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80号 米国消化管内視鏡学会.消化管内視鏡における感染制御のためのガイドライン
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2018年、米国消化管内視鏡学会が「消化管内視鏡における感染制御のためのガイドライン」を公開した1)。ここでは、ガイドラインが遵守されていれば内視鏡による感染は殆どないことが示されている。そのポイントを病原体別に抜粋して紹介する。

細菌

臨床的に重要な細菌が経内視鏡的に伝播したとき、それが認識されることがある。潜伏期間が短いことが多く、通常は臨床症状がみられるからである。しかし、感染症が潜在性であったり、症状が処理に関連する因子に由来するもの(介入や鎮静に関連したもの)もしくは患者の特異的な状況や出来事によるものであれば、伝播したことが見逃されるかもしれない。伝播の発生率の報告や計算についての適切な方法がないため、感染伝播の割合に関する正確なデータを得ることは困難である。そのような制限のなかで、入手可能なデータのサマリーを下記に紹介する。
1974年から1987年の間に、患者間でのサルモネラ属の内視鏡関連伝播が84例報告されているが、それ以降の報告は皆無である。シュードモナス属の内視鏡による伝播の稀な報告もあった。2011年の時点で、上部消化管内視鏡が実施された4人の患者が多剤耐性シュードモナス属に感染したことが判明している。この伝播にはいくつかの因子が同定されており、それには「初期洗浄が不十分であった」「浸漬やブラッシング時間が短かった」「チャンネルのフラッシングが不十分であった」「保存前の乾燥が不十分であった」が含まれている2)。内視鏡自体の再処理が不十分なことに加えて、高湿度の環境で増殖する微生物の特徴が伝播を促進する共通の因子でもある。いくつかの症例では、内視鏡に取り付けられたボトルの洗浄水が未滅菌であったことが感染源であることが同定されている。十二指腸鏡のエア・ウオーターやエレベーターチャンネルの洗浄および乾燥が不十分だったことが、シュードモナス属の感染の伝播の原因であった症例も報告されている。自動内視鏡洗浄・乾燥機の不全がいくつかの症例で示唆されている。最近はグルタルアルデヒドへの感受性が低下しているシュードモナス株も報告された。ヘリコバクター・ピロリの内視鏡による伝播がいくつか報告されているが、これらは内視鏡および生検鉗子の再処理の不十分によるものであった。内視鏡をヘリコバクター・ピロリの感染者に用いると、最大61%の内視鏡が汚染するが、通常の洗浄と消毒はヘリコバクター・ピロリを駆除するのに極めて有効である。標準化された再処理ガイドラインが広く適用される前は、クレブシェラ属、エンテロバクター属、セラチア属、ブドウ球菌属などが内視鏡的に伝播したという報告があった。
これまで、消化管内視鏡による抗酸菌の伝播の報告はない3)。現在の再処理ガイドラインは抗酸菌の駆除に十分であることが示されている。同様に、現在のガイドラインに基づいた再処理はバイオフィルム、クロストリディオイデス・ディフィシルなどの細菌の芽胞を不活化することが示されており、クロストリディオイデス・ディフィシルの伝播の症例は報告されたことがない。
十二指腸内視鏡による、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE:carbapenem-resistant Enterobacteriaceae)を含む多剤耐性菌の伝播は報告されている。内視鏡によって病原体が伝播した過去のアウトブレイクとは異なり、十二指腸内視鏡に関連したCREのアウトブレイクで標準的な再処理プロトコールの破綻は同定されていない。この伝播では、特別な内視鏡の洗浄困難部分もしくは密閉部分(特に、十二指腸内視鏡のエレベーター周囲部分)が関連しているのかもしれない。

