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66号 CDC「手術部位感染の予防のためのガイドライン,2017」
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2017年5月3日、CDCは「手術部位感染の予防のためのガイドライン,2017」を公開した1)。このなかから勧告部分を抜粋して紹介する。これらの勧告は手術全体についての「コアセクション」と人的かつ経済的負担の大きい「人工関節置換術セクション」に分かれている。

コアセクション

予防抗菌薬(非経口)

  • 1A.1.
    手術前の抗菌薬は、公開されている臨床実践ガイドラインに基づいた適用のときのみに投与する。そして、切開がなされたときに、血清および組織での抗菌薬の殺菌濃度が確保されるようなタイミングで投与する。(カテゴリーIB‒強い勧告;常識)
  • 1A.2.
    臨床的アウトカムに基づいて術前の抗菌薬の投与のタイミングを更に細かく区分することはできない。(勧告なし/未解決問題)
  • 1B.
    すべての帝王切開において、皮膚切開の前に適切な予防抗菌薬(非経口)を投与する。(カテゴリーIA‒強い勧告;高いレベルのエビデンス)
  • 1C.
    文献を調査したが、予防抗菌薬(非経口)の体重調整の投与の有用性と有害性および手術部位感染(SSI:surgical site infection)のリスクについての効果を評価した無作為化比較試験を見つけることができなかった。他の機関は観察データおよび薬物動態データに基づいた勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)
  • 1D.
    調査したが、SSIの予防のために予防抗菌薬(非経口)の手術中の再投与の有用性と有害性を評価した十分な無作為化比較試験を見つけることができなかった。他の機関は観察データおよび薬物動態データに基づいた勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)
  • 1E.
    清潔および準清潔手術では、手術室内で閉創したあとはドレーンが留置されていても、予防抗菌薬を追加投与しない。(カテゴリーIA‒強い勧告;高いレベルのエビデンス)

予防抗菌薬(経口)

  • 2A.1.
    無作為化比較試験は手術中の抗菌薬洗浄(腹腔内、深部、皮下組織など)の有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。他の機関は既存のエビデンスに基づいた勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)
  • 2A.2.
    調査したが、SSIの予防のためにインプラント前に抗菌薬溶液で人工器具を浸漬することを評価した無作為化比較試験を見つけることができなかった。(勧告なし/未解決問題)
  • 2B.1.
    SSI予防のために、外科切開創に抗菌薬(軟膏、溶液、粉末など)を適用しない。(カテゴリーIB‒強い勧告;低いレベルのエビデンス)
  • 2B.2.
    自己の多血小板血症をSSI予防のために、適用する必要はない。(カテゴリーII‒弱い勧告;臨床的有用性と有害性の間での妥協を示唆している中等度のレベルのエビデンス)
  • 2C.
    SSI予防にトリクロサンコーティング縫合糸の使用を考慮する。(カテゴリーII‒弱い勧告;臨床的有用性と有害性の間での妥協を示唆している中等度のレベルのエビデンス)
  • 2D.
    無作為化比較試験のエビデンスは、SSIを予防するために手術室内で一次閉鎖後に手術切開創に抗菌薬ドレッシングを適用することの有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。(勧告なし/未解決問題)

血糖コントロール

  • 3A.1.
    周術期の血糖をコントロールし、糖尿病の有無にかかわらず、血糖の目標レベルを200mg/dL未満にする。(カテゴリーIA‒強い勧告;高い~中等度のレベルのエビデンス)
  • 3A.2.
    調査したが、SSI予防のために、このガイドラインで推奨されているよりも低値(<200mg/dL)もしくは狭域の血糖ターゲットレベルや周術期の血糖コントロールの適切なタイミング、期間、投与法を評価した無作為化比較試験を見つけることができなかった。他の機関は観察的エビデンスに基づいた勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)
  • 3B.
    調査したが、患者の糖尿病の有無に関係なく、SSIを予防するために適切なヘモグロビンA1Cレベルを評価した無作為化比較試験を見つけだすことができなかった。(勧告なし/未解決問題)

