VE(vaccine efficacy/effectiveness
[ワクチンの効力/有効性])[註1]の低下は、必ずしも防御能の喪失を意味していない。例えば、mRNAワクチンの症候性疾患に対するVEの10パーセントポイント[註2]の低下は、依然として約85%もの高いワクチン有効性を意味している。さらに、ワクチンは重症疾患に対して高いVEを示している。VOC(variant
of interest:
注目すべき変異株)による重症疾患に対するVEが僅かに低下したとしても、依然として実質的な防御能がある。WHOが変異株に対するワクチンのVEを要約しているので紹介する[図]1)。また、VOCに対するワクチンの有効性を評価した6件の研究があるので、これらについても紹介する。
研究①:英国
- ワクチン完全接種後10週以上経過した時点での症候性疾患に対するVEは、Pfizer BioNTech-ComirnatyおよびAstraZeneca-Vaxzevriaにおいて、デルタよりアルファの方が高かった。
- ワクチン完全接種後2~9週間後のアルファの症候性疾患に対するVEは、Pfizer BioNTech-ComirnatyおよびAstraZeneca-Vaxzevriaでそれぞれ95.0%(95%CI:93.8-96.0%)および81.9%(79.2-84.3%)であった。しかし、デルタの症候性疾患に対するVEは、それぞれ89.8%(89.6~90.0%)および66.7%(66.3~67.0%)と低下した。
- ワクチン完全接種の2~9週間後のデルタの症候性疾患に対するModerna-mRNA-1273の2回接種のVEは100%であった(アルファについては比較可能なVEはない)。
- デルタの症候性疾患に対するVEは、ワクチン完全接種後の最初の数週間でピークに達するが、ワクチン完全接種後20週以上が経過した時点で、Pfizer BioNTech-Comirnatyで69.7%(95%CI:68.7-70.5%)、AstraZeneca-Vaxzevriaで47.3%(45-49.6%)に低下した。
- デルタによる入院と死亡に対する防御は、Pfizer BioNTech-Comirnatyの2回目の接種後少なくとも20週間は高いままであり、VEはそれぞれ92.7%(90.3-94.6%)と90.4%(85.1~93.8%)であった。
- AstraZeneca-Vaxzevriaでは、入院および死亡に対する防御の若干の低下が観察され、2回目接種から20週間以上経過した時点でのVEはそれぞれ77.0%(70.3-82.3%)および78.7%(52.7-90.4%)であった。
研究②:米国
- アルファおよびデルタの有病率が高い期間における18歳以上でのSARS-CoV-2感染および入院の予防に対するJanssen-Ad26.COV2.Sワクチンの有効性を評価した。
- 感染に対するVEは、アルファおよびデルタの流行期間で類似しており、アルファ流行期間では79%(77-80%)、デルタ流行期間では78%(73-82%)であった。
- 入院に対するVEも同様であり、アルファ流行期間とデルタ流行期間でそれぞれ81%(79-84%)および85%(73-91%)であった。
研究③:米国
- 5つの退役軍人医療センターでCOVID-19による入院に対するmRNAワクチンのVEを評価した。
- 入院に対するmRNAワクチン(Pfizer BioNTech-ComirnatyまたはModerna-mRNA-1273)のVEは、アルファが優勢な変異株であった2021年2月から6月(84.1%、95%CI:74.1-90.2%)とデルタが優勢な変異株であった2021年7月から8月(89.3%、95% CI: 80.1-94.3%)で類似していた。
研究④:米国
- 米国でデルタが優勢であった2021年6月~7月に、18歳以上の成人に対するPfizer BioNTech-Comirnaty、Moderna-mRNA-1273、Janssen-Ad26.COV2.Sワクチンの有効性を評価した。
- 最終接種してから14日以上経過した時点での入院に対するVEは、Pfizer BioNTech-Comirnaty、Moderna-mRNA-1273、Janssen-Ad26.COV2.Sでそれぞれ、80%(73-85%)、95%(92-97%)、60%(31-77%)であった。同様のVEが、緊急および緊急ケアの訪問で観察された。これらのVEは、デルタが優勢になる前の数か月間のVEと類似していた。
研究⑤:米国
- 2021年7月(75%以上がデルタであった時期)における15歳以上の人々でのSARS-CoV-2感染に対するmRNAワクチンおよびAd26.COV2.S-JanssenのVEを評価した。
- mRNAワクチンの2回接種のVEは74%(65-82%)であり、Janssen-Ad26.COV2.Sの1回接種のVEは51%(-2-76%)であった。
- 2021年6月(デルタがわずか4%を占めた)と比較して、mRNAワクチンのデルタ感染に対するVEが減少した(VE 84%、95%CI:60-94%)。
研究⑥:米国
- アルファが優勢であった4月から5月と比較して、デルタが優勢であった6月から8月における無症候性感染に対するmRNAワクチンのVEは僅かに減少した(63%(44-76%)vs.71%(53-83%))。
まとめ
- これらの研究を総合すると、デルタによる重症疾患に対するmRNAワクチン、AstraZeneca-Vaxzevria、Ad26.COV2.S-JanssenのVEは高く、アルファでのVEと類似していた。
- これらの研究の大部分は、症候性疾患、感染、無症候性疾患に対するワクチンのVEがアルファと比較してデルタで減少した可能性があることを示唆している。
文献
- WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 – 21 September 2021
https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19—21-september-2021
[註1]
臨床試験でワクチンがどれだけうまく機能するかを表すのが「効力(efficacy)」であり、リアルワールドの観察研究でのワクチンの性能を表しているのが「有効性(effectiveness)」である。
[註2]
百分率(パーセント)で表示された数値同士を比較した差に使う単位である。例えば、1回目の調査研究で「はい」と回答した人が50%で、2回目は40%だった場合、「10%ポイント」減ったと表現する。
矢野 邦夫
浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問