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130号 インフルエンザワクチンに関するACIPの勧告
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 毎年、予防接種に関する諮問委員会(ACIP: Advisory Committee on Immunization Practices)は季節性インフルエンザの予防と制御のための勧告を公開している1)。今年の勧告のなかから、「特定の人々へのインフルエンザワクチン接種に関する事項」および「インフルエンザワクチンとCOVID-19」について抜粋して紹介する。

特定の人々へのインフルエンザワクチン接種に関する事項

[卵アレルギーの既往歴のある人]

  • インフルエンザワクチンは、発育卵でのウイルスの増殖によって産生するため、微量の卵タンパク質(オボアルブミンなど)を含有している可能性がある。
  • 卵アレルギーの既往歴があり、卵に曝露した後に蕁麻疹のみを経験した人には、インフルエンザワクチンを接種してもよい。
  • 「蕁麻疹以外の症状(血管性浮腫または腫脹、呼吸困難、立ちくらみ、反復性嘔吐など)を伴う卵への反応を報告した人」または「エピネフリンもしくはその他の緊急医療処置を必要とした人」も同様に接種してもよい[注釈1]。
  • 卵アレルギーの既往歴がある人ということで、ワクチン接種後の観察期間を特別に設定することは推奨されない。しかし、失神が発生した場合の負傷のリスクを減らすために、ワクチンの接種後は患者を15分間、座位または仰臥位で観察することを推奨する。

[妊婦]

  • 妊婦(特に妊娠第2期および第3期)および褥婦はインフルエンザによる重篤な疾患や合併症のリスクが高いことが知られている。妊娠中のインフルエンザワクチン接種は、妊婦および褥婦および生後数か月の乳児の呼吸器疾患やインフルエンザのリスクを低下させる。
  • ACIPと米国産科婦人科学会は、インフルエンザの流行期に「妊娠中である」「妊娠しているかもしれない」「産後である」という状況になるであろう人にインフルエンザワクチンを接種することを推奨している。
  • インフルエンザワクチンは妊娠のどの時点でも(どのようなトリメスターであっても)、接種できる。
  • 生後数か月の乳児は、ワクチンを接種するには幼すぎる。彼らを守るために、妊娠第3期の人には、ワクチンが利用可能になれば、早期のワクチン接種を考慮する。
  • 殆どの研究において、インフルエンザワクチン接種と有害な妊娠結果(自然流産を含む)との関連は指摘されていない。

[生後6ヶ月~8歳の小児]

  • インフルエンザワクチンを4週間以上間隔をあけて合計2回以上接種したことがあるならば、2022-23年シーズンでは1回の接種でよい。インフルエンザワクチンの過去2回の接種は、同じシーズンまたは連続したシーズンで接種されている必要はない。
  • インフルエンザワクチンを4週間以上空けて2回以上接種したことがなければ、または過去のインフルエンザワクチン接種歴が不明であれば、2022-23年シーズンでは2回接種(4週間以上空けて接種)する。
  • 成人および9歳以上の小児は、2022-23年シーズンのインフルエンザワクチンを 1 回接種する。

生後6ヶ月~8歳の小児のためのインフルエンザワクチン接種のアルゴリズム-ACIP,米国,2022-23年インフルエンザシーズン

*インフルエンザワクチンを 2 回接種する必要がある生後 6 か月から 8 歳の小児は、できるだけ早く1 回目の接種を受け、2 回目の接種 (4 週間以上空けて接種する)を理想的には、10月末までに実施する。8 歳で 2 回のワクチン接種が必要な場合は、1 回目と 2 回目の接種の間に 9 歳になった場合でも、両方のワクチンを接種する必要がある。

[インフルエンザワクチン接種後にギランバレー症候群に罹患したことのある人]

  • インフルエンザワクチンの前回の接種から6週間以内にギランバレー症候群(GBS:Guillain-Barrésyndrome)に罹患した病歴がある人では、インフルエンザワクチン接種は要注意である。
  • 重症インフルエンザ合併症のリスクが高くなく、前回のインフルエンザワクチン接種から6週間以内にGBSを経験した人には、インフルエンザワクチンを接種すべきではない。
  • インフルエンザワクチンの接種後6週間以内にGBSに罹患した既往歴があるが、インフルエンザによる重篤な合併症のリスクが高い人については、インフルエンザワクチン接種の利点が潜在的なリスクを上回る可能性がある。

[旅行者]