正常体温

  • 1.
    周術期の正常体温を維持する。(カテゴリーIA‒強い勧告;高い~中等度のレベルのエビデンス)
  • 2.
    調査したが、SSIを予防するために、正常体温を確保・維持する方策、正常体温の下限、正常体温の適切なタイミングと期間を評価した無作為化比較試験を見つけだすことができなかった。他の機関は観察的エビデンスに基づいた勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)

酸素化

  • 6A.
    無作為化比較試験のエビデンスは、SSIを予防するために、全身麻酔が施行されている正常肺機能の患者の手術中に、気管内挿管を介して、吸入酸素濃度(FiO2)を増量して投与することの有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。(勧告なし/未解決問題)
  • 6B.
    気管内挿管されている全身麻酔の正常肺機能の患者では、手術中および手術直後の抜管のあとはFiO2を増加させる。組織の酸素輸送を最適にするために、周術期の正常体温と十分な体液補充を維持する。(カテゴリーIA‒強い勧告;中等度のレベルのエビデンス)
  • 6C.
    無作為化比較試験のエビデンスは、SSIを予防するために、気管内挿管も脳幹脊髄性麻酔(脊髄、硬膜外、局所神経ブロック)もされていない一般麻酔が実施されている正常肺機能の患者の周術期に、フェイスマスクを介したFiO2の増量投与に関する有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。(勧告なし/未解決問題)
  • 6D.
    無作為化比較試験のエビデンスは、SSIを予防するために、正常肺機能の患者での手術後にフェイスマスクもしくは経鼻カニューラを介したFiO2の増量投与に関する有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。(勧告なし/未解決問題)
    調査したが、SSIを防ぐためのFiO2の適切なターゲットレベル、期間、投与法を評価した無作為化比較試験を見つけることができなかった。他の機関は観察研究に基づいた勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)

消毒薬予防

  • 8A.1.
    患者には少なくとも手術前日には石鹸(抗菌性もしくは非抗菌性)または消毒薬を用いたシャワーや入浴(全身)をするように指導する。(カテゴリーIB‒強い勧告;常識)
  • 8A.2.
    無作為化比較試験のエビデンスは、SSIを予防するための術前シャワーや入浴の適切なタイミング、石鹸もしくは消毒薬の適用の回数、グルコン酸クロルヘキシジンの手ぬぐいに関する有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。(勧告なし/未解決問題)
  • 8B.
    禁忌でなければ、アルコールベースの消毒薬にて皮膚を消毒する。(カテゴリーIA‒強い勧告;高いレベルのエビデンス)
  • 8C.
    SSIの予防のために、皮膚消毒の直後に抗菌密閉剤を適用する必要はない。(カテゴリーII‒弱い勧告;臨床的有用性と有害性の間での妥協を示唆している低いレベルのエビデンス)
  • 8D.
    抗菌性の有無に拘わらず、プラスチック接着ドレープをSSIの予防のために使用する必要はない。(カテゴリーII‒弱い勧告;臨床的有用性と有害性の間での妥協を示唆している高い~中等度のレベルのエビデンス)
  • 9A.
    SSIの予防のために、ヨードホール水溶液にて深部もしくは皮下組織を術中に洗浄することを考慮にいれる。不潔もしくは汚染の腹部手術においてヨードホール水溶液での術中の洗浄は必要ない。(臨床的有用性と有害性の間での妥協を示唆しているカテゴリーII‒弱い勧告;中等度のレベルのエビデンス)
  • 9B.
    調査したが、SSIを予防するために、インプラント前に人工機器を消毒薬溶液に浸漬することを評価した無作為化比較試験を見つけることができなかった。(勧告なし/未解決問題)
    無作為化比較試験のエビデンスはSSIを予防するために、手術切開創を閉じる直前に患者の皮膚に消毒薬を繰り返して塗布することの有用性と有害性の妥協点を評価するには不十分であった。(勧告なし/未解決問題)

