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128号 WHOのサル痘ファクトシート
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 サル痘が世界中で確認されている。WHO(世界保健機関: World Health Organization)がサル痘の「Fact Sheet」(科学的知見に基づく概要書)を公開しているので紹介する1)

はじめに

 サル痘は臨床的にはそれほど重症化しないが、天然痘[訳者註1]と類似の症状を示す。1980年に天然痘の根絶宣言がなされ、その後、天然痘の予防接種が中止されたことで、サル痘ウイルスは公衆衛生にとって最も重要なオルトポックスウイルス属として浮上してきた。

病原体

 サル痘ウイルスはポックスウイルス科のオルトポックスウイルス属に属するエンベロープを持った二本鎖DNAウイルスである。サル痘ウイルスには、中央アフリカ(コンゴ盆地)クレードと西アフリカクレードの2つの異なる遺伝子クレードがある[訳者註2]。中央アフリカクレードは重症化しやすく、感染力が強い。

アウトブレイク

 ヒトのサル痘は、1970年にコンゴ民主共和国の生後9か月の少年で最初に確認された。それ以来、殆どの症例はコンゴ民主共和国のコンゴ盆地の農村部の熱帯雨林地域から報告されている。中央アフリカと西アフリカ全体からの報告も増えている。
 1970年以来、ヒトのサル痘はベニン王国、カメルーン共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン共和国、コートジボワール共和国、リベリア共和国、ナイジェリア連邦共和国、コンゴ共和国、シエラレオーネ共和国、南スーダン共和国の11のアフリカ諸国で報告されている。1996~97年、コンゴ民主共和国において、通常よりも致死率が低く、発病率が高いアウトブレイクが報告された。水痘とサル痘の同時アウトブレイクが発生したこともある。2017年以来、ナイジェリアでは大規模なアウトブレイクが発生しており、疑い例が500人以上、確定例が200人以上、致死率は約3%であった。症例は今日まで報告され続けている。 
 2003年、アフリカ以外での最初のサル痘のアウトブレイクが米国で発生し、感染したペットのプレーリードッグとの接触に関連していた。このペットは、ガーナから米国に輸入されたアフリカオニネズミ(Gambian pouched rat)とヤマネ(dormice)と一緒に飼われていた。このアウトブレイクにより、米国では70人以上のサル痘患者が発生した。2018年9月にナイジェリアからイスラエル、2018年9月、2019年12月、2021年5月、2022年5月に英国、2019年5月にシンガポール、2021年7月と11月に米国に移動した旅行者でもサル痘が報告された。2022年5月、いくつかの非流行国で複数のサル痘患者が確認された。

伝播

 動物からヒトへの伝播は、感染した動物の血液、体液、皮膚、粘膜の病変との直接接触から発生する。アフリカでは、サル痘ウイルスがキリス(rope squirrel)、スミスヤブリス(tree squirrel)、アフリカオニネズミ、ヤマネ、様々な種のサルなど多くの動物でみつかっている。サル痘の自然宿主はまだ特定されていないが、齧歯類が最も可能性が高い。感染した動物の加熱不十分な肉やその他の動物製品を食べることはリスク要因となる。森林地帯またはその近くに住む人々は、感染した動物に間接的または低レベルで曝露することがある。
 ヒトからヒトへの伝播は、感染者の呼吸器分泌物、皮膚病変、最近汚染された物体との濃厚接触から発生することがある。通常、呼吸器飛沫を介した伝播は、長時間の対面接触を必要とする。そのため、医療従事者、同居家族、その他の濃厚接触者は大きなリスクに晒されることになる。
 最近、コミュニティでのヒトからヒトへの連続した伝播の最長連鎖(記録あり)が、6人から9人に増加した。これは、天然痘ワクチン接種の中止によるコミュニティでの免疫力の低下を反映しているかもしれない。ウイルス伝播は、母親から胎児への胎盤を介して(先天性サル痘)、または出産中および出産後の濃厚接触でも発生する可能性がある。サル痘ウイルスが特に性的接触を介して感染するかどうかは2022年5月19日時点では不明である。

