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116号 体操施設におけるSARS-CoV-2デルタ株によるアウトブレイク
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SARS-CoV-2のB.1.617.2変異株(デルタ株)は、2020年後半にインドで同定され、その後約60か国で検出されている。デルタ株は、他の変異株よりも高い感染性を持っている可能性がある。2021年4月15日から5月3日までの期間に、米国オクラホマ州の体操施設でデルタ株によるアウトブレイク(47人)が発生した。その詳細がMMWRに記述されているので紹介する1)

調査と調査結果

  • 2021年4月15日、B.1.617.2変異株に感染したオクラホマ州住民1人が特定された。その後、オクラホマ州中央部でクラスターが発生したことが明らかになり、体操施設Aが曝露場所であることが特定された。
  • アウトブレイク関連症例は「①施設Aへの疫学的リンクのあるCOVID-19症例で、B.1.617.2変異株が同定された症例」または「②アウトブレイク関連症例に疫学的にリンクした確定例もしくは可能性例のCOVID-19症例」とした。
  • 曝露接触は、4月1日から5月3日に施設Aに通ったコホート[註釈]のメンバーおよびスタッフ、およびアウトブレイク関連症例の世帯内接触として定義した。
  • アウトブレイクに関連したオクラホマ州住民のCOVID-19症例4人は、感染性期間中に州外の地域体操大会(4月15~18日と4月23~26日)に2回参加した[図]。

施設Aのアウトブレイク関連症例

  • 2021年5月27日の時点で、施設Aに関連するCOVID-19症例47人が特定され、その内訳は体操選手23人、スタッフ3人、家族内接触者21人であった。
  • アウトブレイク関連症例47人のうち、配列決定に利用可能な21検体(45%)すべてでB.1.617.2変異株が同定された。
  • 2021年4月15日に施設Aの発端者(体操選手)が特定されてから、5月3日まで症例が発生し続けた[図]。
  • 症例の年齢の中央値は14歳(範囲=5~58歳)であった。約半数は女性であり、3分の2は非ヒスパニック系白人であった。症例47人のうち、成人2人が入院し(ワクチン未接種で疫学的に関連している)、1人に集中治療が必要であった。

COVID-19ワクチンの年齢-適格性とワクチン接種状況

  • 同定された曝露者194人のなかで、74人(38%)がアウトブレイクが始まった4月15日までに、COVID-19ワクチン接種の適格年齢であった。これらのワクチン適格者のうち、17人(23%)が完全ワクチン接種者であり、そのうち4人(9%)は軽症であった。
  • アウトブレイク関連症例47人のうち、4人(9%)が軽症であった(3人はModernaワクチンを、1人はPfizer-BioNTechを接種していた)。残りの43人のうち、40人(85%)はワクチン未接種者であり、3人(6%)は部分接種者であった。そして、27人(63%)は、アウトブレイクが始まったとき、ワクチン接種の年齢適格ではなかった。

B.1.617.2変異株の伝播の概要

  • 2021年4月15日から5月3日までの期間に、COVID-19症例が16のコホートのうち10で発生した。それには、男性コホート9のうち4、女性コホート7のうち6、そして、3人のスタッフが含まれた。
  • 症例が特定されたコホートでの発病率は8%から60%の範囲(中央値= [全体]32%、[男性]42%、[女性]20%)であった。
  • 症例のいる26世帯のうち、5世帯(19%)は追跡調査できず、14世帯(54%)からは二次症例は報告されなかった。二次感染が判明している7世帯での発病率は80%から100%の範囲であった。
  • 194人の曝露者での施設関連の全体的な発病率は24%であり、133人中26人(20%)の体操選手とスタッフ、80人中42人(53%)の世帯内接触者が含まれている。

考察

  • 新たなエビデンスは、B.1.617.2変異株の発病率が、B.1.1.7変異株(アルファ株)を含む他の懸念される変異株(variants of concern)よりも高い可能性を示唆している。
  • このアウトブレイクの世帯内での発病率(53%)は、他のSARS-CoV-2株に関連した二次発病率(17%)よりも高かった。
  • これらの調査結果は、B.1.617.2変異株が屋内スポーツ環境や家庭内で非常に感染性が高く、曝露者での発病率も高くなることを示唆している。
  • 現時点では、B.1.617.2変異株に対するCOVID-19ワクチンの実際の有効性は不明であるが、現在のエビデンスは、米国の緊急使用許可の下で承認されたワクチンが変異株に対して有効であることを示している。
  • アスリートやアスリートスタッフを含むすべての適格者は、COVID-19ワクチンを接種する必要がある。特に、身体的距離を維持することが難しい激しいスポーツでは必要である。さらに、屋内スポーツに参加している人とその接触者でのSARS-CoV-2伝播を減らすために、多要素的な予防戦略(例:検査、症状モニタリング、その他の状況固有の対策)は依然として重要である。

文献

  1. Dougherty K, et al. SARS-CoV-2 B.1.617.2 (Delta) variant COVID-19 outbreak associated with a
    gymnastics facility ̶ Oklahoma, April‒May 2021
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/pdfs/mm7028e2-H.pdf

[註釈]
コホートは、スキルレベルと性別でグループ化された体操選手のグループであり、施設Aには16のコホートがあった。
各コホートには指定された練習スケジュールがあり、施設A内の他のコホートとのやり取りは限られていた。

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問