COVID-19の検査として、これまでPCR検査が使用されてきた。PCR検査は結果を得るまで数時間を要するため、最近はベッドサイドで迅速に結果が得られる迅速抗原検査も用いられている。しかし、迅速抗原検査は偽陽性や偽陰性が発生することがあり、数々の問題を我々に与えている。CDCがSARS-CoV-2の迅速抗原検査についての暫定ガイダンスを公開しているので重要ポイントを抜粋して紹介する1)。
SARS-CoV-2の診断検査およびスクリーニング検査の定義
[診断検査の定義]
- SARS-CoV-2の診断検査は、個人の現在の感染を特定することを目的としている。「COVID-19と一致する症状がある場合」または「無症候性であるが、SARS-CoV-2に最近曝露したことが判明もしくは疑われる場合」に実施される。
- 診断検査の例としては「症状のある人」「接触者調査によって同定された人」「COVID-19の確定例もしくは疑い例に曝露した可能性がある人」の検査がある。
[スクリーニング検査の定義]
- SARS-CoV-2のスクリーニング検査は「SARS-CoV-2への曝露が判明していない、もしくは曝露が疑われていない無症状感染者」を特定することを目的としている。
- スクリーニング検査は、感染性の可能性がある人を特定することを目的として実施され、それによって感染対策を講じることができる。
- スクリーニング検査の例としては「介護施設や矯正施設で検査する」「職場で従業員を検査する」「学校で学生、教職員、職員を検査する」など、人々が集まる環境での検査がある。
SARS-CoV-2の迅速抗原検査
[一般的ガイダンス]
- 迅速抗原検査は、特定のウイルス抗原の存在を検出するイムノアッセイであり、現時点の感染の有無を示す。比較的安価であり、患者のベッドサイドで約15分で結果を提示することができる。しかし、PCR検査よりも感度が低い。
- 迅速抗原検査の結果を適切に解釈することは、「COVID-19が疑われる患者に対して、正確に臨床的な対応する」または「スクリーニング検査として使用した場合、感染の可能性がある人を特定する」のために重要である。
- 迅速抗原検査の臨床結果の判断は、それらが使用される状況に大きく左右される。ウイルス量が最も高いSARS-CoV-2感染の初期段階で検査された場合は、迅速抗原検査は特に有用である。また、COVID-19の確定例への曝露が判明している状況においても役立つことがある。
- 迅速抗原検査は、感染リスクの高い集団でのスクリーニング検査にも使用できる。迅速抗原検査を繰り返せば、SARS-CoV-2感染者を迅速に識別して感染の予防手段を通知できるので、集団全体での感染を防ぐことができる。特に迅速に結果を得ることが必要な状況では、感度がPCR検査よりも低くても、迅速抗原検査で即時の結果を得ることに価値がある場合がある。
[迅速抗原検査の性能]
- SARS-CoV-2の臨床診断のための「ゴールドスタンダード」は、依然としてPCR検査である。従って、特に抗原検査の結果が臨床状況と一致しない場合は、迅速抗原検査の結果をPCR検査で確認する必要がある。
- 抗原検査の結果をPCR検査で確認する場合、「2つのサンプル収集の時間間隔が2日未満である」および「2つの検査の間に新たな曝露の機会がない」が重要である。2つの検査を2日以上隔てて行った場合、または2つの検査の間に新たな曝露の機会があった場合は、PCR検査は確認検査ではなく、別個の検査と見なされるべきである。
- 一般に、迅速抗原検査の感度はPCR検査よりも低い。既にFDAで認可されている2つの抗原検査は、PCR検査と比較して84%および97%の感度である。
- 症状のある患者の一部では、5日間以上経過したときの抗原レベルが、迅速抗原検査の検出限界を下回ることがある。従って、抗原検査が陰性であっても、PCR検査では陽性となる可能性がある。
- 迅速抗原検査の特異性はPCR検査と同程度に高く、既に認可されている2つの迅速抗原検査は100%の特異性を持っている。すなわち、偽陽性結果はほとんどない。
- すべての体外診断検査の陽性的中率と陰性的中率は、検査される患者の事前検査の確率によって異なる。検査前確率は、地域社会における感染症の有病率、および受診者の臨床状況に影響される。
[迅速抗原検査の結果の評価](図1,2)
- 一般に、迅速抗原検査の特異性は高いため、臨床医は陽性結果を信頼することができる。しかし、感度については様々であるため、陰性結果は推定値とみなすべきである。
- 患者に「症状がある」「COVID-19患者への曝露がある」など、検査前確率が比較的高い場合には、迅速抗原検査が陰性結果であっても、PCR検査で確認することを推奨する。理想的には、PCR検査による確認検査は、最初の迅速抗原検査から2日以内に行う。
- 隔離の中止に関する決定を下すために抗原検査を使用することは推奨されない。
- 迅速抗原検査をスクリーニング検査に使用する場合、その検査結果は推定値と見なすべきである。検査前確率が高い場合(その人に症状がある場合、曝露を受けている場合)、迅速抗原検査が陽性であれば、確認検査としてのPCR検査は必要ないかもしれない。検査前確率が低い場合、迅速抗原検査が陽性であれば、PCR検査で確認できるまで隔離する必要がある。
- 迅速抗原検査をスクリーニング検査として使用する場合、結果が陰性であれば、検査前確率が低い場合(その人が無症状であるか、既知の曝露がない場合)、または定期的に迅速抗原検査を受ける集団の一部である場合は、確認検査としてのPCR検査は必要ない場合がある。
文献
- CDC. Interim guidance for rapid antigen testing for SARS-CoV-2
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/lab/resources/antigen-tests-guidelines.html
矢野 邦夫
浜松医療センター院長補佐
兼 感染症内科部長
兼 衛生管理室長