現在、西アフリカにおいてエボラウイルス病(EVD:Ebola virus disease)[註:過去にはエボラ出血熱と呼ばれていた]のアウトブレイクが発生している。封じ込めが成功していないため、日本にも感染者が入り込む可能性は否定できない。ここではCDCが提示した「症例定義」「曝露レベル」「感染対策」について紹介する。
症例定義1)
調査下の人(PUI:person under investigation)
下記の症状およびリスク因子のある人:
- 臨床的基準:38.6℃以上の発熱に加えて、厳しい頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢、腹痛、説明できない出血などの症状がある
- 症状の発現前の21日以内の疫学的リスク因子:
- EVDであることが知られているもしくは疑われる患者の血液、その他の体液、遺体に接触した
- EVDの伝播がみられている地域で生活していた、もしくは旅行した
- 流行地域のコウモリ、齧歯類、霊長類を直接取り扱った
疑い例
EVD症例に高リスク曝露もしくは低リスク曝露の接触をしたPUI
確定例
エボラウイルス感染が検査確定された診断的エビデンスのある症例
曝露レベル2)
曝露レベル |
臨床症状 |
公衆衛生学的活動 |
高リスク
- EVD患者の体液に経皮的(針刺しなど)もしくは粘膜曝露した
- 適切な個人防護具(PPE:personal protective equipment)を装着せずにEVD患者を直接ケアした、もしくは体液に曝露した
- 適切なPPEもしくは標準的なバイオセイフティー策をせずに、実験室研究者がEVDの確定患者の体液を処理した
- アウトブレイクが発生している地理的地域において、適切なPPEを装着せずに、遺体に直接触れるような葬儀に参加した
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発熱がある1、もしくは発熱はないが、その他の症状がある2 |
- 感染予防策✝を用いてEVD疑い患者の医学的評価をする、コンサルトを受ける6、必要に応じて検査をする
- 搬送が臨床的に適切かつ必要ならば、医療航空搬送のみをおこなう(公共もしくは商業的な搬送機関は許可されない)
- 感染予防策✝が必要ないと判断された場合:最後の明らかな曝露から21日まで条件付き解除3がなされ、移動管理4される
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無症状 |
- 最後の明らかな曝露から21日まで条件付き解除3がなされ、移動管理4される
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低リスク
- EVD患者の同居家族である、もしくはEVD患者にカジュアルな接触をした
- アウトブレイクの影響を受けている国*の医療施設においてEVD患者への高リスク曝露のない患者ケアをするかカジュアルな接触をした
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その他の症状2の有無にかかわらず発熱1がある |
- 感染予防策✝を用いてEVD疑い患者の医学的評価をする、コンサルトを受ける6、必要に応じて検査をする
- 搬送が臨床的に適切かつ必要であるならば、医療航空搬送のみをおこなう(公共もしくは商業的な搬送機関は許可されない)
- 感染予防策✝が必要ないと判断された場合:最後の明らかな曝露から21日まで条件付き解除3がなされ、移動管理4される
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無症状 |
- 最後の明らかな曝露から21日まで条件付き解除3がなされ、移動管理4される
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明らかな曝露がない
- 影響を受けている国に滞在している
- 低リスクもしくは高リスクの曝露がない
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その他の症状2とともに発熱1がある |
- 移動制限および感染予防策✝が必要かどうかを決定するために医学的評価および随意のコンサルテーション6をする
- 移動制限および感染予防策✝が必要ないと判断された場合;商業的移動機関による旅行は許可される;国外に出てから21日までは自己監視5する
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無症状 |
- 移動制限はない
- 商業的移動法による旅行は許される
- 国外に出てから21日までは自己監視5する
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* アウトブレイクの影響のある国々にはギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネが含まれる(2014年8月4日現在)
✝ 「EVDの伝播の防御のために推奨される標準、接触、飛沫予防策」を参照
1 発熱:38.6℃以上の発熱がある、もしくは発熱の主観的既往がある
2 その他の症状:頭痛、関節および筋肉痛、腹痛、虚弱、下痢、嘔吐、食欲低下、発疹、眼充血、吃逆、咳、胸痛、呼吸苦、嚥下困難、身体内外の出血など。検査値異常には血小板減少(15万/µL以下)およびトランスアミナーゼの上昇がある
