生乳(せいにゅう)には様々な病原体が混入している。そして、多くの人々が生乳を飲用することによって、重篤な感染症に罹患しており、死亡例も報告されている。そのような状況を回避するために、CDCは生乳を飲用しないように市民を啓発している1)。ここで要点を紹介する。
生乳には細菌、ウイルス、寄生虫のような有害な病原体が混入していることがある。これらの病原体は病気を引き起こし、死をもたらす可能性がある。もし、生乳が健康に有益であると信じて、
それを飲用することを考えているならば、他の選択肢を考えてほしい。健康なライフスタイルを向上するために、多くの努力がなされており、その中には生乳を食事に加えようと考えている人もいる。しかし、生乳はそこに含まれている有害な病原体を殺すための低温殺菌(特定の温度で一定の時間の加熱をおこなうこと)がなされていない。
これらの病原体を殺菌しても、乳の外見、味、臭いが変化することはないので、低温殺菌は乳を安全にするための最も良い方法と考えてよい[図1]
- 生乳は自分や家族に有害か?
- 「イエス」。生乳は低温殺菌されていない動物の乳である。生乳には有害な病原体(キャンピロバクター、クリプトスポリジウム、大腸菌、リステリア、サルモネラなど)が含まれていることがある。そのため、生乳を飲用すると、下痢、胃痛、嘔吐が何日も続くことがある。また、頻度は減るが、腎不全や麻痺が引き起こされ、死亡することもある。特に、幼児や小児、高齢者、妊婦、免疫不全の人々は生乳を飲むことによって病気に罹患する可能性が高くなる[図2]。
- 生乳や生乳から作られた乳製品(チーズ、アイスクリーム、ヨーグルトなど)を飲んだり食べることによって病気に罹患する可能性が高いのはどのような人々か?
- 生乳を飲むことによって病気になる機会は、乳児、幼児、高齢者、妊婦、免疫不全の人々(がん、臓器移植、HIV感染)では健康な年長小児や成人よりも高い。しかし、年齢の如何にかかわらず、健康な人であっても有害な病原体に汚染している生乳を飲めば、重篤な感染症に罹患したり、死亡することがある。
- 生乳や生乳から作られた乳製品によって発病する機会を減らす方法には何があるか?
- 下記のような対応をおこなう。
- 低温殺菌されている乳や乳製品を選択する。ラベルに「低温殺菌済」と記載されているのを確認する。もし、記載されていなければ購入しない。
- 乳や乳製品は4℃以下に冷蔵する。期限切れの乳や乳製品は廃棄する。
- 低温殺菌されている乳から作られたソフトチーズを食べる。ソフトチーズにはケソ・フレスコチーズ、ケソ・パネラチーズ、ブリーチーズ、カマンベールチーズ、アオカビチーズ、フェタチーズなどがある。
- 生食品や自然食品は加工食品よりも健康に良いか?
- 多くの人々は処理がなされていないか、殆ど処理されていない食べ物が健康に良いと信じている。しかし、健康を守るためには処理が必要なことがある。生の肉、家禽、魚を食べるには調理が必要である。低温殺菌は病原体を殺菌するのに十分な時間の加熱によって乳を安全のものにすることができ、そして、殆どの栄養物は低温殺菌のあとでも乳に含まれている。
- 生乳は善玉細菌を与えてくれるか?
- 生乳には細菌が含まれており、その一部は有害である。それ故、生乳が善玉菌を与えてくれると信じて、生乳を飲もうと考えているならば、悪玉菌によって病気になるかもしれないことも知るべきである。一方、ヨーグルトやケフィアのような低温殺菌した発酵食品は食べても安全な細菌を含んでいる。
- ウシ、ヤギ、ヒツジが健康かつ清潔であり、搾乳場は搾乳するときに特に注意を払って、清潔に取り扱っているが、それでも生乳や生乳製品は病気を引き起こすことはあるか?
- 「イエス」。搾乳時の衛生が良好であれば、生乳の汚染は減るが、汚染を除去することはできない。例え、細菌数が少数であっても、搾乳してから人々が飲用するまでの間に、細菌は生乳中で増殖することができる。もし、生乳が低温殺菌されず、病原体が殺菌されていなければ、飲
んだ人は病気に罹患する。搾乳する方法は年月とともに向上しているが、生乳が飲用に安全であるとするほどは信用できない。また、「保障されている」「有機肥料を用いている」「地元特産である」とする生乳であっても安全性は保障されていないことに留意する必要がある。低温殺菌のみが生乳を飲用について安全にすることができる。低温殺菌された有機乳や乳製品を提供している地域の小規模の酪農はたくさんある。- 酪農農家が生乳の細菌検査を実施しているが、それでも安全ではないのか?
- 検査が陰性であることは生乳が安全に飲めるということを保証しない。或る日に安全な生乳が別に日にも安全ということはない。また、低レベルの汚染は検査にて必ずしも検出されない。
「定期的に生乳の細菌検査をしている農場」や「生乳が安全であると言っているオーナーの農場」からの生乳を飲むことによって重症感染症に罹患している人がいる。- 生乳が関連するアウトブレイクはどこで発生しているか?
- 生乳が関連するアウトブレイクは、販売を合法としている州では販売禁止の州よりも多く発生している。また、一つの州の生乳の販売が隣接の州でアウトブレイクを引き起こすことがある[図3]。
- 生乳のアウトブレイクでは誰が最も影響を受けているか?
- 生乳のアウトブレイクの大多数で小児が巻き込まれている。2007年から2012年までにCDCに報告された生乳のアウトブレイクの59%で、5歳未満の小児が少なくとも1人は含まれていた。
これらのアウトブレイクのうち、38%がサルモネラによって引き起こされており、28%がシゲラ毒素産生の大腸菌によって引き起こされている。これらの病原体は1~4歳の幼児で腎不全や死亡を引き起こすことがある。文献
- CDC.Raw (Unpasteurized) Milk
https://www.cdc.gov/features/rawmilk/index.html
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長