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78号 欧州臨床微生物感染症学会:クロストリディウム・ディフィシル感染症の予防ガイダンス
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欧州臨床微生物感染症学会(ESCMID:European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases)が「急性期医療におけるクロストリディウム・ディフィシル感染症[註釈1]の予防のためのガイダンス」1)を公開したので、その推奨部分を紹介する。推奨はアウトブレイク(outbreak)およびエンデミック(endemic)の状況[註釈2]で層別化されている。

I.伝播の予防のための診断的アプローチ

ESCMIDはクロストリディウム・ディフィシル感染症(CDI:Clostridium difficile infection)の診断のための最新ガイドラインを発行している2)。2段階アルゴリズムではCDに高感度のスクリーニング検査(トキシン遺伝子の核酸増幅法[NAAT:nucleic acid amplification test]もしくはグルタミン酸脱水素酵素[GDH:glutamate dehydrogenase]検出のための酵素免疫アッセイ[EIA:enzyme immunoassay])を最初の検査(スクリーング)として用い、其の後、糞便中の遊離のCDトキシンを検出する特異性の高い検査を行うことがCDIの検査診断として推奨されている2)

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨1
2段階検査(GDHもしくはトキシン遺伝子のNAATを実施し、其の後、高感度のトキシン検査もしくはGDHとトキシン検査の併用をおこなう)がCDIの診断に推奨される。トキシン検査が陰性結果の症例では、NAAT(最初の診断ステップにまだ使用されていなければ)もしくは毒素産生性培養検査(toxigenic culture)が臨床評価もしくは地域の感染予防の要求に基づいて実施される

II.サーベイランス

Q.感染率の適時なフィードバックを併用したCDIのサーベイランスはCDI発生率を減らすか?

[アウトブレイクの状況での推奨]

推奨2
病院および病棟レベルの感染率の適時なフィードバックを併用してCDIのサーベイランスを行う。

[エンデミックの状況での推奨]

推奨3
感染率の適時なフィードバックを併用してCDIのサーベイランスを行う。

III.CD保菌についての無症状の患者および医療従事者のスクリーニング

Q.CDのスクリーングによって保菌/キャリアの患者を同定することはCDIの発生のリスクを増減させるか?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨4
保菌者もしくはその他の患者でのCDIの発症のリスクを減少させてCDI発症率を減らす方法として、保菌/キャリアの患者を同定するためにCDのスクリーニングをすることを推奨しない。

Q.CD陽性の患者に接触した医療従事者にはCDの無症候保菌もしくは感染の危険性はあるか? そして、CDI発症率を減らすためにCDの保菌について医療従事者をスクリーニングすることが推奨されるか?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨5
CDIの日常的な制御法としてCDの腸管保菌について医療従事者をスクリーニングすることを推奨しない。

IV.手指衛生

Q.CDおよびその芽胞を手から除去するのに最も有効なテクニック/製剤は何か?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨6
CD芽胞を除去するための最も効果的な手技/製剤に関する特別な勧告はない。

Q.エタノール手指消毒薬は手洗いに比較して、CDI発生率を増加させるか?

[アウトブレイクの状況での推奨]

推奨7
芽胞に対してアルコール手指消毒薬のin vitro活性が不足しているため、アルコール手指消毒薬から手洗いに変更する。

[エンデミックの状況での推奨]

推奨8
CDIの発生を減らすためにアルコール手指消毒薬から石鹸と流水の手洗いに変更しない。

Q.手指衛生遵守はCDI伝播に関連するか?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨9
手指衛生の遵守率を増加させるために介入を開始する。

V.個人防護具

Q.標準予防策単独に比較して、個人防護具を追加使用することはCDの感染/伝播を減らすためにどのように有効か?

[アウトブレイクの状況での推奨]

推奨10
CDの伝播およびCDIの発生を減らすために個人防護具(手袋およびガウン/使い捨てエプロン)を用いる。

[エンデミックの状況での推奨]

推奨11
CDの伝播およびCDIの発生を減らすために個人防護具(手袋およびガウン/使い捨てエプロン)を用いる。

VI.接触予防策

Q.CDI患者に対する接触予防策は病院におけるCDI発症率/CD伝播を減らすために有効か?

[アウトブレイクの状況での推奨]

推奨12
CDの伝播およびCDIの発生を減らすために接触予防策を実施する。

[エンデミックの状況での推奨]

推奨13
CDの伝播およびCDIの発生を減らすために接触予防策を実施する。

VII.環境の洗浄と消毒

Q.CDI患者の病室の環境消毒は日常的な清掃に比較して、CDの伝播を減らすか?