3 条件付き解除:公衆衛生当局による監視;発熱の1日2回の自己監視;発熱もしくはその他の症状が発生した場合に公衆衛生当局に届ける
4 移動管理:公衆衛生当局に届ける;商業的な搬送機関(航空機、船舶、列車)による旅行は禁止;無症状の人の地域の移動(タクシーやバス)は地域の公衆衛生当局に相談して評価されるべきである;症状がみられたら適切な医療ケアに適時にアクセスする
5 自己監視:体温を測定して、その他の症状を監視する
6 コンサルテーション:患者の旅行歴、症状、臨床所見について公衆衛生当局と協力して評価する
EVDの伝播の防御のために推奨される標準、接触、飛沫予防策3)
構成要素 |
推奨 |
解説 |
患者配置 |
- ドアを閉めることができる個室(個々のバスルームがある)
- 施設は病室に入室する全ての人の記録を維持する
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- 病室に入室するすべての人が適切かつ一貫したPPEを使用することを確実にするために病室ドアのところにスタッフを配置することを考慮する
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- 病室に入室するすべての人は少なくとも下記を装着する:
- 手袋
- ガウン(耐水性もしくは不浸透性)
- 眼防御(ゴーグルもしくはフェイスシールド)
- フェイスマスク
- 追加のPPEが特別な状況(環境に存在する大量の血液、体液、嘔吐、糞便)にて必要となるかもしれない。下記が含まれるが、これに限定されるものではない
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- 病室もしくはケア区域に入室するときには医療従事者は推奨されるPPEを装着すべきである。病室もしくはケア区域から退室するときには、眼、粘膜、衣類が感染性物質に汚染しないように注意深く取り外し、廃棄する。再利用のPPEについては、製造元の再処理説明書および病院の指針に基づいて、洗浄および消毒をおこなう。
- PPEを取り外したあとには迅速に手指衛生をおこなう
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患者ケア器具 |
- 患者ケアのために、患者専用の医療器具(可能であれば、使い捨てが望ましい)を用いる
- 患者ケアに用いたすべての非専用・非廃棄の医療器具は製造元の再処理説明書および病院の指針に基づいて、洗浄および消毒をおこなう
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患者ケアで考慮すること |
- 針やその他の鋭利物の使用を可能な限り制限する
- 採血、処理、検査は本質的な診断的評価および医療ケアに最小限必要なことに限定する
- すべての針および鋭利物は極めて慎重に取り扱い、耐穿刺性密閉容器に廃棄する
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エアロゾル産生処置(AGP:aerosol generating procedure) |
- EVDの患者へのAGPは避ける
- AGPを実施するならば、EVDに実施するAGPからの曝露を減らすために対策を組み合わせて用いる
- AGPをしているときには面会者は立ち入らない
- AGPのときには医療従事者の数を患者ケアおよびサポートに必要な人のみに限定する
- AGPは個室および理想的には空気感染隔離室で実施する。病室の扉は入退室のときを除いて、処置中は閉めておく。そして、処置中および処置直後は入退室を最小にする
- AGPの間は、医療従事者は手袋、ガウン、使い捨ての靴カバー、顔面の正面及び側面を十分に覆うフェイスシールド、もしくはゴーグルと呼吸器防御を装着する。呼吸器防御は少なくとも、NIOSH認可のフィットテストされたN95マスクもしくはそれ以上のもの(電動ファン付き呼吸用保護具や弾性呼吸器具など)を装着する
- 環境表面の洗浄をおこなう
- 再利用器具もしくはPPE(電動ファン付き呼吸用保護具や弾性呼吸器具など)を用いるならば、製造元の再処理説明書および病院の指針に基づいて、洗浄および消毒をおこなう
- 日常的な患者ケアにおいて、汚れた再利用レスピレータの収集および取扱いはPPEを用いた訓練された人によって実施されるべきである。
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- AGPのリストを明確に定義するためのデータは限定的であるものの、通常含まれる処置にはバイレベル気道陽圧、気管支鏡、喀痰誘導、挿管と抜管、気道の開放吸引がある
- レスピレータを再処理する人への危険性があるため、使い捨てのレスピレータが望ましい
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手指衛生 |
- 医療従事者は手指衛生を頻回に実施する。これには、すべての患者接触の前後、感染性物質への接触の後、手袋などのPPEの装着前および取り外しのときが含まれる
- 医療施設は手指衛生が実施できるように供給を確実にしておく
