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98号 CDC「抗菌薬耐性の脅威レポート(2019年)」
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CDCの「抗菌薬耐性の脅威レポート(2019年)」には米国での死亡者および感染者数の推定数が記載されており、米国において耐性菌の脅威が継続していることを強調している1.2)。このレポートによると、米国では毎年、280万件以上の耐性菌による感染症が発生しており、35,000人以上の人々が死亡している。また、2017年は223,900件のクロストリディオイデス・ディフィシル症例が発生し、少なくとも12,800人が死亡した。
耐性菌によって引き起こされる感染症や死亡数を減らすために、米国においては予防策や感染制御が徹底の努力がなされているが、耐性菌に直面している人々の数は依然と多い。人々を守るためには更なる活動が必要である。
CDCは市中においても耐性菌感染症が増加していることを憂慮している。それは人々を危険に陥らせ、拡散することによって、その同定や封じ込めを困難なものにしている。また、新しい耐性菌の出現と拡散も心配されている。この報告では18種類の抗菌薬耐性の細菌および真菌を人間の健康への心配レベルに基づいて、3つのカテゴリー(「切迫した脅威」「重大な脅威」「憂慮される脅威」)に分類している。ここでは「切迫した脅威」として列挙されている5種類の耐性菌を解説する。

抗菌薬耐性の脅威レポート(2019年)で列挙された最近および真菌

■切迫した脅威(Urgent Threats)
カルバペネム耐性アシネトバクター(Carbapenem-resistant Acinetobacter
カンジダ・オーリス(Candida auris
クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae)
薬剤耐性淋菌(Drug-resistant Neisseria gonorrhoeae

■重大な脅威(Serious Threats)
薬剤耐性カンピロバクター(Drug-resistant Campylobacter
薬剤耐性カンジダ属(Drug-resistant Candida
ESBL産生腸内細菌科細菌(ESBL-producing Enterobacteriaceae)
バンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin-resistant Enterococci : VRE
多剤耐性緑膿菌(Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa
薬剤耐性非チフス性サルモネラ属(Drug-resistant nontyphoidal Salmonella
薬剤耐性チフス菌(Drug-resistant Salmonella serotype Typhi)
薬剤耐性赤痢菌(Drug-resistant Shigella
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus : MRSA)
薬剤耐性肺炎球菌(Drug-resistant Streptococcus pneumoniae
薬剤耐性結核菌(Drug-resistant Tuberculosis)

■憂慮される脅威(Concerning Threats)
エリスロマイシン耐性A群連鎖球菌(Erythromycin-Resistant Group A Streptococcus
クリンダマイシン耐性B群連鎖球菌(Clindamycin-resistant Group B Streptococcus

■警戒リスト(Watch List)
アゾール系耐性アスペルギルス・フミガーツス(Azole-resistant Aspergillus fumigatus
薬剤耐性マイコプラズマ・ゲニタリウム(Drug-resistant Mycoplasma genitalium
薬剤耐性百日咳菌(Drug-resistant Bordetella pertussis

カルバペネム耐性アシネトバクター

  • カルバペネム耐性アシネトバクター(Carbapenem-resistant Acinetobacter)は肺炎、創部感染、血流感染、尿路感染を引き起こす。これらの感染症のほぼ全てが最近に医療施設でケアを受けた患者で発生している。
  • 2017年の入院患者での症例の推定数:8,500
  • 2017年の死亡の推定数:700
カルバペネム耐性アシネトバクターの年次症例数
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カンジダ・オーリス

  • カンジダ・オーリス(Candida auris)は新興の多剤耐性真菌である。重症感染症を引き起こし、入院患者およびナーシングホームの居住者の間で容易に拡散する。
  • 2018年の症例数:323
米国におけるC.aurisの臨床症例数
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米国ではC.aurisは2015年に拡散が始まった。2015年~2017年に報告された平均症例数に比較して、2018年は318%の症例数の増加があった。

世界で発生したC.aurisの4つの株の分布
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C.aurisの4つの異なる株が世界で同時に発生した理由は不明である。4株全てが米国でみられており、国際旅行によって持ち込まれ、米国の医療施設で拡散したと思われる。

クロストリディオイデス・ディフィシル

  • クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)は生命を脅かす下痢および大腸炎を引き起こし、主に、最近の医療ケアおよび抗菌薬の両者を受けた人々で発生している。
  • 年間の感染者数:223,900
  • 年間の死亡者数:12,800
入院が必要となった症例もしくは既に入院している患者に影響したC.difficile症例の推定数
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カルバペネム耐性腸内細菌科細菌

  • カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem-resistant Enterobacteriaceae : CRE )は悪夢の細菌(Nightmare bacteria)としても知られている。CREは医療施設の患者での主な心配事である。腸内細菌科細菌の一部は殆ど全ての抗菌薬に耐性となり、それによって治療オプションとしては毒性が強く、効果の少ない治療が残されることになる。
  • 2017年の入院患者における症例の推定数:13,100
  • 2017年の死亡の推定数:1,100
入院患者におけるCREの推定症例数
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薬剤耐性淋菌

  • 淋菌(Neisseria gonorrhoeae)は生命を脅かす子宮外妊娠や不妊症を引き起こしうる。性交渉によって伝播し、HIVをパートナーに感染させ、もしくはパートナーから感染させられるリスクを増大している。
  • 年間の薬剤耐性感染症の推定数:550,000
耐性淋菌感染症の割合
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淋菌は急速に抗菌薬耐性となった。セフトリアキソンが最後の推奨治療薬となった。

文献

  1. CDC . Antibiotic / Antimicrobial Resistance (AR / AMR)
    https://www.cdc.gov/drugresistance/biggest-threats.html
  2. CDC . Antibiotic resistance threats in the United States 2019
    https://www.cdc.gov/drugresistance/pdf/threats-report/2019-ar-threats-report-508.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科部長
兼 衛生管理室長