現在、中南米でジカウイルスが流行しており、小頭症が多発している。ジカウイルスはヤブカ属(Aedes species)の仲間のネッタイシマカ(Aedes aegypti)[図 1 ]およびヒトスジシマカ( Aedes albopictus )[図 2 ]にヒトが刺されることによって感染する。これらの蚊はデングウイルスやチクングニアウイルスも媒介するため、それらのウイルスの流行を阻止するためには蚊の制御が極めて重要である。日本にはヒトスジシマカが生息しているので、蚊の駆除法の啓発は大切である。ここではネッタイシマカの生態や生活環および水生生息地について、CDCのホームページの情報を抜粋して紹介するが、ヒトスジシマカでも同様の対応が必要である。
図1 ネッタイシマカ( Aedes aegypti )
CDC. Public Health Image Library (PHIL)
http://phil.cdc.gov/phil/details.asp
図2 ヒトスジシマカ( Aedes albopictus )
CDC. Public Health Image Library (PHIL)
http://phil.cdc.gov/phil/details.asp
生態1)
- ネッタイシマカはヒトおよびその居住区域に濃厚に関連する昆虫である。ヒトは蚊に血液のみならず、彼らの成長に必要な貯水容器を家の内外で提供している。
- 蚊は貯水容器の側面に産卵し、雨か洪水後に卵は孵化して幼虫となる。幼虫は1週間程度で蛹に変化し、2日で蚊となる。
- ネッタイシマカはクローゼットのような暗い涼しい区域で休むことを好み、ヒトはその避難所を提供している。このことが室内でヒトを刺す能力を導いている。
- ネッタイシマカを制御もしくは駆除することは大変難しい。彼らは環境に順応し、そして、その環境は彼らを大変活動的にするからである。自然現象(干ばつなど)やヒトによる介入( 制御策など )によってダメージを与えられても、すぐに当初の数に回復する能力がある。
- そのように順応できる理由の一つに、卵が乾燥に耐え、数ヵ月も水のない状態で容器の内壁で生き残る能力がある。すべての幼虫、蛹、成虫をその場所から一気に駆除したとしても、卵を持っている容器に雨が降ったり、水が追加されたりすると卵が孵化し、蚊の数は 2 週間で回復する。
蚊の生活環2)
- ネッタイシマカおよびその他の蚊は複雑な生活環を持っており、形態、機能、生息場所において劇的に変化する。雌の蚊は水のある容器の濡れた内壁に産卵する。容器中の卵を制御するための効果的な方法はない。
- 雨が降ったり、ヒトが容器に水を注いだ結果、卵が水浸しになると孵化して幼虫となる[図 3 ]。その後、幼虫は微生物および小さな有機物を食べ、そして 3 回脱皮し、一齢幼虫から四齢幼虫に成長する( 註釈:幼虫は脱皮しながら成長するが、孵化直後を一齢幼虫、 1回目の脱皮が終わると二齢幼虫という )。 幼虫が十分なエネルギーと大きさを獲得し、四齢幼虫になると、変態の引き金が引かれ、幼虫から蛹に変化する。
- 蛹は食べることをせず、成虫( 飛ぶ蚊 )が形成されるまで形態が変化するだけである。そして、新しく作られた成虫は蛹の皮を破ってから水から飛び立つ。全体の生活環は室温で 8 ~ 10日であるが、それは栄養レベルに左右される。
- ネッタイシマカの生活環には水生期( 幼虫、蛹 )および陸生期( 卵、成虫 )がある。このような生活環の複雑さが蚊がどこからやってくるのかを理解することを困難なものにしている。これに似た水生形態および陸生形態を持つ複雑な生活環は両生類でも観察される。
図3 蚊の生活環
蚊の主要な水生生息地3)
- 蚊は生涯で数十個の卵を 5回まで産卵する。裏庭や中庭にはヒトが作った様々な容器があり、容器には雨水が集められ、もしくはヒトによって水が満たされる[図 4 ]。
- 使用しない容器を廃棄したり、屋根の下に容器を置いたり、しっかりとしたカバーをしたり、動物の飲水容器や植木鉢の水を頻回に交換することによって、蚊の数を大きく減らすことができる。貯水容器は綺麗にしておき、蓋をしておけば、蚊は水生生息地としてそれらを利用できなくなる。
図4 蚊の主要な水生生息地
自然の植物の容器
木や竹の節間部、植物の葉腋( 葉と葉の茎との間の部分)の雨が溜まったくぼみ
人工的な容器 [雨水で満たされた容器]
廃棄された大きな容器( タイヤ、壊れた器具)および小さな容器(ペンキ缶)
屑入れ、バケツ、絵の具のトレー、玩具
[ ヒトによって水が満たされ、また、雨水をためこんでいる容器]
貯水容器( 井戸、タンク、水槽、樽、壺、バケツ)
装飾用もしくは娯楽用容器( 鉢植えと皿、プラスチックの入れ物、水のなかの有根植物/水生植物)
動物用飲水皿
水の漏れている水量計
壊れたもしくは密閉していない浄化槽
文献
- CDC. Dengue Homepage: Entomology & Ecologys
http://www.cdc.gov/Dengue/entomologyEcology/index.html - CDC. Dengue Homepage : Mosquito Life – Cycle
http://www.cdc.gov/dengue/entomologyEcology/m_lifecycle.html - CDC. Dengue Homepage:Mosquitoes’ Main Aquatic Habitats
http://www.cdc.gov/Dengue/entomologyEcology/m_habitats.html
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長