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96号 院内肺炎の治療のためのNICE推奨
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英国の国立医療技術評価機構(NICE: National Institute for Health and Care Excellence)が「肺炎(院内):抗菌薬処方」を公開している1)。この中で推奨についてのビジュアルサマリーが示されているので紹介する[図]。

図:肺炎(院内):抗菌薬処方

抗菌薬の選択:18歳以上の成人:抗菌薬*1および投与期間*2

症状や徴候が重症でなく、耐性菌のリスクが高くない場合の第一選択経口抗菌薬
(入手できれば微生物検査結果によって手引きする)*3

・アモキシシリン・クラブラン酸500/125mgを1日3回×5日投与して、再吟味する*4

ペニシリンアレルギーもしくはアモキシシリン・クラブラン酸が不適当な場合で、症状や徴候が重症でなく、耐性菌のリスクが高くない場合の代替経口抗菌薬
専門家の微生物学的助言および地域の耐性菌データに基づく選択をする。オプションには下記が含まれる。

・ドキシサイクリン200mgを初日に、以降は100mgを1日1回×4日(合計5日のコース)、そして再吟味する*4
・セファレキシン(ペニシリンアレルギーに注意)500mgを1日2~3回(1~1.5gを1日3~4回に増量可能)×5日、そして再吟味する*4
・ST合剤*5,6960mgを1日2回×5日、そして再吟味する*4
レボフロキサシン*6500mgを1日1~2回×5日、そして再吟味する*4
(専門家の助言で静注用レボフロキサシンから変更されるときのみ。安全問題を考慮する*7

症状や徴候が重症の場合(セプシスなど)、もしくは、耐性菌のリスクが高い場合*3の第一選択静注用抗菌薬
48時間までに静注用抗菌薬を再吟味し、上記のような経口抗菌薬に変更して、合計5日投与して、そして、再吟味する*4。専門家の微生物学的助言および地域の耐性菌データに基づいて選択する。オプションとしては下記が含まれる。

・ピペラシリン/タゾバクタム4.5gを1日3回(重症感染では4.5gを1日4回まで増量できる)
・セフタジジム2gを1日3回
・セフトリアキソン2gを1日1回
・セフロキシム750mgを1日3~4回(重症感染では1.5gを1日3~4回まで増量できる)
・メロペネム0.5~1gを1日3回
・セフタジジム/アビバクタム2/0.5gを1日3回
・レボフロキサシン*6(安全問題を考慮する*7)500mgを1日1~2回(重症感染症では高用量を用いる)

MRSA感染症が疑われるか確定した場合に追加される抗菌薬(上記の静注用抗菌薬との併用)

・バンコマイシン*515~20mg/kgを1日2~3回静注する。バンコマイシン血清濃度に従ってて調整する。重症ではローディングドーズとして25~30mg/kgを投与する(最大1回2g)
・テイコプラニン*5を最初は6mg/kgで12時間毎に3回投与し、その後、6mg/kgを1日1回
・リネゾリド*5(バンコマイシンが使用できない場合、専門家の助言のみ)600mgを1日2回(経口または静注)

[備考]
*1. 特別な集団(肝障害、腎障害、妊婦、授乳中、静注用(または筋注用)抗菌薬の投与など)における適切な使用と投与量については英国国民医薬品集を参照する。
*2. 経口投与は速放剤についてである。
*3. 耐性菌のハイリスクには入院後5日以降に発生した症状や徴候、重症肺疾患や免疫不全のような共存症、広域抗菌薬の最近の使用、多剤耐性菌の保菌、現在の入院前の健康もしくは社会ケア現場への最近の接触が含まれる。
*4. 抗菌薬を合計5日投与したあとに治療を再吟味し、臨床的に安定したならば抗菌薬を中止することを考慮する。
*5. 患者のパラメータのモニタリングおよび治療薬剤モニタリングの情報については英国国民医薬品集を参照する。
*6. 院内肺炎には認可されていないので、適用外使用となる。
*7. フルオロキノロン系の使用についての制限および予防策について医薬品・医療製品規制庁の助言を参照する。これは稀な報告(手足が動かなくなり、筋骨格系および神経系システムに影響する長期もしくは不可逆的な副作用の可能性)ゆえである。警告には「重症副作用の最初の症状(腱炎など)がみられたら、治療を中止する」「60歳以上の人々には特別に注意して処方する」「コルチコステロイドとの併用を避ける」が含まれる。

