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99号 新型コロナウイルス感染症と妊婦
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現在、新型コロナウイルス感染症は中国で蔓延し、日本において散発的に発生している。そして、今後はパンデミックとなってゆくのではと心配されている。その結果、どの医療機関もこの感染症に罹患した患者を受け入れることになり、感染者のなかには妊婦や授乳中の女性も含まれることであろう。ここでは妊娠と新型コロナウイルスについて、CDCのQ&Aから抜粋して紹介する1)。なお、新型コロナウイルス感染症は正式名称を「COVID-19」と命名されている。これは「Coronavirus Disease 2019」に由来している。その原因ウイルスは「SARS-CoV-2」と命名されているが、それは「Severe Acute Respiratory Syndrome coronavirus 2」に由来している。
妊婦はCOVID-19に感受性が高いか?また、COVID-19による重症疾患、罹患率、致死率が一般人と比較して高いか?
COVID-19に対する妊婦の感受性についての科学的データはない。妊婦では免疫学的および生理的変化がみられるため、COVID-19などの呼吸器ウイルス感染症への感受性が高くなっている。他のコロナウイルス感染症(severe acute respiratory syndrome coronavirus(SARS-CoV)やMiddle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV))および他の呼吸器ウイルス感染症(インフルエンザなど)の妊婦症例で観察されるように、妊婦は一般の人々と比較して、重症疾患、罹患率、致死率についてのリスクが高い。
COVID-19の妊婦では、妊娠の有害転帰のリスクがあるか?
COVID-19の妊婦における妊娠中の有害転帰についての情報はない。流産や死産が妊娠中の他のコロナウイルス(SARS-CoVおよびMERS-CoV)の症例で観察されている。第一トリメスターでの高熱は特定の先天性欠損症のリスクを増大させる。
妊娠中の医療従事者がCOVID-19の患者をケアすると、有害転帰のリスクが高まるか?
推奨される感染予防および制御法を遵守することは、医療施設において医療従事者を守ることの重要な要素である。妊婦のCOVID-19についての情報は極めて少ない。医療機関は妊娠している医療従事者がCOVID-19が確定もしくは疑われている患者に曝露することを最小限にする努力をすべきである。特に、ハイリスク処置(エアロゾル産生処置など)のときには、考慮すべきである。
COVID-19の妊婦は、SARS-CoV-2を胎児や新生児に伝播するか(すなわち、垂直感染するか)?
SARS-CoV-2は主に、呼吸器飛沫を介して、感染者と濃厚接触することによって、拡散すると思われる。COVID-19の妊婦がウイルスを胎児や新生児に垂直感染(出産の前、中、後)に伝播させるかどうかは不明である。しかし、COVID-19の母親に生まれた幼児についての最近の情報によると、幼児の誰も感染しなかった。更に、SARS-CoV-2は羊水や母乳の検体には検出されなかった。他のコロナウイルス(MERS-CoVおよびSARS-CoV)の垂直伝播についての情報は限られているものの、やはり垂直伝播は報告されていない。
COVID-19の妊婦に生まれた幼児では有害転帰のリスクが高いか?
限られた症例報告によると、妊娠中にCOVID-19を合併した母親に生まれた幼児において、有害転帰(早産など)が報告されている。しかし、これが母親の感染に関連したかどうかは明確ではない。現時点では、幼児の有害転帰のリスクは不明である。妊娠中のCOVID-19に関連した入手可能なデータは限られているが、他の呼吸器ウイルス感染症による有害転帰の知識はいくらかの情報を与えてくれる。例えば、妊娠中の呼吸器ウイルス感染症(インフルエンザなど)は新生児の有害転帰(低体重児、早産など)を引き起こす。さらに、妊娠早期に高熱を伴う感冒やインフルエンザは特定の先天性欠損症のリスクを引き上げる。妊娠中に他のコロナウイルス(SARS-CoVやMERS-CoV)に感染した母親で早産や低体重児の出産があった。
妊婦もしくは新生児のCOVID-19が、幼児期を超えて臨床的サポートを必要とするような幼児の健康および発達における長期影響を引き起こすリスクはあるか?
現時点ではCOVID-19の幼児、もしくは子宮内でSARS-CoV-2に曝露した幼児における長期の健康への影響についての情報はない。通常、早産や低体重は長期の有害転帰に関連する。
COVID-19の母親から母乳を与えられている幼児にリスクはあるか?
COVID-19は患者と濃厚接触することによってヒト-ヒト伝播することが報告されており、感染者が咳やくしゃみをしたときに生み出される呼吸器飛沫を介して感染すると思われる。現在までに報告された症例は限定的であるが、SARS-CoV-2が母乳から検出されたというエビデンスはない。母乳を介してSARS-CoV-2が伝播したとの情報もない。過去のSARS-CoV(註釈:SARS-CoV-2ではない)に感染した授乳中の女性についての限られた報告によると、ウイルスは母乳には検出されなかった。しかし、SARS-CoVの抗体が少なくとも1件のサンプルで検出された。

文献

  1. CDC. Frequently Asked Questions and Answers: Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) and Pregnancy
    https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/specific-groups/pregnancy-faq.html

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科部長
兼 衛生管理室長