結婚式
2019年8月26日、ネブラスカ州保健社会福祉部は、サウスダコタ病院から「8月3日にネブラスカ州での結婚式に出席した人の中で3人にムンプスの疑いがある」との連絡を受けた。8月28日、花嫁から176世帯の家族(約325人の出席者)を含む出席者リストが得られた。彼女は罹患したと思われる出席者25人を特定していた。これには発端症例(結婚式のあと24時間未満かつ次に最も早く病気になった人の発症日の15日前に症状がみられた出席者)が含まれていた。リストの出席者の居住地域は14州にまたがっていた。
発端症例
発端症例は25歳のネブラスカ州の住民であり、子どもの世話人として働いていた。彼女は7月25日から6日間にわたって、フロリダ州とアンティグアでの家族休暇から戻った1歳の病気の子どもと濃厚接触した。子どもは6月にMMRワクチンの初回接種を受け、7月24日に休暇から戻ったときに高熱となり、頻繁に耳を引っ張っていた。そして、7月24、26、27日に医師の診察を受け、ウイルス性疾患の診断を受けた。
発端症例は、8月3日(子どもとの最初の接触から9日後)の結婚式に出席し、飲み物を共有したり、ダンスしたりしていた。彼女は翌日(8月4日)に左耳と顎の圧痛があり、8月5日(曝露後11日目)に耳下腺炎を発症した。そして、8月9日(曝露後15日目)に受診した。コルチコステロイドによる治療を受けたが、診断検査が行われなかったため、ムンプスの可能性例に分類された。彼女は予防接種慣行諮問委員会(ACIP: Advisory Committee on Immunization Practices)のガイドラインに従って予防接種を完遂していた。
二次症例
結婚式に出席した325人のうち、148人(46%)がオンラインアンケートに回答した。そして、二次症例31人(確定例13人と可能性例18人を含む)が特定された。二次症例の患者は、8月19日から9月1日(結婚式の16~29日後)に耳下腺炎を発症した。
二次症例の中の30人が結婚式に参加していた(罹患率=325人中30人[9%])。1人の患者は結婚式に出席しなかったが、他の場所で発端患者に曝露していた。14人の患者(45%)は、ネブラスカ州北東部の町で、人口約1,400人のコミュニティAに住んでいた。結婚式に出席した30人の患者のうち、15人(50%)が2回のMMRワクチン接種を受けていた。
三次・四次症例
引き続いて、三次症例27人(確定例23人、可能性例4人)が特定された。耳下腺炎の発症日は、9月7日から9月23日(結婚式の35~51日後)であった。そのうち、17人(63%)が地域Aに住んでいた。6人が疫学的に二次症例と関連していた。18人はコミュニティAのさまざまなイベントに関連していた。3人はコミュニティAの住民であり、他に疫学的関連は知られていない。
さらに、四次症例3人(全員が確定例)が特定された。耳下腺炎の発症日は、9月26日から9月29日(結婚式の54~57日後)であった。3人全員がコミュニティAに住んでおり、疫学的に三次症例と関連していた。
症例全体
合計で62人の患者が特定された(確定例39人、可能性例23人)。そのうち54人(87%)はネブラスカ州の住民で、コミュニティAの34人(55%)と他の州の8人(13%)が含まれている。患者の年齢の中央値は35歳(範囲=6~59歳)であった。41人(66%)はMMRワクチンを2回以上接種し、37人(60%)は男性であった。
公衆衛生対応
二次症例の45%がコミュニティAの住民の間で発生しているため、州および地方の公衆衛生当局は、そのコミュニティでのMMRブースターワクチンキャンペーンを行った。ターゲット人口は700人と推定され、10月3日に327人(47%)がMMRワクチンを接種した。
考察
- 小児期のワクチン接種によるムンプスの免疫は、成人初期までに衰退する可能性がある。今回のアウトブレイクでは患者の約3分の2が2回以上のMMRワクチン接種を受けており、患者の年齢の中央値は35歳であった。そのため、ワクチンが誘発した免疫の衰退がこの発生に寄与した可能性がある。
- ムンプスは耳下腺炎の発症直前と発症中に最も感染力が高く、結婚式の翌日に発端症例が耳下腺炎を発症したため、イベントが出席者での伝播に寄与したと考えられる。
- 発症者の隔離とコミュニティ全体のMMRワクチン接種キャンペーンは、アウトブレイクを終わらせるのに役立った。
文献
- Donahue M,et al. Multistate mumps outbreak originating from asymptomatic transmission at a Nebraska wedding ‒ Six States,August‒October 2019
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/pdfs/mm6922a2-H.pdf
矢野 邦夫
浜松医療センター院長補佐
兼 感染症内科部長
兼 衛生管理室長