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91号 米国感染症学会:無症候性細菌尿の管理のための臨床実践ガイドライン
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2019年5月、米国感染症学会(IDSA: Infectious Diseases Society of America)が「無症候性細菌尿の管理のための臨床実践ガイドライン」を改訂した1)。ここではガイドラインのサマリーおよび推奨を抜粋して紹介する。

サマリー

無症候性細菌尿は多くの人々において普通にみられる所見であり、これには健康な女性や泌尿器科的異常のある人も含まれる。米国感染症学会の2005年ガイドラインは、無症候性細菌尿(ASB:asymptomatic bacteriuria)は妊婦もしくは侵襲的泌尿器科手術の前の人でおいてのみ、スクリーニングおよび治療されるべきであると推奨した。健康な女性、高齢男女、糖尿病・尿道留置カテーテル・脊髄損傷のある人では治療は推奨されなかった。このガイドラインは小児および一部の成人(好中球減少、固形臓器移植、非泌尿器手術の患者など)については言及しなかった。ガイドラインが刊行されて以降、ASBに関連する新しい情報が入手された。また、ASBの抗菌治療は抗菌薬の不適切使用に大きくつながると認識されており、それは抗菌薬耐性の出現を促すものである。改訂ガイドラインは2005年ガイドラインの推奨を更新し、前回言及されなかった集団のための新しい推奨を含んでいる。そして、ASBの頻度の高い集団における非局所的な臨床症状における介入を取り扱っている。

推奨

I.小児患者では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.幼児および小児では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。

II.妊娠していない健康女性では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.閉経前の妊娠していない健康な女性もしくは閉経後の健康な女性では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。

III.妊婦では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.妊婦では、ASBのスクリーニングおよび治療を推奨する。
2.ASBのある妊婦には、短期の抗菌治療よりもむしろ4~7日の抗菌治療を提案する。

IV.地域在住の機能障害のある高齢の男女、もしくは長期ケア施設の高齢入居者では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.地域在住の機能障害のある高齢者では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。
2.長期ケア施設の高齢入所者では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。

V.機能障害もしくは認知障害のある高齢患者では、どのような非局所的症状がASBと症候性尿路感染を区別できるか?

推奨
1.細菌尿および譫妄(急性の精神状態の変化や混乱)があるものの、局所的な泌尿生殖器症状もしくは感染症の全身症状(発熱や血行動態不安定など)のない機能障害や認知障害ある高齢患者では、抗菌治療よりも他の原因の評価および注意深い観察を推奨する。
2.細菌尿はあるものの、局所的な泌尿生殖器症状もしくは感染症の全身症状(発熱や血行動態不安定など)のない、転倒を経験する機能障害や認知障害のある高齢患者では、細菌尿の抗菌治療よりもむしろ、他の原因の評価および注意深い観察を推奨する。

VI.糖尿病患者では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.糖尿病患者では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。

VII.腎臓移植の患者では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.腎臓移植手術を1カ月以上前に受けた腎臓移植患者では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。

VIII.腎臓移植以外の固形臓器移植を受けた患者では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.腎臓移植以外の固形臓器移植を受けた患者では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。

IX.好中球減少の患者では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.ハイリスクの好中球減少(化学療法後に100/mm3未満の好中球減少が7週間以上)の患者では、ASBのスクリーニングや治療の賛否についての推奨は提示できない。

X.脊髄損傷後の排泄障害のある人では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.脊髄損傷の患者では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。

XI.尿道留置カテーテルが挿入されている患者では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.短期の尿道留置カテーテル(30日未満)の患者では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。
2.尿道留置カテーテルの患者におけるカテーテルの除去時のASBのスクリーニングや治療の賛否についての推奨は提示できない。
3.長期の尿道留置カテーテルの患者では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。

XII.泌尿器手術以外の予定手術を受ける患者では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.泌尿器手術以外の予定手術を受ける患者では、ASBのスクリーニングも治療も推奨しない。

XIII.泌尿器内視鏡手術を受ける患者では、ASBについてスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.粘膜外傷が関連する泌尿器内視鏡手術を受ける予定の患者では、手術前のASBのスクリーニングおよび治療を推奨する。
2.内視鏡的泌尿器手術を受ける予定の患者では、手術前に尿培養を実施し、エンピリック治療ではなく、ターゲットを合わせた抗菌治療することを提案する。

3.泌尿器手術が予定されている患者でASBがあれば、長期の抗菌治療よりもむしろ、短期コース(1~2回)を提案する。

XIV.泌尿器器具のインプラントを受ける患者もしくは泌尿器器具とともに生活している患者では、ASBはスクリーニングされ、治療されるべきか?

推奨
1.人工尿道括約筋や陰茎インプラントの手術が予定されている患者では、ASBのスクリーニングも治療もしないことを提案する。
2.インプラントされた泌尿器器具とともに生活している人では、ASBのスクリーニングも治療もしないことを提案する。

文献

  1. Nicolle LE, et al. Clinical practice guideline for the management of asymptomatic bacteriuria: 2019 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clinical Infectious Diseases, 68(10), e83‒e110, 2019.
    https://doi.org/10.1093/cid/ciy1121

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長