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49号 CDCの『抗菌薬スチュワードシッププログラム』
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現在、世界中で様々な耐性菌(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌、多剤耐性緑膿菌、多剤耐性アシネトバクターなど)が発生しているにも拘わらず、抗菌薬の新規開発が滞っている。それ故、これらの細菌による重篤な感染症が発生した場合、適切な薬剤が利用できないことから、致死的な状況となる。
このようなことから、多剤耐性菌が医療施設内で蔓延しないように感染対策を徹底することが求められているが、同時に抗菌薬の適切な使用も必要である。CDCが「病院における抗菌薬スチュワードシッププログラムの核心的要素」1 )を公開しているので、2回に分けて紹介する。

はじめに

セプシスの治療では抗菌薬の迅速な投与が有効であるということからもわかるように、感染症を治療するために抗菌薬を迅速に開始すれば、罹患を減らし、患者の生命を救うことができる。しかし、米国の急性期病院で処方されている全抗菌薬の20~ 50%が不必要もしくは不適切なものであるという現実がある。他の薬剤と同様に、抗菌薬にも重篤な副作用があり、それにはクロストリジウム・ディフィシル感染症も含まれる。抗菌薬に不必要に曝露した患者には臨床的な有益性がないばかりでなく、重篤な副作用の危険性が発生する。また、抗菌薬の誤用は抗菌薬耐性の問題を増大することになる。他の薬剤とは異なり、耐性菌が拡散することによって、抗菌薬に曝露さえしていない患者の健康が脅かされる。

2006年、CDCはガイドライン「医療施設における多剤耐性菌の管理(Management of multi-drug resistant organisms in healthcare settings )」を公開したが、そこには多剤耐性菌の制御では抗菌薬の賢明な使用に注意を向けることが大切であると明記されている。2009年、CDCは急性期病院における抗菌薬使用の向上を促進するために、「医療キャンペーンのために賢くなろう(Get smart for healthcare campaign )」を世に送り出した。そこには、米国における抗菌薬耐性の問題を取り扱うために必要な4つの重要な戦略[註釈]の1つとして抗菌薬使用の向上が必要であることが強調されている。

抗菌薬の使用を向上するための病院に根付いたプログラム(通常、抗菌薬スチュワードシッププログラムと呼ばれている )は感染症の治療を適切なものにし、抗菌薬に関連した副作用を減少させることが、多くのエビデンスによって示されている。このようなプログラムによって、患者ケアの質が向上し、感染症の治癒率が増加し、治療不成功を減らすことができる。そして、治療および予防のための正しい処方の頻度を増加させることによって、患者の安全を向上することができる。それはまた、病院でのクロストリジウム・ディフィシル感染症および抗菌薬耐性菌をかなり減少させることができる。さらに、このプログラムは病院の経済を救うこともできる。

病院における抗菌薬の使用の向上が緊急に必要であることと、抗菌薬スチュワードシッププログラムが有益であることが認識されたため、2014年、CDCはすべての急性期病院に抗菌薬スチュワードシッププログラムを実施することを推奨した1)

病院の抗菌薬処方を適切にするためのプログラムの単一の鋳型は存在しない。抗菌薬の使用を取り巻く医療判断の複雑性および病院間でのサイズとケアの多様性はプログラムの実施に柔軟性を求めている。

スチュワードシップ介入

「抗菌薬スチュワードシッププログラムの核心的要素」[表1]には 7項目あるが、ここでは臨床現場で実践できる「④行動(Action)」項目に述べられているスチュワードシップ介入を解説する。介入は3つのカテゴリー(広範囲の介入、薬局の介入、感染症および症候群に特有の介入)に分類される。

[表1] 病院における抗菌薬スチュワードシッププログラムの核心的要素

① 指導者の誓約( Leadership commitment )
人的、経済的、情報テクノロジーなどの必要な資源を投入する。
② 責任者の指定( Accountability )
プログラムの成果に責任を持つ指導者を1人指定する。プログラムの成功例を参考にすると、医師が指導者であることが効果的である。
③ 薬剤の専門家( Drug expertise )
抗菌薬使用の向上についての業務に責任を持つ薬剤師の指導者を1人指定する。
④ 行動( Action )
少なくとも1件の推奨行動を実施する。例えば、1連の初期治療後に、治療の継続の必要性を総合的に評価するなど( 48時間後の抗菌薬「タイムアウト」)
⑤ 追跡( Tracking )
抗菌薬の処方および耐性菌のパターンを監視する。
⑥ 報告( Reporting )
抗菌薬の使用および耐性菌の情報を医師、看護師、担当者に定期的に報告する。
⑦ 教育( Education )
耐性菌および最適な処方について医師を教育する。

