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37号 妊婦への百日咳を含むワクチンの接種の推奨
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幼児が百日咳に罹患すると重篤化することがある。特に、生後5週未満の幼児は死亡することがあるので、適切な対応が必要である。ここで、米国における百日咳の流行と幼児を守るためのワクチン接種の推奨について紹介する1)

流行の状況

米国では百日咳は周期的に流行し、3~5年ごとにピークを迎える。これは集団における感受性のある人の数が増加することによる。カリフォルニア州での百日咳の流行は2010年に発生し、約9,000件の症例がカリフォルニア州保健所に報告された。これには入院808件と乳児死亡10件が含まれている。州全体での発生率は人口10万人当たり24.6人であった。2014年1月1日より11月26日の期間では9,935人の百日咳が報告された。州全体での発生率は10万人当たり26.0人であり、生後12ヶ月未満の幼児での発生率は10万人当たり174.6人であった。データが入手できた6,790人のうち、347人が入院している。そのなかの275人(入院患者の79%)が生後12ヶ月未満であり、生後4ヶ月未満は214人(入院患者の62%)であった。

十分なデータが揃っている生後12ヶ月未満の入院患者のうち、33%が集中治療を必要とした。そして、発症時に生後5週間であった幼児1人が死亡した。このうち、DTaP[註釈]が接種されていた幼児は僅か(24%)であった。2013年に発症した2件の幼児死亡が2014年早期に報告されているが、どちらも、発症時には生後5週間以内であり、そのうちの1人は百日咳関連合併症で死亡するまでに1年間以上入院していた[表]。

表.百日咳で入院した、生後12ヶ月未満の幼児における患者数と割合(カルフォルニア州,2014年)*
属性 患者数 (%)
年齢
2ヶ月未満 135 (49)
2~4ヶ月未満 79 (29)
4~6ヶ月未満 33 (12)
6~12ヶ月未満 28 (10)
接種歴✝
発症の7日以上前のDTaP接種 53 (24)
DTaPの接種なし、もしくは発症7日以内の接種 169 (76)
入院経過
入院日数中央値(日) § 3(1-50)
集中治療室への入院¶ 71 (33)
挿管** 18 (8)
死亡 1 (1)

* N=275
✝ 接種歴が判明している222人のうち
§ データが揃っている225 人のうち
¶ データが揃っている216 人のうち
** データが揃っている237 人のうち

ワクチン接種の状況

母親のTdap[註釈]の接種歴が入手できた生後4ヶ月未満の幼児211人のうち、僅か35人(17%)の母親が妊娠27~36週にTdapを接種していたに過ぎなかった。妊娠中に接種されていなかった母親のうち、56人(36%)が出産後7日以内にTdapが接種されている。

生後12ヶ月未満の幼児は百日咳による入院および死亡について最もリスクが高いので、公衆衛生戦略はこの年齢グループでの疾患の予防を優先してきた。カリフォルニア州での2010年の百日咳の流行において、幼児を守るために用いられた主な戦略は「コクーニング(cocooning)」であった。これは幼児の接触者に接種することによって、幼児に百日咳を伝播させない方法である。しかし、この戦略は実施が困難であり、また、すべての接触者に接種できたとしても、幼児は市中で感染者に曝露してしまう。

2011年、抗百日咳抗体が効果的に胎盤通過して胎児に到達するというデータが得られた。このような受動免疫は生後2ヶ月という、DTaPの初回接種を受けるのに十分な月齢になるまで、脆弱な幼児を守るかもしれない。この年に、ACIP(Advisory Committeeon Immunization Practices:予防接種諮問委員会)はTdapを接種されたことのない妊婦には妊娠20週以降に1回接種することを推奨した。2012年、抗百日咳抗体の濃度は接種後1年で相当減少することを示唆したデータが得られたため、各妊娠の第三トリメスターにTdapを接種することが推奨された。Tdapの免疫反応は接種後2週間頃にピークとなり、また、胎児は母体からの抗体の殆どを妊娠36~40週に獲得する。それ故、出生時での受動免疫および防御を最適なものにするために、Tdapを妊娠27~36週に接種することが推奨される2)。実際、接種された母親から生まれた幼児は、生後暫くは百日咳に罹患するリスクが低いことが示されている。逆に、百日咳を罹患した幼児の母親で妊娠中にTdapを接種していたものは殆どいなかった。出産後に接種された母親は多いけれども、これは幼児に直接的な防御能を与えないので、もはや、適切な戦略とはいえない。

米国小児学会によれば、DTaPは迅速スケジュールで接種することができるので、市中に百日咳が流行しているときには生後6週間で初回接種することが可能である。DTaPは1回接種であっても幼児を重症百日咳から守る可能性がある。

文献

  1. CDC. Pertussis epidemic ̶ California, 2014
    http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/wk/mm6348.pdf
  2. CDC. Guidelines for vaccinating pregnant women, 2013
    http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/downloads/b_preg_guide.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長