血液体液曝露が発生したあとのフォローアップ期間が検査法の進歩とともに短縮しており、HIVは6ヶ月であったものが、4ヶ月となった2)。これはHIVのスクリーニング検査が第4世代となり、p24抗原が測定できるようになったため、感染してから検査陽性となるまでの期間が短縮されたからである。同様にHCVについても短縮できるようになった。これはフォローアップ検査をHCV抗体からHCV RNAに移行したことによるものである。ここではCDCの「ウイルス性肝炎:C型肝炎」3)からHCV検査およびHCV曝露後のフォローアップについて抜粋して紹介する。
HCV検査
HCV検査にはHCV抗体とHCV RNAがある。ここで大切なことはHCV抗体が陽性であっても、HCV RNAが検出されなければHCV感染はないと言うことである。また、免疫不全のある人ではHCV抗体ではなくHCV RNAを優先して検査することが推奨される[図1]。
HCV抗体とHCV RNAの組み合わせの結果の解釈により、その後の行動が決められる[図2]。既に述べたように、HCV抗体陽性であっても、HCV RNAが検出されなければ「現在、HCV感染なし」と判断できるので、以降の行動は必要ない。HCV抗体が陽性であるからといって、HCV RNAが検出されない人のフォロー期間を不要に延長してはならない。
[図1]現在のC型肝炎ウイルス(HCV)感染を同定するための検査の流れの推奨
*過去6ヶ月以内にHCVに曝露したかもしれない人には、HCV RNA検査もしくはHCV抗体のフォローアップ検査が推奨される。免疫不全の人では、HCV RNA検査を考慮する。
†「治癒した過去のHCV感染」と「HCV抗体の生物学的偽陽性」を区別するために、HCV抗体を異なるアッセイ法で検査する。検査された人が過去6ヶ月以内にHCVに曝露した疑いがあったり、HCV感染症の臨床的なエビデンスがあれば、もしくは、検体の取り扱いや保管に心配があれば、再度HCV RNA検査を実施する。
出典:CDC.Testing for HCV infection: An update of guidance for clinicians and laboratorians. MMWR 2013;62(18)
[図2]C型肝炎ウイルス(HCV)感染のための検査結果の解釈とその後の行動
検査結果 | 解釈 | 今後の行動 |
---|---|---|
HCV抗体陰性 | HCV抗体が検出されない | 検体はHCV抗体が陰性として報告される。今後の行動は必要ない。検査した人に最近の曝露が疑われるならば、HCV RNAを検査する* |
HCV抗体陽性 | HCV感染が疑われる | 陽性結果が繰り返されたならば、「現在のHCV感染」「治癒した過去のHCV感染」「HCV抗体の生物学的偽陽性」を疑う。現在の感染を同定するためにHCV RNAを検査する。 |
HCV抗体陽性 HCV RNA 検出あり |
現在、HCV感染あり | 検査された人に適切なカウンセリングを提供し、ケアと治療を行う† |
HCV抗体陽性 HCV RNA 検出なし |
現在、HCV感染なし | 殆どの症例で今後の行動は必要ない。 HCV抗体の真の陽性と生物学的偽陽性の区別を求めるならば、そして、HCV抗体検査が繰り返して陽性ならば、HCV抗体を異なるアッセイ法で検査する。 特定の状況では、HCV RNAの検査および適切なカウンセリングでフォローアップする§ |
*HCV RNAが実施できず、検査される人が免疫不全でなければ、セロコンバージョン(抗体陽転)を確定するためにHCV抗体のフォロアップ検査をする。検査される人が免疫不全であれば、HCV RNA検査を考慮する。
†HCV RNAが陽性であることを確定するために、抗ウイルス治療を開始する前に、引き続く血液検体のHCV RNAを再検査することが推奨される。
§検査される人が過去6か月以内にHCV曝露した疑いがある場合、HCV感染症の臨床的エビデンスがある場合、検体の取扱いや保管に関して心配な場合
HCVの職業上曝露後のフォローアップ
医療従事者がHCV感染患者の血液に曝露した場合、曝露後48時間以内に医療従事者のHCV抗体を測定する。これは曝露の時点で医療従事者がHCVに感染していないことを確認するためである。HCV抗体が陰性であれば、フォローアップしてゆき、曝露後3週間以上が経過した時点でHCV RNAを検査する。そこでHCV RNAが検出されなければフォローを終了できる[図3]。
2001年のガイドライン1)では「HCV陽性の曝露源の人に曝露した医療従事者にはHCV抗体およびGPTのベースライン検査を実施し、4~6ヶ月後に再度フォローアップ検査を施行する。もし、HCV感染を早期診断したいならば、HCV RNA検査を4-6週間目に施行してもよい」と記載されていた。しかし、フォローアップ検査がHCV抗体からHCV RNAに変更したことによって、フォローアップの期間が「4~6ヶ月」から「3週間」と大きく短縮したのである。曝露後予防として、免疫グロブリン製剤や抗レトロウイルス剤は推奨されないことについての変更はない1,3)。
