クロストリディオイデス・ディフィシル感染症
2000年以降、米国、カナダ、欧州の医療施設の一部においてCDIが増加しており、それには、強毒株の流行が関連している。この流行株(BI/NAP1/027,毒素型ⅢもしくはPCRリボタイプ027)はバイナリ―トキシン産生および芽胞形成の増加が特徴である。欧州では別の強毒株による重症感染症が発生しており、それにはPCRリボタイプ015,018,056が含まれている。
CDの検査
毒素産生性CDの検査はイレウスが疑われなければ、非固形便(もしくは下痢患者の便)で実施する。固形便で陽性であっても、その結果は無視すべきである。入院してから48時間以上が経過し、下痢(24時間で3回以上の非固形便)がみられる成人および小児(2歳以上)にはCDの検査をする。下痢が48時間以上続き、他の腸管病原体が同定されていない成人および小児(2歳以上)にもCDの検査をする。2歳未満の小児での検査は小児科医に相談の上でのみ実施する。同一エピソードの下痢において、便検体の検査を繰り返すことは推奨されない。下痢はブリストル・スケールで5~7の軟便として定義される。65歳以上の患者やCDIのリスク因子[表]を複数持つ患者で下痢がみられたときにCDの検査を実施することは理にかなっている。
表.クロストリディオイデス・ディフィシル感染症のリスク因子
- 抗菌薬の曝露
- 高齢者
- 長期の入院
- 高齢者施設/ナーシングホームの居住
- 免疫抑制/化学療法
- 消化管の手術、経鼻胃管の挿入
- 制酸薬
CDの伝播経路
CDの曝露から発症までの期間は中央値で2~3日と推測される。CDの主な伝播様式は糞口感染によるヒト-ヒト伝播である。CDは栄養型もしくは芽胞となるが、芽胞は環境表面やポータブル器具に数か月も生存できる。そして、医療従事者の手指や媒介物の芽胞汚染が患者にリスクを与えている。著しく汚染した環境においては、医療従事者や患者の動きによって芽胞がエアロゾル化し、広範囲に拡散する。芽胞はアルコールや多くの病院消毒薬に耐性である。
抗菌薬の使用制限
抗菌薬の使用は、投与中および投与後1ヶ月までのCDI発生のリスクを7~10倍増加する。それ以降の2ヶ月間は約3倍となる。特定の抗菌薬に焦点を合わせた使用制限は市中および医療施設でのCDIの発生率を減らす。実際にはすべての抗菌薬はCDIに関連するが、特定の抗菌薬には高いリスクがある。それにはクリンダマイシン、アモキシシリン/クラブラン酸、セファロスポリン系、フルオロキノロン系が含まれている。最近、スコットランドから全国的な研究結果が報告されているが、そこでは「4C」抗菌薬(クリンダマイシン、シプロフロキサシン、アモキシシリン/クラブラン酸、セファロスポリン系)に焦点を合わせた市中での抗菌薬の制限によって、医療施設および市中でのCDIの発生率がそれぞれ、68%および45%減少した。
手指衛生
アルコール手指消毒薬は芽胞の破壊に効果はないというエビデンスが示されている。しかし、アルコールはCDの栄養型による手指の汚染度を減らすことには大変有効である。ただし、石鹸と流水による手洗いの方が栄養型および芽胞の両者を除去するのに効果的である。重要なことは、アウトブレイクのときのアルコール手指消毒薬の使用によって、CDIが増加するということはないということである。また、アウトブレイクでなければ、アルコール手指消毒薬と手袋の使用よりも手洗いの方が効果的であることを示した研究も殆どない。そのため、CDI患者をケアするときの手指衛生ではアルコール手指消毒薬を使用することを推奨する。
入院患者では、毒素産生性CDの無症状保菌者は通常みられることであり、下痢の改善後7日までは、CDI患者の50%で皮膚の芽胞汚染が検出できる。芽胞はアルコール手指消毒薬に耐性であるが、栄養型は極めて感受性がある。そして、CDI患者の便においては、芽胞よりも栄養型の方が10倍多いとする研究結果もある。このことは、CDI対策としては栄養型の伝播を減らすことが重要であることを示している。
環境の消毒
塩素系消毒薬(家庭用漂白剤など)を用いるならば、高レベルの塩素(遊離塩素:5000mg/L)が芽胞に一貫して効果がある。低濃度(遊離塩素:1000および3000mg/L)は芽胞の除去能力にばらつきがある。多くの専門家は塩素系消毒薬の使用を推奨しているが、最近は殺芽胞活性のある新しい製品が利用できるようになった。これには過酢酸(peracetic acid)や加速化過酸化水素(accelerated hydrogen peroxide)を含んだ製剤がある。
新規の非接触型テクノロジー(過酸化水素蒸気[HPV:hydrogen peroxide vapour]など)および紫外線ライト(UV-C)が退院時/搬送時の最終の洗浄および消毒への追加策として使用されている。これらの非接触型テクノロジーは両方とも、環境でのCDを減らすことに有効であり、観察研究および1件紫外線ライトの無作為化コントロール試験ではCDI患者も減らしている。
文献
- ASID/ACIPC position statement – Infection control for patients with Clostridium difficile infection in healthcare facilities.
Infect Dis Health. 2019 Feb;24(1):32-43.
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長