ケンエーIC News

92号 クリプトスポリジウム症のアウトブレイク
PDFファイルで見る
CDCが週報でクリプトスポリジウム症のアウトブレイクについて報告しているので、抜粋して紹介する1)
2009~2017年、米国40州およびプエルトリコの保健所が444件のクリプトスポリジウム症のアウトブレイク(7,465症例)を報告した[図]。その主な原因は「汚染したレクレーション水(プールやウオータープレイグラウンドなど)・飲用水・食物を飲み込んだり食べたりした」「感染した人間や動物に接触した」であった。実際、処理済のレクレーション水の曝露によって156件(35.1%)のアウトブレイクが引き起こされ、これには4,232症例(56.7%)が巻き込まれていた。その他のアウトブレイクは「ウシへの接触(65件;14.6%)」および「小児ケアでの感染者への接触(57件;12.8%)」によるものであった。

図 伝播経路別*のクリプトスポリジウム症のアウトブレイク(N=444)、早期症例の発症日の年(A)および早期症例の発症月(B)ー米国、2009~2017年

icnews-no92_01

icnews-no92_02

*伝播経路は下記のように分類する
不明:主要な伝播経路を示すエビデンスが不十分な場合
汚染環境:汚染環境への曝露による伝播があるが、食物媒介、水媒介、ヒト-ヒト、動物接触による伝播が関与していない場合
食物媒介:汚染した食物や非水飲料の消費による伝播があった場合
動物接触:動物やその生息環境への接触による伝播があった場合
ヒト-ヒト:感染者、その体液への直接接触、もしくは被曝露者が同時に滞在した環境に接触することによって伝播が発生した場合
水媒介:水(処理済もしくは未処理のリクレーション水、飲用水(ボトル水を含む)、環境もしくは不確定な水源)を飲用、吸い込み、接触するなどによって伝播が発生した場合

クリプトスポリジウム症

クリプトスポリジウム症はクリプトスポリジウム属によって引き起こされる感染症である。この病原体は健常者では3週間に及ぶ厳しい水様下痢を呈し、免疫不全者では生命を危うくする低栄養および消耗を引き起こすことがある。糞口感染で伝播し、オーシスト(胞嚢体)は排泄された直後から感染性がある。ヒトでの感染価(infectious dose)は10個以下の胞嚢体であるが、感染者からは桁違いに多くのオーシストが排泄され、それらは塩素に極めて抵抗性がある。

レクレーション水とクリプトスポリジウム症

処理済レクレーション水に関連したクリプトスポリジウム症のアウトブレイクは何百~何千人もの患者を発生させている。その理由は「感染者が水中で1回下痢をすると、107‒108個のオーシストを排泄する」「クリプトスポリジウムのオーシストは1ppmを越える塩素濃度(CDC推奨濃度)の中でも7日を越えて生存できる」「水泳者は複数のレクレーション施設を使用する」などである。

小児ケアとクリプトスポリジウム症

小児ケアが関連したクリプトスポリジウム症のアウトブレイクも、処理済レクレーション水によるアウトブレイクと同様に夏季にピークがある。その理由には「クリプトスポリジウム症は1~4歳の小児に特に感染しやすい」「幼児はトイレ習慣が不十分であり、リクレーション水(児用プールやプレイグラウンドなど)を飲み込んでしまう」「塩素(漂白剤)が小児ケア施設での病原体の伝播の主なバリアである」などが挙げられる。広範囲なアウトブレイクは単一施設から複数の施設(小児ケア施設)への拡大によるものなので、最初のクリプトスポリジウム汚染を防ぐことが重要である。CDCは「下痢の期間は泳がない、小児ケアに参加させない」「下痢が改善したあと2週間は泳がない」を推奨している。

アウトブレイク発生時の対応

クリプトスポリジウム症のアウトブレイクが発生したときには、相当な除染法が必要となる。それには公衆処理済水の施設(ホテル、アパート、親水公園など)を高塩素処理[註釈]し、小児ケア施設の環境表面の除染に過酸化水素を使用して、クリプトスポリジウムのオーシストを不活化することが含まれている。

反芻動物とクリプトスポリジウム症

クリプトスポリジウムの汚染はウシ、ヤギ、ヒツジなどの反芻動物がいる環境では避けることができない。そして、それは広範囲の汚染である。離乳前のウシからヒトへのクリプトスポリジウムの伝播はよく報告されている。ウシの接触によるアウトブレイクは春に季節性のピークがある(これはウシの出産が春であることに一致している)。子牛は毎日、1010個以上のオーシストを排泄している。更なる汚染と感染のリスクを減らすために、CDCは反芻動物やその生存環境に直接または間接的に触れた後には手洗いすることを推奨している。その他の予防策としては、交差汚染の危険性を減らすために、他の環境(自宅など)に入る前には、動物の生存環境で着用していた衣類や靴を取り外すことが含まれている。

食物とクリプトスポリジウム症

2009‒2017年、低温殺菌されていないミルクやアップルサイダーに関連したクリプトスポリジウムのアウトブレイクが13件発生した。アウトブレイクの感染源は、汚染した乳房・リンゴ・処理器具などである。CDCはミルクやアップルサイダーは低温滅菌された製品を消費することを推奨している。低温滅菌されていない製品には感染のリスクがある。また、幼児、妊婦、免疫不全者では重症化するリスクがある。

まとめ

米国では、クリプトスポリジウム症のアウトブレイクの毎年の報告数は年間平均で約13%ずつ増加している。この傾向を逆転させるための対応が必要であり、それには「下痢しているときには水泳したり、小児ケアに行かせない」「動物に触れたら手洗いする」などの予防策を広めることが大切である。

文献

  1. Gharpure R, et al. Cryptosporidiosis outbreaks ̶ United States, 2009 ‒ 2017
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/68/wr/pdfs/mm6825a3-H.pdf

[註釈]高塩素処理
pH7.5以下(25℃以上)の水では、遊離残留塩素濃度を長時間増加させることによって、99%‒99.9%のクリプトスポリジウムを不活化できる。
ただし、CDCは住居(裏庭など)での高塩素処理は推奨していない。

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長