[ 1 ]広範囲の介入( Broad intervention )

  • 抗菌薬「タイムアウト」( Antibiotic “Time outs” ):
    抗菌薬開始後48時間で「患者は抗菌薬が有効な感染症に罹患しているか?」「投与薬剤、投与量、投与経路は正しいか?」「デ・エスカレーションできるか?」「治療期間はどのくらいか?」を確認する。
  • 事前許可:
    この介入には抗菌薬使用および感染症の専門知識が必要である。許可は適時に実施されなければならない。
  • 前向き監査とフィードバック:
    抗菌薬の専門家による抗菌薬治療の外部評価は重症患者および広域もしくは複数の抗菌薬が投与されている患者での抗菌薬使用の最適化に大変有効である。前向き監査とフィードバックは抗菌薬「タイムアウト」とは異なる。監査は治療チーム以外のスタッフによって行われるからである。監査とフィードバックには専門知識が必要であり、小規模施設では症例レビューでの助言について外部専門家と契約するとよい。

[ 2 ]薬局の介入( Pharmacy-driven intervention )

  • 抗菌薬の静脈投与から経口への自動変更:
    適切な状況、かつ、吸収が良好な抗菌薬(フルオロキノロン系薬、ST合剤、リネゾリドなど)があれば静脈投与を減らすことによって患者安全を向上できる。
  • 投与量の調整:
    腎機能障害などでは薬剤投与量を調整する。
  • 投与量の最適化:
    治療薬物モニタリングに基づく薬剤の調整、高度耐性菌の治療の最適化、中枢神経系への薬剤の到達、βラクタム系薬の投与時間の延長などが含まれる。
  • 治療が不必要に重複した状況での自動的警告:
    これには抗菌スペクトラムが重複している複数の抗菌薬の同時使用が含まれる。
  • 時間による自動終了指示:
    特定の抗菌薬処方での自動終了。特に、手術前予防としての抗菌薬の投与がある。
  • 抗菌薬が関連した薬剤間の相互作用の検出と防止:
    経口フルオロキノロン系薬と特定のビタミンの間の相互作用など

[ 3 ]感染症および症状に特有の介入
 ( Infection and syndrome specific interventions)

  • 市中感染肺炎:
    市中感染肺炎への介入では、治療において認識された問題を修正することに焦点が当てられる。これには「診断の精度を向上する」「培養結果によって治療を修正し、ガイドラインを遵守して治療の期間を最適にする」が含まれる。
  • 尿路感染:
    尿路感染として抗菌薬が投与されている患者の多くは無症候性細菌尿もしくは非感染である。尿路感染への介入では「不必要な尿培養をすること」および「無症候な患者を治療すること」を避け、地域の感受性結果および推奨治療期間に基づいた適切な治療を患者が受けることができるようにする。
  • 皮膚および軟部組織感染:
    皮膚および軟部組織感染への介入では「患者に広域な抗菌薬を過剰に投与しない」および「治療期間を正す」に焦点が当てられる。
  • MRSA感染症のエンピリックなカバー:
    多くの症例において、MRSAの治療は患者にMRSA感染がなければ中止できる。また、MSSAが原因であればβラクタム系薬に変更できる。
  • クロストリジウム・ディフィシル感染症( CDI:Clostridium difficile infection):CDIの治療ガイドラインはCDIと診断された患者すべてにおいて、不必要な抗菌薬を中止するように求めている。 CDIの新規診断患者での抗菌薬を再吟味することによって不必要な抗菌薬を中止し、CDIの治療に対する臨床的反応を改善させ、再燃の危険性を減らすことができる。
  • 培養にて証明された侵襲性感染症の治療:
    侵襲性感染症では原因菌が同定できることがあるので、抗菌薬使用の向上のための介入の良い機会である。培養および感受性検査は、抗菌薬を調整したり、汚染菌ゆえに抗菌薬を中止するための必要な情報を与える。

文献

  1. CDC. Core elements of hospital antibiotic stewardship programs
    http://www.cdc.gov/getsmart/healthcare/pdfs/core-elements.pdf

[註釈]
「感染を防ぐ、耐性菌の拡散を防ぐ」「耐性菌パターンを追跡する」「抗菌薬スチュワードシップ(処方を向上する、使用を向上する)」「新しい抗菌薬および診断結果を開発する」

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長