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75号 ムンプスのアウトブレイク時のワクチン3回目接種の推奨
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米国では2015年末以降、ムンプスのアウトブレイクおよびアウトブレイク関連患者の数がかなり増加している。この問題に対処するために、「予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP:Advisory Committee on Immunization Practices)」は入手可能なエビデンスをレビューし、「ムンプスを防ぐためのMMR(麻しん・ムンプス・風しん)ワクチンの3回目接種は有効かつ安全である」と結論した1 )。ACIPの推奨と根拠を紹介する。

ACIPの推奨

ムンプスのアウトブレイクの発生時、ムンプスに罹患する危険性が高い人々には、過去にムンプスウイルスが含まれているワクチンが2回接種されていても、ムンプス発症およびムンプス由来合併症を防ぐために3回目のワクチンを接種することを推奨する。

ムンプスおよびアウトブレイク

ムンプス患者の85%以上に耳下腺炎が発生する。ワクチン前時代は、精巣炎(12~66%)、無菌性髄膜炎(0.2~10%)、脳炎(0.02~0.3%)などの合併症が観察されていた。これらはワクチンが始まって以降も発生している(精巣炎3~11%、無菌性髄膜炎<1%、脳炎<0.3%)。2012年以降、ムンプス患者の数、ムンプス発生率、アウトブレイク数、アウトブレイク関連患者の割合、ムンプスのアウトブレイクを報告した管轄区の数はすべて増加した。2016年および2017年に報告された患者数(それぞれ、6,369人および5,629人[12月31日速報値])は過去10年間で最も高かった。さらに、2016年1月1日~2017年6月30日の期間において、州保健所は150件のアウトブレイクを報告し、患者数は9,200人を数えた。そして、保健所51施設のうち39施設(76%)が少なくとも1件のアウトブレイクを報告している。
75件(50%)のアウトブレイクは大学で発生し、16件(11%)は結束の固い集団(社会的、文化的、家族的な絆によって強く結ばれている集団、共同活動に参加している集団、共同生活空間にいる集団)で発生した。アウトブレイク当たり、10人(中央値)の患者が発生し、50人以上を巻き込んだアウトブレイクは20件(13%)あった。これはアウトブレイク関連患者の83%を占めており、殆どの患者は若年成人(年齢中央値=21歳)であった。9,200人の患者のうち、ワクチンの接種状況が判明している7,187人(78%)のなかで、5,015人(70%)がムンプスを発症する前にMMRが2回接種されていた。アウトブレイクに関連したムンプス患者のうち、合併症のあるものの割合は3%未満であった(9,200人中270人)。精巣炎は報告された合併症の75%(270人中203人)を占めていた。未接種の患者よりも2回の接種歴のある患者の方が、合併症の有病率は有意に低いことが他の調査によって報告されている。

ムンプスワクチンの2回接種の有用性および免疫反応

ムンプスを防ぐ上でのMMRの2回接種の有効率は88%(中央値)であるが、これを報告した研究は2005~2016年に実施され、その殆どは研究実施の10年未満に2回目のMMR接種を受けていた人を含んでいた。いくつかの研究は、2回目を接種してからの時間の経過とともにワクチンの有用性が減少し、ムンプスの危険性が増加することを報告している。
ムンプスウイルスへの免疫反応に関しての限定的な検査データによると、麻疹や風疹の感染やワクチンへの反応を比較すると、ムンプスの自然感染やワクチンの接種後は抗体価が低く、抗体の質が乏しいことを示唆している(例.結合力の低い抗体、強力なメモリーB細胞を産生することができない)。ムンプスの中和抗体および非中和抗体の抗体価(中央値)はMMRを2回接種された人において時間とともに減少する。

ムンプスワクチンの3回接種について

3件の疫学的研究がムンプスの予防のためのMMRの3回接種に関するエビデンスを提供している。すべてがMMRの2回接種の接種率の高い集団(学校および大学)でのアウトブレイクで実施された。すべての研究が、アウトブレイク前に2回接種されていた人と比較すると、アウトブレイク中に3回接種を受けた人では発病率は低いことを示した。また、1件の研究では統計学的に有意なリスク比(1,000人-年当たり、6.7対14.5;p<0.001)を示している。MMRの3回vs.2回の有用性の増強は61%~88%であり、1件の研究では統計学的に有意であった。アウトブレイクの13年以上前にMMRの2回目を接種した学生はアウトブレイクの2年以内に2回目を接種していた学生よりもムンプスに罹患する危険性は9倍以上高かった。
2件の研究はMMRの3回目接種後のムンプスウイルス抗体価を評価し、接種後1ヶ月で有意に増加することを示した(p<0.0001)。しかし、抗体価は接種後1年までにベースライン近くまで低下した。5件の研究が、小児および若年成人(9~28歳)におけるMMRの3回目接種の安全性を評価しており、3回目のMMR接種を受けた14,368人では重篤な有害事象は報告されなかった。その他の有害事象は軽度であり、報告数は少なかった。小児では、6~7%が3回目の接種後2週間以内に少なくとも1件の有害事象(重症ではない)を報告した。3回目接種を受けた若年成人では、接種前に比較して、接種後の4週間で4つの症状が有意に増加した。その症状は、リンパ節腫大(12%)、下痢(9%)、頭痛(7%)、関節痛(6%)であった。

アウトブレイク時の3回目接種についての理論的根拠

ムンプスのアウトブレイクは濃厚接触のある施設環境での集団や結束の固い集団で主に発生している。2回のMMRの現在のルチーン接種の推奨は一般集団におけるムンプスの制御には有効に思われる。しかし、長期の濃厚接触のある環境でのムンプスのアウトブレイクを防ぐためには、MMRは2回接種の接種率が高くても、不十分である。
アウトブレイクで典型的にみられる高濃度の曝露環境では、2回目の接種後の経時的なワクチン誘導免疫の減弱がこのような状況でのムンプスの危険性を高めている。但し、重症化への予防は維持されている。
3回目の接種はアウトブレイクに巻き込まれている人々では少なくとも短期の有益性がある。重度の有害事象は報告されておらず、それ以外の有害事象も少ない。3回目の接種をうけた人でムンプスが予防されれば、合併症も予防されるであろう。

文献

  1. CDC. Recommendation of the Advisory Committee on Immunization Practices for use of a third dose of
    mumps virus‒containing vaccine in persons at increased risk for mumps during an outbreak
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/67/wr/pdfs/mm6701a7-H.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長