抗菌薬の選択:生後1ヶ月~18歳未満の小児および若年者:抗菌薬**1および投与期間**2

症状や徴候が重症でなく、耐性菌のリスクが高くない場合の第一選択経口抗菌薬(入手できれば微生物検査結果によって手引きする)**3

・アモキシシリン・クラブラン酸

生後1~11ヶ月 125/31懸濁液0.5ml/kgを1日3回×5日**4、その後再吟味
1~5歳 125/31懸濁液**510ml or 0.5ml/kgを1日3回×5日、その後再吟味**4
6~11歳 251/62懸濁液10ml or 0.3ml/kgを1日3回×5日、その後再吟味**4
12~17歳 500/125mgを1日3回×5日、その後再吟味**5

ペニシリンアレルギーもしくはアモキシシリン・クラブラン酸が不適切で、症状や徴候が重症でなく、耐性菌のリスクが高くない場合**3の代替経口抗菌薬

・クラリスロマイシン

生後1~11歳 8kg未満 7.5mg/kgを1日2回×5日、その後再吟味**4
8~11kg 62.5mgを1日2回×5日、その後再吟味**4
12~19kg 125mgを1日2回×5日、その後再吟味**4
20~29kg 187.5mgを1日2回×5日、その後再吟味**4
30~40kg 250mgを1日2回×5日、その後再吟味**4
12~17歳 500mgを1日2回×合計5日、その後再吟味**4

その他のオプションも専門家の微生物学的助言および地域の耐性菌データに基づいて利用できる

症状や徴候が重症(セプシスの症状や徴候)の場合、もしくは、耐性菌のリスクが高い場合の第一選択静注用抗菌薬)**3
48時間までに静注用抗菌薬を再吟味して上記のような経口抗菌薬に変更して、合計5日投与して、再度、再吟味する**4

専門家の微生物学的助言および地域の耐性菌データに基づく選択をする。オプションには下記が含まれる。

・ピペラシリン/タゾバクタム

生後1ヶ月~11歳 90mg/kgを1日3~4回(最大4.5g/回を1日4回)
12~17歳 4.5gを1日3回(重症感染症では4.5g/回を1日4回まで増量できる)

・セフタジジム

生後1ヶ月~17歳 25mg/kgを1日3回(重症感染症では50mg/kgを1日3回、最大量6g/日)

・セフトリアキソン

生後1ヶ月~11歳
(体重50kgまで)
1日50~80mg/kg
(重症感染症では上限量を投与する:最大4g/日)
9~11歳
(50kg以上)
2gを1日1回
12~17歳 2gを1日1回

MRSA感染症が疑われるか確定した場合に追加される抗菌薬(上記の静注用抗菌薬との併用)

・テイコプラニン**6,7

生後1ヶ月 初回16mg/kgを投与する。その後、8mg/kgを1日1回投与するが、初回投与後24時間から引き続き投与する(静注で投与)。
生後2ヶ月~11歳 初回10mg/kgを12時間毎に3回静注投与する。そして、6~10mg/kgを1日1回静注投与する
12~17歳 初回6mg/kgを12時間毎に3回静注投与する。そして、6mg/kgを1日1回静注投与する

・バンコマイシン**6,7

生後1ヶ月~11歳 10~15mg/kgを1日4回投与するが、バンコマイシン血清濃度で調整する。
12~17歳 15~20mg/kgを1日2~3回静注する。バンコマイシン血清濃度で調整する。
重症ではローディングドーズとして25~30mg/kgを投与する(最大1回2g)

・リネゾリド**8(バンコマイシンが使用できない場合、専門家の助言のみ)

生後3ヶ月~11歳 10mg/kgを1日3回(経口or静注)(最大600mg/回)
12~17歳 600mgを1日2回(経口または静注)

[備考]
**1. 特別な集団(肝障害、腎障害、妊婦、授乳中、静注用(または筋注用)抗菌薬の投与など)における適切な使用と投与量については英国国民医薬品集を参照する。
**2. 経口投与は速放剤についてである。処方者は重症度や同年齢の小児の平均に関連した小児サイズなどの他の要因を合わせた年齢範囲を用いる。
**3. 耐性菌のハイリスクには入院後5日以降に発生した症状や徴候、重症肺疾患や免疫不全のような共存症、広域抗菌薬の最近の使用、多剤耐性菌の保菌、現在の入院前の健康もしくは社会ケア現場への最近の接触が含まれる。
**4. 抗菌薬を合計5日投与したあとに治療を再吟味し、臨床的に安定したならば抗菌薬を中止することを考慮する。
**5. または、250/62懸濁液5mlを投与する。
**6. 患者のパラメータのモニタリングの情報については英国国民医薬品集を参照する。
**7. 治療薬剤モニタリングの情報については英国国民医薬品集(小児)を参照する。
**8. リネゾリドは18歳未満の小児および若年者には認可されていない。

文献

  1. NICE. Pneumonia (hospital-acquired): antimicrobial prescribing
    https://www.nice.org.uk/guidance/ng139

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科部長
兼 衛生管理室長