リクレーション水と塩素とpH
スイミングプールやホットタブの塩素はリクレーション水病(recreational waterillness : RWI)を引き起こす病原体を殺菌するが、殺菌に要する時間は各々の病原体で異なっている。プールやホットタブにおいては、塩素は適切なpHおよび濃度であれば、RWIを引き起こす病原体の殆どを1時間以内に殺菌する。しかし、クリプトスポリジウムのような病原体を殺菌するには時間がかかる。クリプトスポリジウムは適切に消毒されているプールでさえも、数日間を生存できる。それ故、水泳者はプールの水を病原体で汚染させないことが大変重要である1 )。
塩素による殺菌時間
遊離塩素は適切な濃度(遊離塩素1~3ppm)および理想的な水の状態(pHが7.5以下、水温が25℃以上)がプール全体で保たれたならば、大腸菌O157:H7を含む殆どの細菌を1分以内に殺菌できる。しかし、一部の病原体は塩素耐性が中等度(ジアルジア、A型肝炎ウイルス)から高度(クリプトスポリジウム)である。下記の表は塩素化された水がこれらの病原体を殺菌する大凡の時間を示している[表1]2)。
表1. 塩素による殺菌時間
病原体 | 糞便汚染での塩素化水による殺菌時間 |
---|---|
大腸菌0157:H7 | 1分以内 |
A型肝炎ウイルス | 約16分 |
ジアルジア | 約45分 |
クリプトスポリジウム | 約15,300分(10.6日) |
- pH7.5および25℃で1ppmの遊離塩素
- これらの殺菌時間はシアヌル酸のような塩素安定剤を用いていないプールのみについてのデータである。殺菌時間は塩素安定剤が存在すると長くなる。
pHレベル
水泳者をRWIから守るために、プールのスタッフは定期的に塩素とpHレベルを測定している。塩素とpHは水泳者を病気にしてしまう病原体に対する最初の防御といえる。
全ての種類の物質がプール水の塩素濃度を減少させる。いくつかの例として日光、排泄物、水泳者の身体からの物質が挙げられる。これが、塩素濃度が定期的に測定されなければならない理由である。これに加えて、塩素が機能する時間はpHなどの要因によって影響されることを知っておく必要がある。
pHが大切な理由には2つある。最初に、塩素の病原体を殺菌する能力はpHレベルによって変動することである。pHが上昇するに従って、塩素の殺菌力は低下する。二つ目は、水泳者の身体のpHが7.2~7.8であることである。プール水のpHがこの範囲でなければ、水泳者は目や皮膚に刺激を感じ始める。この範囲でpHを維持することは皮膚および目への刺激を最小にしながら、塩素の殺菌力を維持している[表2]3)。
表2.pHと水質の関係
水質 | pH |
---|---|
・塩素消毒が弱い ・眼への刺激 ・皮膚への刺激 |
> 8.0 |
・眼の快適さと消毒には最適 | 7.8 7.6 7.2 |
・眼への刺激 ・皮膚への刺激 ・パイプの腐蝕 |
< 7.0 |
おわりに
病原体を殺菌する最善の方法は塩素およびpHレベルを定期的に測定して調整することである。一部の病原体は最善に維持されているプールでさえも、長期間生存できるので、水泳者は健康な水泳行動(下痢しているときには泳がない、プール水を飲みこまない、トイレ休憩を頻回にとる、良好な衛生状態を保つ) を知っておくことが大切である3)。
文献
- CDC.Why doesn’t chlorine kill recreational water illness (RWI) germs
http://www.cdc.gov/healthywater/swimming/rwi/rwi-why.html - CDC.Chlorine disinfection timetable
http://www.cdc.gov/healthywater/swimming/pools/chlorine-disinfection-timetable.html - CDC.Your disinfection team:Chlorine & pH
http://www.cdc.gov/healthywater/swimming/pools/disinfection-team-chlorine-ph.html
矢野 邦夫
浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長