ウイルス、真菌、寄生虫

内視鏡によるウイルス感染の伝播の証明は難しい。潜伏期が長いことと、患者が無症状もしくは症状が殆どみられないからである。ウイルス伝播を過去に実施された処理と関連付けることは困難である。現存するデータは、内視鏡を介したウイルス感染の危険性は極めて低いか存在しないことを示している。
実際、内視鏡の高水準消毒が破綻したような状況であってもC型肝炎ウイルス(HCV:hepatitis C virus)の伝播の報告は殆どない。B型肝炎ウイルス(HBV:hepatitis B virus)についても同様であり、洗浄および消毒が不十分な状況であったとしても、HBVの伝播は極めて稀である。もちろん、現在のガイドラインに従っている状況での伝播の報告はない。ヒト免疫不全ウイルス(HIV:human immunodeficiency virus)についても、内視鏡による伝播の報告はない。寄生虫については、汚染した機器によって糞線虫が4人の患者に伝播したという報告が1件あるものの4)、それ以外には内視鏡によって寄生虫が伝播したという報告はない。内視鏡によって真菌が伝播したという症例報告もない。

プリオン

クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD:Creutzfeldt-Jacob disease)はプリオンと呼ばれる蛋白質性病原体によって伝播する神経学的疾患である。消化管内視鏡では、プリオン感染組織が内視鏡やアクセサリーに接触することはないので、CJDの患者に用いた内視鏡には特別な処理をする理論的な必要性はない5)。実際、内視鏡によってCJDが伝播したという報告はない。
変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD:variant Creutzfeldt-Jacob disease)はウシ海綿状脳症の病原体によって汚染した牛肉の消費によって引き起こされる疾患である。世界では約125症例が報告されており、米国では1症例が報告されている。vCJDはCJDとは異なる。変異したプリオン蛋白が全身のリンパ系組織で見つかっており、それには扁桃や腸管も含まれている。そして、変異プリオンは通常の消毒薬や滅菌剤には耐性である。従って、vCJDが判明している患者では、可能であれば全例で内視鏡を避けることが推奨される6)。vCJDが判明している患者に内視鏡を実施しなければならないときには、器具をvCJD患者の専用とするか、期限切れが近い内視鏡を用いて、使用後は廃棄することを推奨する。

サマリー

  1. 消化管内視鏡によって、感染症が伝播することは極めて稀である。殆どの報告症例は現在受け入れられている内視鏡再処理プロトコールからの逸脱もしくは欠陥器具によるものである。
  2. 内視鏡は、政府機関や専門機関によって推奨されている消化管内視鏡の再処理のための高水準消毒が実施されるべきである。
  3. 十二指腸内視鏡による高度耐性病原体の伝播を防ぐことに注意を向けるべきである。特に、エレベーター機構およびエレベーターワイヤーチャンネルの洗浄と高水準消毒を確実に行う。
  4. 内視鏡再処理を担当するスタッフの広範囲なトレーニングは質の保証および効果的な感染対策には必須である。このようなトレーニングの証拠書類も必要である。
  5. 徒手による洗浄および高水準消毒の有効性は実施者に左右されるので、「内視鏡の再処理の責任者の任命」「再処理スタッフの広範囲なレクチャー」「プロセスの確認」「質の保証」は極めて重要である。スタッフの適格性については、少なくとも年1回は評価すべきである。
  6. 再処理不全が発生したときは、患者、感染対策担当者、地域や州の保健所の担当者、FDA、CDC、器具の製造元に迅速に通知する。
  7. 一般的な感染対策の原則は内視鏡室でも実施されるべきである。
  8. 標準予防策を実施することによって、患者から内視鏡担当者への感染の伝播を減らすことができる。
  9. 内視鏡室は感染対策のプランを指導する認定スタッフを任命しておくべきである。

文献

  1. ASGE guideline for infection control during GI endoscopy. Gastrointestinal endoscopy 87:1167-1179, 2018
  2. Bajolet O, et al. Gastroscopy-associated transmission of extended-spectrum beta-lactamase-producing Pseudomonas aeruginosa. J Hosp Infect 2013;83:341-3.
  3. Muscarella LF. Automatic flexible endoscope reprocessors. Gastrointest Endosc Clin N Am 2000;10:245-57.
  4. Mandelstam P, et al. Complications associated with esophagogastroduodenoscopy and with esophageal dilation. Gastrointest Endosc 1976;23:16-9.
  5. Rutala WA, Weber DJ. Creutzfeldt-Jakob disease: recommendations for disinfection and sterilization. Clinical Infect Dis 2001;32:1348-56.
  6. Axon AT,et al. Variant Creutzfeldt-Jakob disease (vCJD) and gastrointestinal endoscopy. Endoscopy 2001;33:1070-80.

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長