人工関節置換術セクション

輸血

  • 11A.
    入手できるエビデンスは、人工関節置換術のSSIのリスクにおける輸血の有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。他の機関はこの話題について勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)
  • 11B.
    SSIを予防することを目的として、手術患者から得られた血液製剤を輸血することを差し控える必要はない。(カテゴリーIB‒強い勧告;常識)

免疫抑制剤による全身治療

  • 12・13.
    入手できるエビデンスは、人工関節置換のSSIのリスクにおけるコルチコステロイドやその他の免疫抑制剤の全身治療の有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。他の機関は既存のエビデンスに基づいて勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)
    コルチコステロイドや免疫抑制剤が全身投与されている人工関節置換術の患者であっても、清潔および準清潔の手術では、手術室内で閉創したあとはドレーンが留置されていても、予防抗菌薬を追加投与しない。(カテゴリーIA‒強い勧告;高いレベルのエビデンス)

関節内コルチコステロイド注射

  • 15・16.
    入手できるエビデンスは人工関節置換術におけるSSIの発生について、術前の関節内のコルチコステロイドの注射の使用とタイミングの有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。他の機関は観察研究に基づいて勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)

抗凝固

  • 1.
    入手できるエビデンスは、人工関節置換術におけるSSIの発生について、静脈血栓塞栓症の予防の有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。他の機関は既存のエビデンスに基づいて勧告を作成している。(勧告なし/未解決問題)

整形外科医のスペーススーツ

  • 1.
    入手できるエビデンスは、人工関節置換術におけるSSIの予防について整形外科スペーススーツ(space suit)もしくはそれらを装着する医療従事者の有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。(勧告なし/未解決問題)

ドレーンを使用しているときの術後の予防抗菌薬

  • 1.
    人工関節置換術の患者であっても、清潔および準清潔の手術では、手術室内で閉創したあとはドレーンが留置されていても予防抗菌薬を追加投与しない。(カテゴリーIA‒強い勧告;高いレベルのエビデンス)

バイオフィルム

  • 20A.
    入手できるエビデンスは、人工関節置換術におけるセメント調節およびバイオフィルム形成もしくはSSIの予防について有用性と有害性の妥協点に確信が持てないことを示している。(勧告なし/未解決問題)
  • 20B.
    調査したが、人工関節置換術におけるバイオフィルム形成もしくはSSIの予防のための人工器具修正を評価した研究を見つけることができなかった。(勧告なし/未解決問題)
  • 20C.
    調査したが、人工関節置換術におけるバイオフィルム形成もしくはSSIの予防のためのワクチンを評価した研究を見つけることができなかった。(勧告なし/未解決問題)
  • 20D.
    調査したが、人工関節置換術におけるバイオフィルム形成もしくはSSIの予防のためのバイオフィルム制御薬(バイオフィルム分散剤、クオラムセンシング阻害薬、新規の抗菌薬など)を評価した研究を見つけることができなかった。(勧告なし/未解決問題)

文献

  1. CDC. Guideline for the prevention of surgical site infection, 2017
    https://www.cdc.gov/infectioncontrol/guidelines/ssi/index.html

[註釈] 勧告のカテゴリー

カテゴリーIA:臨床的有用性もしくは有害性を示唆している、高い~中等度レベルのエビデンスによって支持されている強い勧告

カテゴリーIB:臨床的有用性もしくは有害性を示唆している、低いレベルのエビデンスによって支持されている強い勧告、もしくは、低い~極めて低いレベルのエビデンスによって支持されている常識(無菌テクニックなど)

カテゴリーIC:州もしくは連邦の規則によって要求されている強い勧告

カテゴリーⅡ:臨床的有用性と有害性の間での妥協を示唆している何らかのレベルのエビデンスによって支持されている弱い勧告

勧告なし/未解決問題:有用性と有害性の間での妥協点が不確かな低いレベルもしくは極めて低いレベルのエビデンスのある未解決問題、もしくは、介入の危険性と有用性を秤にかけるために重要であると思われる結果についての公表エビデンスがない

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長