症状

 通常、サル痘の潜伏期間は6~13日であるが、5~21日のこともある。感染は2つの期間に分けることができる:

  • 前駆期:発熱、激しい頭痛、リンパ節腫脹、背部痛、筋肉痛、激しい無力症を特徴とする(0~5日続く)。リンパ節腫脹は、最初は類似の症状がみられる他の疾患(水痘、麻疹、天然痘)と区別できるサル痘の特徴である。
  • 発疹期:通常、発疹は発熱から1~3日以内に始まる。体幹よりも顔や四肢に集中する傾向がある。顔面では症例の95%、手掌および足裏では症例の75%に発疹がみられる。角膜だけでなく、口腔粘膜(症例の70%)、生殖器(症例の30%)、結膜(症例の20%)にも発疹がみられる。発疹は斑(平面上の病変)から順次、丘疹(わずかに隆起した硬い病変)、水疱(透明な液体で満たされた病変)、膿疱(黄色がかった液体で満たされた病変)、痂皮(乾燥して脱落する)へと進行する。病変の数は数個から数千個まで様々である。重症の場合、皮膚の大部分が剥がれるまで病変が癒合することがある。

 サル痘は症状が2~4週間続く自然治癒する疾患である。重症例は小児で多く発生し、ウイルス曝露の程度、患者の健康状態、合併症の性質に関連している。免疫不全は重症化につながる可能性がある。過去には天然痘ワクチンは予防効果があったが、今日では、40~50歳未満の人(国によって異なる)は、天然痘の根絶後に世界的に天然痘ワクチン接種キャンペーンが中止されたため、サル痘に感受性がある。サル痘の合併症には、二次感染、気管支肺炎、敗血症、脳炎、視力喪失を伴う角膜の感染が含まれる。歴史的にはサル痘の致死率は0~11%であり、幼児で高い。最近の致死率は約3~6%である。

診断

 鑑別診断には、水痘、麻疹、細菌性皮膚感染症、疥癬、梅毒、薬物関連アレルギーなどの他の発疹性疾患が含まれる。前駆期のリンパ節腫脹は、サル痘を水痘や天然痘と区別するための臨床的特徴である。
 サル痘が疑われる場合、医療従事者は適切な検体を収集し、適切な能力を備えた検査室に安全に輸送する必要がある。サル痘の確認は、検体の種類と質、および臨床検査の種類によって異なる。PCR検査は精度と感度を考えると、好ましい臨床検査である。サル痘の最適な診断検体は、皮膚病変(水疱や膿疱の屋根または体液、および乾燥した外皮)からのものである。ウイルス血症の期間が短いため、血液のPCR検査は決定的ではなく、患者を定期的に採血すべきではない。
 オルトポックスウイルス属は血清学的に交差反応性であるため、抗原および抗体の検出方法ではサル痘に特異的な確認はできない。ワクシニアベースのワクチンによる最近または昔のワクチン接種は、偽陽性の結果につながる可能性がある。

治療

 サル痘の治療は症状を緩和し、合併症を管理し、長期的な後遺症を防ぐために行う。二次細菌感染症は、必要に応じて治療する。天然痘用に開発された抗ウイルス薬のテコビリマット(tecovirimat)は、2022年に欧州医薬品庁(EMA: European Medicines Agency)からサル痘用としての認可を受けた。

ワクチン

 天然痘ワクチンはサル痘の予防に約85%有効である。従って、過去の天然痘ワクチン接種はサル痘を軽症化する可能性がある。現時点では、オリジナルの(第1世代の)天然痘ワクチンは一般に利用できない。改変弱毒化ワクシニアウイルス(アンカラ株[Ankara strain])に基づく新しいワクチンが、2019年にサル痘の予防のために承認された。

 

 

[註釈1]
天然痘:感染力が強く、致命的であり、患者の約30%が死亡した。

[註釈2]
クレード(clade):分岐群。ある共通の祖先から進化した生物すべてを含む生物群のこと。

文献

  1. WHO. Monkeypox
    https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/monkeypox

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問