[図3]C型肝炎ウイルス(HCV)に曝露した可能性のある医療従事者のための情報
ウイルス肝炎への曝露は長い間、医療従事者への職業曝露として認識され、既に、HCVへの職業曝露の対処法についての推奨が公開されている。この通知は現在の検査ガイダンスに基づいており、医療従事者のための2001年のHCV検査アルゴリズムを改訂したものである。血液および体液に職業曝露した医療従事者の対処についての2001年の週報で概略が述べてあるように、HCVの曝露後予防については推奨されない。
曝露源の人(患者)にはHCV RNA検査を実施する*。曝露源の人がHCV RNA陽性ならば、もしくは、HCV感染の状況が不明ならば、下記のアルゴリズムに従う。HCV陽性血液に針刺しもしくは鋭利物曝露した場合、HCV感染のリス クは約1.8%である。医療従事者が感染した場合はC型肝炎の管理と治療についてのガイドラインに従う。
*曝露源の人(患者)にHCV RNAを検査できなければ、HCV抗体の検査をおこなう。HCV抗体陽性の曝露源の人に曝露した医療従事者はスクリーニングする。急性感染の人はHCV RNAが検出されても、HCV抗体が陰性のことがあるので注意する。
†HCV感染の流行が少ない全国的に代表的な人口標本(1%)の場合、HCV抗体陽性の22%は偽陽性と判断されている。追加の10%は確認検査にて未確定結果となり、その殆どは偽陽性のようである。HCV抗体陽性であっても、HCV RNAが検出されない人々では、HCV抗体の50%が偽陽性であった。
‡曝露後6ヶ月以降のHCV抗体検査(可能ならばHCV RNAのリフレックス検査[註釈1]を行う)を実施してもよい。
§HCV抗体陽性の人をスクリーニングするとき、持続的な曝露のリスクがなければ、米国でFDAが現在認可している検査を用いたHCV RNA検査が1回陰性であることは慢性HCV感染を除外するのに十分であると考えられる。HCV抗体が検出されない時期であっても、HCV RNAは曝露後3週間以内に検出されるようになる。黄疸などの急性HCV感染の症状がみられる人は、曝露後3週間以内であっても検査してもよい。陰性の場合は3週間以降に再検査することが求められる。曝露後6ヶ月までに急性感染の自然排除[註釈2]がみられることがあるので、曝露後6ヶ月未満でHCV RNAが陽性の人は感染の状況を確定するために6ヶ月以降に再検査すべきである。
ǁHCV RNA検査が陽性というエビデンスのある現在HCV感染の患者は肝臓疾患の重症度の評価およびHCVの治療について専門家によって評価されるべきである。
¶曝露後6ヶ月までは、感染の自然排除[註釈2]がみられることがある。そのため、曝露後6ヶ月未満でHCV RNAが陽性の人は感染の状況を確定するために曝露後6ヶ月以降に再検査すべきである。
文献
- Updated U.S. Public Health Service. Guidelines for the management of occupational exposures to HBV, HCV, and HIV and Recommendations for postexposure prophylaxis
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5011.pdf - Updated US Public Health Service Guideline for the management of occupational exposures to human immunodeficiency virus and Recommendations for postexposure prophylaxis. Infect Control Hosp Epidemiol 2013; 34(9): 875-892.
- CDC. Viral infection: Hepatitis C information
https://www.cdc.gov/hepatitis/hcv/profresourcesc.htm
[註釈1]HCVのリフレックス検査(refiex testing)
リフレックス検査とは検査室がHCV抗体検査を実施し、その結果が陽性となった場合、同じ検体を用いてHCV RNA検査を引き続き迅速に実施することである。HCV RNAが検出されなければ、殆どの症例においてHCV感染が否定できる。リフレックス検査によって、HCV抗体検査が陽性となった患者がフォローアップ検査のために再び医療機関に受診する必要をなくすことができる。
[註釈2]HCVの自然排除(spontaneous clearance)
薬物を用いることなく体内のHCVが検知できない量にまで自然に減少すること。通常、約15~45%の感染者は、治療を受けなくても感染後6か月以内に自然にHCVが排除される。
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長