から2022年第35週までのRV/EV検査陽性の週ごとのパーセンテージが解析された。NREVSSは集約された検査を受動的に報告する473の研究所のネットワークである。
- 新規ワクチン監視ネットワーク(NVSN):2017年から2022年までに、急性呼吸器疾患のために救急部門に受診または入院した18歳未満の小児および青年において、RV/EVおよびEV-D68の検出が解析された。RV/EV検査およびEV-D68検査が陽性の小児患者の週ごとの割合も解析された。
結果
[急性呼吸器疾患に関連した救急部門の受診率]
- 0~4歳および5~17歳の小児および青年において、急性呼吸器疾患に関連した救急部門の受診率が、2018~2020年と比較して2022年の第15週から第37週(利用可能なデータのエンドポイント)までの期間で上昇している[図1, 図2]。そのレベルはRSウイルスが流行した2021年の夏と同等であった。急性呼吸器疾患による救急部門の受診率の最近の増加は、両方の年齢層で31週目に始まった。
[喘息/反応性気道疾患に関連した救急部門の受診率]
- 0~4歳の小児における2022年の喘息/反応性気道疾患に関連する救急部門の受診率は、2018~2021年の対応する週と比較して、29~37週のすべての週で高く、37週までの救急部門の受診率は2018~2022年のいかなる時点で観察されたものよりも高かった[図1]。
- これらの週の5~17歳の小児および青年における喘息/反応性気道疾患に関連する救急部門の受診率も、2020~2021年より高かったが、2018~2019年と同レベルであった[図2]。
- これらの観察結果は、パーセンテージではなく急性呼吸器疾患および喘息/反応性気道疾患 での救急部門の受診数と一貫したものであった[図3]。
[RV/EV核酸増幅検査の陽性率]
- RV/EV核酸増幅検査の陽性率は、2020年を除く2014年から2022年の晩夏から初秋にかけて上昇しており[図4]、米国でのEV-D68検出数が増加した年(2014年、2016年、2018年)では特に晩春または晩夏に高い陽性率が見られた。
- 2022年のRV/EV検査の毎週の陽性率は、過去のEV-D68アウトブレイクの年での陽性率に匹敵する割合で増加している。RV/EV検査の陽性率は32週目(15.8%)から35週目(31.4%)で約2倍になった[図4]。これは2014年(41.5%)、2018年(34.4%)、2015年(31.7%)に続いて、その週に観察された4番目に高い値であった。
[EV-D68検査の陽性率]
- 2022年3月1日から9月20日までの期間に、救急医療を必要とする、または入院を必要とする急性呼吸器疾患の5,633人の小児および青年が登録された。2022年9月20日の時点で、これらの患者のうち1,492人(26.4%)でRV/EVが検出され、そのうち260人(17.4%)がEV-D68検査が陽性であった。
- 急性呼吸器疾患かつRV/EV検査陽性の小児および青年におけるEV-D68検査の陽性率は32週の間に56%に増加した[図5]。
- 2022年7月と8月のEV-D68検査の陽性率は、2017年と2019~2021年の同じ月よりも高く、2018年に観察されたピークレベルと同程度であった。
- EV-D68が検出された小児患者260人の年齢中央値は2.6歳(IQR=0~15歳)で、最も一般的な症状は、息切れまたは急速な浅い呼吸、喘鳴、咳、鼻閉であった。
考察
- 3つの異なる監視システムからのデータを使用して、小児および青年における医学的に対応された急性呼吸器疾患および喘息/反応性気道疾患の増悪が2022年夏に増加したことが判明した。
- この増加は、一部にはRV/EVの流行の増加(特にEV-D68の流行)に起因する可能性がある。2014年に発生した米国での広範囲のEV-D68アウトブレイクでは、医療を必要とする重症呼吸器疾患と喘息の増悪が同時に増加し、急性弛緩性脊髄炎の増加と関連していた。
- COVID-19パンデミックの前の2014年、2016年、2018年の隔年に、EV-D68および関連する急性弛緩性脊髄炎のピークがみられた。
- 臨床医は、EV-D68が小児および青年(特に喘鳴のある人や呼吸補助を必要とする人)の重症呼吸器疾患の原因となる可能性があると考えるべきである。医療施設は、EV-D68関連の重症呼吸器疾患に関連する小児医療の利用が増加する可能性に備える必要がある。
- 過去のEV-D68流行は、急性弛緩性脊髄炎の増加と関連していた。そのため、医療提供者は最近の呼吸器疾患または発熱の病歴がある、急性の弛緩性四肢脱力、神経学的症状、首または背中の疼痛を有する患者において、急性弛緩性脊髄炎を疑うことが大切である。
- 急性弛緩性脊髄炎の小児では脱力が急速に進行することがあるので、速やかに入院し、専門医療に紹介する必要がある。
- 2022年夏にニューヨークで麻痺性ポリオ症例とポリオウイルス陽性の廃水サンプルが検出されたことを考えると、臨床医は急性弛緩性脊髄炎が疑われる患者ではポリオウイルス感染も検査すべきである。ポリオウイルスによる急性弛緩性麻痺に臨床的に類似しているからである。
文献
- Ma KC, et al. Increase in Acute Respiratory Illnesses Among Children and Adolescents Associated with Rhinoviruses and Enteroviruses, Including Enterovirus D68 ̶ United States, July‒September 2022
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7140e1.htm
矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問