[アウトブレイクの状況での推奨]

推奨14
CDIの伝播を減らすために、CDI患者の病室には毎日の殺芽胞性環境消毒および最終消毒を導入する。

[エンデミックの状況での推奨]

推奨15
CDIの伝播を減らすために、CDI患者の病室には毎日および最終の殺芽胞性環境消毒を導入する。

Q.非接触式消毒システム[註釈3]はCDI患者の病室において環境汚染を減らすために、次亜塩素酸塩と同等の効果か?

[推奨]

推奨16
CDによる環境汚染を減らすことについて、非接触式消毒システムは次亜塩素酸塩と同等の効果であると委員会は結論している

Q.非接触式消毒システムはCDの伝播/発生を減らすのに有効か?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨17
アウトブレイクおよびエンデミックの状況では、非接触式消毒システムはCDIの伝播/発生を減らすのに有効かもしれないと委員会は結論している。

VIII.インフラ設備

Q.インフラ設備の変更は病院におけるCDの伝播を減らすのに有効か?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨18
「インフラ設備(infrastructure)」という用語にはあまりにも多くの異なる介入が含まれるので、特別な強さの推奨は選定できないことについて委員会は同意している。

IX.抗菌薬スチュワードシップ

Q.抗菌薬の製剤/種類を制限することは病院におけるCDI発症率を減らすことに有効か?

[アウトブレイクの状況での推奨]

推奨19
抗菌薬の製剤/種類を減らすことはCDI率を減らすことに有効である。

[エンデミックの状況での推奨]

推奨20
抗菌薬の製剤/種類を減らすことはCDI率を減らすことに有効である。

Q.抗菌薬治療の期間の短縮は病院におけるCDI発生率を減らすのに有効か?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨21
抗菌薬治療の期間を短縮することはCDI率を減らすことに有効である。

X.早期治療(伝播の予防に焦点を合わせて)

Q.CDIが疑われた患者/診断された患者の早期治療はCDの伝播を減らすか?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨22
CDIと診断された患者には早期に治療を開始する。

XI.教育

Q.CDIの予防に関する知識を強化するために、特別な教育は必要か?

[アウトブレイクの状況での推奨]

推奨23
予防戦略において知識と技能を強化するために、CDIの予防について医療従事者を教育する。

[エンデミックの状況での推奨]

推奨24
予防戦略において知識と技能を強化するために、CDIの予防について医療従事者を教育する。

Q.強化した教育、e-ラーニング、直接観察、テストの実施は病院におけるCDの伝播/流行にどのように影響するか?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨25
CDI率を減らすために他の介入方法と併用して教育を強化する。

Q.特別な教育はCDI予防の状況のなかで清拭の徹底を強化するか?

環境のCD汚染を減らすことは病院におけるCDの流行を減らすことに関連しているので、環境清掃職員の教育はCDIの予防のためには極めて重要であることが証明されている。環境清掃職員は高質の清掃を確実に継続するために、訓練および定期的な質のコントロール法(清掃前に蛍光マーカーで環境表面をラベルするなど)を繰り返すことが求められる。

Q.CDI患者および面会者はCDIの予防法について教育されるべきか?

[アウトブレイクおよびエンデミックの状況での推奨]

推奨26
CDIを予防する方法についてCDIの患者および面会者を教育する。

文献

  1. Tschudin-Sutter S, et al. Guidance document for prevention of Clostridium difficile infection in acute healthcare settings. Clin Microbiol Infect.xxx(2018) 1-4. DOI: 10.1016/j.cmi.2018.02.020
  2. Crobach MJ, et al. European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases: update of the diagnostic guidance document for Clostridium difficile infection. Clin Microbiol Infect 2016;22 Suppl 4:S63-81.

[註釈1]クロストリジウム・ディフィシル
2016年、表現型、化学分類学、系統発生学による分類に基づいて、新しい属としてクロストリディオイデス属(Clostridioides spp.)が提案され、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)はそこに属することになった。暫くは、「クロストリジウム・ディフィシル」の菌種名が用いられるであろうが、今後は「クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)」と呼ばれることになるであろう。

[註釈2]エンデミックとアウトブレイク
「エンデミック(endemic)」は特定の地理的区域内の集団での感染症の日常的な流行、もしくは感染性病原体の恒常的な存在を意味している。「アウトブレイク(outbreak)」は特定の区域や特定の集団において通常予測される以上の症例数の増加を意味し、それはしばしば突然発生する。

[註釈3]非接触式消毒システム
非接触式消毒システム(no-touch disinfection system)にはエアロゾル化蒸気システムおよび紫外線C照射システムの2つの大きなカテゴリーがある。

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長