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114号 COVID-19ワクチン接種後の不安関連の有害事象
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これまでのワクチンと同様に、COVID-19ワクチンでも不安関連の有害事象が発生することがある。CDCがJanssen COVID-19ワクチン接種後の不安関連の有害事象について報告しているので紹介する1)。ここで報告されている症例は、血小板減少症候群を伴う血栓症が報告される前の事例である。
2021年4月7日(Janssen COVID-19ワクチンを5週間接種した後)、CDCは5か所の集団接種会場(すべてが異なる州)から接種後の不安関連の有害事象のクラスターの報告を受けた。さらなる調査のために、CDCは接種会場のスタッフにインタビューし、報告された事象と接種会場の実践に関する追加情報を収集した。また、ワクチン有害事象報告システム(VAERS:Vaccine Adverse Event Reporting System)[CDCとFDAが管理するワクチン安全性監視プログラム]に報告されたJanssen COVID-19ワクチンの接種直後の失神についても解析し、インフルエンザワクチン接種後の失神と比較した。

不安関連の有害事象のクラスター

  • 不安関連の有害事象の定義は「これらのクラスターを報告した5つの会場のいずれかでワクチン接種後15分間の観察中に頻脈、過呼吸、呼吸困難、胸痛、知覚異常、立ちくらみ、低血圧、頭痛、蒼白、失神のいずれかが発生した人」とした。
  • 2021年4月7~9日に発生した不安関連の有害事象の64症例(失神17件を含む)が5つの集団接種会場から報告された。重症例はなかった。最も多く報告された症状は、立ちくらみまたはめまい(56%)、蒼白または発汗(31%)、失神(27%)、悪心または嘔吐(25%)、および低血圧(16%)であった。13人(20%)の患者に、注射または注射針の嫌悪感に関連した失神の病歴があった。
  • 不安関連の有害事象の有病率は、被接種者1,000人当たり5.2~13.5人であった。64症例のうち、39症例(61%)が女性であった。患者の年齢中央値は36歳(範囲=18~77歳)であり、殆どが15分以内に回復した。
  • 5つの会場のうち4つがドライブスルー接種を提供していた。それらの接種会場は、これまで1日当たり1,000~4,000件のmRNA COVID-19ワクチンを接種していたが、同様の有害事象のクラスターは報告されなかった。

VAERSへの失神の報告

  • 5つの集団接種会場から報告された不安関連の有害事象に加えて、3月2日から4月11日の期間にJanssen COVID-19ワクチンを接種した後の「失神」または「血管迷走神経性失神」を含むすべてのVAERSレポートがレビューされ、653件の症例が特定された[表]。
  • 653件の報告のうち17件(3%)が重症として分類された。VAERSでは、入院、入院期間の延長、生命を脅かす病気、永続的な障害、先天性異常または先天性欠損症、死亡のいずれかが報告されると、重症として分類される。
  • 123件(19%)の被接種者には注射または注射針の嫌悪感に関連した失神の病歴があった。653件のうち、327件(50%)が女性であった。
  • Janssen COVID-19ワクチン接種後の失神患者の年齢中央値は30歳(範囲=18~82歳)であった。失神の頻度は18~29歳で最大であり、年齢層が増えるにつれて減少した。
  • 比較対象として、2019年7月1日から2020年6月30日までの期間でのインフルエンザワクチン接種後の失神が調査された、その結果、60件が特定され、10万回の接種当たり0.05件であった。インフルエンザワクチン接種後の失神は、18~29歳で最も多く、年齢中央値は26歳(範囲=18~88歳)であった。インフルエンザワクチン接種後の失神60件の報告のうち、15件(25%)は、失神または注射針の嫌悪感の病歴を持っていた。
Janssen COVID-19ワクチンおよびインフルエンザワクチンの接種後の10万人の接種者当たりの報告された失神事象および患者の人口統計学的特徴―ワクチン有害事象報告システム、米国、2019年7月1日~2021年4月12日

考察

  • 失神を含む不安関連の有害事象は、ワクチン接種直後に発生することがあり、注射を受けることへの不安によって引き起こされる可能性がある。
  • 2021年3月から4月にかけて、米国で接種された798万回のJanssen COVID-19ワクチン接種のうち、失神のVAERSへの報告率は10万回当たり8.2件であった。失神の報告は、インフルエンザワクチン接種後(10万回当たり0.05件)よりもJanssen COVID-19ワクチン接種後(10万回当たり8.2件)の方が約164倍多かった。
  • Janssen COVID-19ワクチンの接種後の失神およびその他の不安関連の有害事象の約4分の1は、過去にワクチン接種後に同様の事象を経験した人に発生した。
  • Janssen COVID-19ワクチンは単回投与であるため、このワクチンは注射針を嫌う人にとって魅力的な選択肢となる。従って、Janssen COVID-19ワクチン接種を求める人の中には、ワクチン接種後に不安関連の有害事象となる人が多く含まれる可能性がある。
  • 進行中のパンデミックのストレスも、COVID-19ワクチン接種を取り巻く不安を増大させている。さらに、集団接種の状況では、現場で他の人が不安関連の有害事象を目撃したり、メディアによって不安関連の有害事象が報道されたりすることが、追加の不安誘発事例を引き起こしている。
  • Janssen COVID-19ワクチン接種後の失神のVAERSへの報告の約半分は、ワクチン接種が推奨された最年少の年齢層(18~29歳)であった。COVID-19ワクチンの接種が若い年齢層に拡大するにつれて、不安関連の有害事象が多くなることに注意する必要がある。
  • ワクチン接種実施者は、インフルエンザワクチン接種後よりもJanssen COVID-19ワクチンの接種後の方が、不安関連の有害事象がより頻繁に報告される可能性があることを認識し、すべてのCOVID-19ワクチンの被接種者に副反応がないかどうかを少なくとも15分間観察することが大切である。

文献

  1. Hause AM, et al. Anxiety-related adverse event dlusters after Janssen COVID-19 vaccination̶Five U.S. mass vaccination sites, April 2021
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/pdfs/mm7018e3-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問