  • 北半球と南半球の温帯気候地域では、インフルエンザの活動は季節性であり、北半球では10月から5月頃、南半球では4月から9月頃に流行する。熱帯地方では、インフルエンザは一年中流行している。
  • インフルエンザが流行している地域に旅行するとき、またはインフルエンザが流行している世界の地域からの人々が参加する大規模な観光グループ(クルーズ船など)の一員として旅行するときには、旅行者はインフルエンザに曝露する可能性がある。
  • インフルエンザのリスクを減らしたい旅行者は、できれば少なくとも出発の2週間前にインフルエンザワクチンを接種することを検討する。
  • 特に、米国(北半球)に住んでいてインフルエンザ合併症のリスクが高く、北半球の秋または冬にインフルエンザワクチンの予防接種を受けていない人が「熱帯地方への旅行を計画する場合」「南半球のインフルエンザシーズン(4月から9月)に南半球への旅行を計画する場合」「どの地域であっても、大規模な観光グループ(クルーズ船など)に参加する場合」には出発前にインフルエンザワクチンを接種することを検討する。

インフルエンザワクチンとCOVID-19

[インフルエンザワクチンとCOVID-19ワクチン]

  • 2022-23年のインフルエンザシーズン中も、SARS-CoV-2は流行し続けると予想され、COVID-19ワクチンの接種は継続すると予想される。COVID-19ワクチンをインフルエンザワクチンと同時に接種しても構わない[注釈2]。

[インフルエンザワクチンとCOVID-19 患者]

  • COVID-19検査で陽性となった人、またはCOVID-19曝露後に検疫隔離[註釈3]されている人へのワクチン接種には、複数の考慮すべき事項が含まれる。それには、「インフルエンザワクチンを接種する場所にその人を移動させることによって、他の人々にCOVID-19を曝露させるかどうか?」「その人の重症度はどうか?重症インフルエンザのリスク因子があるのか?後日にインフルエンザワクチンを接種できるか?COVID-19の症状とインフルエンザワクチン接種後の症状が混同しないようにしたいという願望があるか?」などが含まれる。
  • 通常、隔離または検疫隔離されている人が他の人にCOVID-19を曝露させる可能性がある場合にはインフルエンザワクチンの接種場所に移動させるべきではない。
  • 中等症または重症のCOVID-19患者では、回復するまでインフルエンザワクチンの接種を延期する。
  • 軽症または無症状のCOVID-19患者は「COVID-19の症状」と「ワクチン接種後の副反応」を混同しないように、さらなる延期が考慮されることがある。

[註釈1]
これまでも、CDCは「卵アレルギーの人にインフルエンザワクチンを接種してもよい」という勧告をしてきた2)。そのエビデンスとして用いられた研究として、「4,172人の卵アレルギーの人(513人は重症アレルギー) に不活化インフルエンザワクチンを接種してもアナフィラキシーは発生しなかった」というものがある3)

[註釈2]
もともと、CDCは「COVID-19ワクチンおよびその他のワクチンは、タイミングに関係なく接種しても構わない。これには、COVID-19ワクチンと他のワクチンの同日接種、および14日以内の接種が含まれる」と記述している4)

[註釈3]
隔離には「アイソレーション(isolation)」と「クアランティン(quarantine)」の2つがある。前者は感染症で病気になっている人を病気ではない人から隔離する。後者では感染症に曝露した人々の移動を分離して制限し、病気になるかどうかを確認する5)。通常、アイソレーションを「隔離」、クアランティンを「検疫隔離」と邦訳することが多い。

文献

  1. Grohskopf LA, et al. Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices ̶ United States, 2022‒23 Influenza Season
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/rr/pdfs/rr7101a1-H.pdf
  2. CDC. Prevention and control of seasonal influenza with vaccines Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices ̶ United States, 2016‒17 influenza season.
    http://www.cdc.gov/mmwr/volumes/65/rr/pdfs/rr6505.pdf
  3. Des Roches A, et al. Public Health Agency of Canada/Canadian Institutes of Health Research Influenza Research Network. Egg-allergic patients can be safely vaccinated against influenza. J Allergy Clin Immunol 2012;130:1213‒6.e1. doi:10.1016/j.jaci.2012.07.046
  4. CDC. Interim Clinical Considerations for Use of COVID-19 Vaccines Currently Approved or Authorized in the UnitedStates
    https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/clinical-considerations/interim-considerations-us.html
  5. CDC. Quarantine and isolation.
    https://www.cdc.gov/quarantine/

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問