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- 医療環境での手指衛生は石鹸と水による手洗いもしくはアルコールベースの手指消毒によって実施される。もし、手が肉眼的に汚れているならば、石鹸と流水を用いる(アルコール手指消毒薬ではない)
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環境感染制御 |
- 念入りな環境の洗浄と消毒および汚染した可能性のある物質の安全な取扱いが大切である。血液、汗、嘔吐物、糞便、その他の分泌物には感染性がある可能性がある。
- 環境の洗浄と消毒を実施する医療従事者は推奨されるPPEを装着すべきであり、必要に応じて、追加のバリア(靴カバーや足カバーなど)を考慮する
- 飛び散りの可能性のある液体の廃棄業務を実施するときには、顔面防御(フェイスシールドもしくはゴーグルとフェイスマスク)を装着する
- 病院の指針および製造元の再処理説明書に基づいて、下記の洗浄および消毒については標準的な処置を実施する
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- 硬い平滑な表面の消毒のためには米国環境保護局登録の病院消毒薬を用いる
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安全な注射手技 |
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- 患者の治療区域に持ち込むすべての注射器具もしくは非経口薬剤容器はその患者専用とし、使用した時点で廃棄する
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感染制御策の期間 |
- 予防策の期間は症例によって個別に決定される。これは地域、州、連邦の健康当局と共同して決定する
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- 考慮すべき要因には下記が含まれるが、これに限定されるものではない。EVDに関連した症状の存在、症状が改善した日、特別な予防策を必要とするその他の状況(結核、クロストリジウム・ディフィシルなど)および利用可能な検査情報
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曝露した可能性のあるスタッフの監視と管理 |
- 施設は曝露した可能性のある医療従事者の監視と管理についての指針を作っておくべきである
- 施設は医療従事者の病欠に関する指針を作っておく。これは懲罰的ではなく、柔軟性があり、かつ公衆衛生ガイダンスに一致したものとなる
- 医療施設に直接は雇用されていないが、日常的なサービスを提供しているスタッフを含む、すべての医療従事者は病欠に関する指針を知っているようにする
- EVDが疑われる患者の血液、体液、分泌物、排泄物に経皮的もしくは粘膜曝露した人は下記をすべきである
- 業務を中止し、汚染した皮膚表面を石鹸と水ですぐに洗い流す。粘膜(結膜など)は大量の水もしくは目の洗浄液で洗い流す
- 評価について職業上健康/監督者に迅速に連絡し、すべての適切な病原体(HIV、HCVなど)について、曝露後の管理のためにアクセスする
- EVDの患者への無防備曝露(患者への接触時もしくは血液や体液への直接接触のときに、推奨されるPPEを装着していないなど)のあとに突然の発熱、激しい虚脱、筋肉痛、嘔吐、下痢、出血症状がみられる医療従事者は下記をすべきである
- すぐに業務を中止する
- 上司に連絡する
- 迅速な医学的評価と検査を求める
- 地域および州の健康局に連絡する
- 他人に感染性がないと思われるまでは業務から離れる
- EVD患者への無防備曝露(患者への接触時もしくは血液や体液への直接接触のときに、推奨されるPPEを装着していないなど)した無症状の医療従事者は下記をすべきである
- 最後の明らかな曝露から21日間、1日2回の発熱の監視を含む医学的評価およびフォローアップケアを受ける
- 症状および発熱チェックの記録を検討するために、病院は曝露した職員への1日2回の接触を確実にする指針を考慮する
- 地域、州、連邦の公衆衛生局と相談し、病院の指針に基づいて、1日2回の毎日の発熱チェックを受けている間は業務を続けてもよい
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面会者の監視、管理および訓練 |
- 面会者が病室に入室することは避ける
- 患者の健康状態に必須な人については、患者の状況に応じて、例外を考慮する。
- 面会者を管理および訓練するための手技を確立しておく
- 面会者は下記についてスケジュールされ、了解するように制御されるべきである
- 病院に入る前および到着時にEVDについてのスクリーニングをおこなう(発熱およびその他の症状について)
- 面会者の健康への危険性および予防策を実施する能力を評価する
- 患者ケア区域に入る前には説明書を提供するが、これには手指衛生、環境表面に触れることを最小にすること、病室に滞在する間は現在の施設の指針に従ってPPEを使用することについて記述されている
- 施設内での面会者の移動は患者区域および待合室の隣接区域に限定すべきである
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