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28号 麻しん
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海外からの麻しんの輸入症例が増加している。特にフィリピンからの輸入が多い。麻しんの2014年第1~8週(2013年12月30日~2014年2月23日に診断されたもの)の累積報告数は119例であり、昨年同時期の3.3倍となっている1)。日本は2015年にはWHOによる"麻しん排除"認定の取得を目指しているが、このような増加によって認定が影響を受けそうである。
麻しんは感染力が強力であるばかりではなく、重篤な合併症を呈する可能性がある。それにもかかわらず、麻しんワクチンを接種していない市民は数多く、また、医療従事者でさえ、未接種者がいる。ここで、麻しんの恐ろしさを再認識するために、WHOのホームページの「麻しん」を紹介したい2)。麻しんは感染症法に基づく5類感染症全数把握疾患である。

麻しんによる死亡者数

麻しんは極めて感染の強い重篤なウイルス性疾患である。1980年頃(ワクチンが広く使用される以前)、麻しんによって毎年、世界中で約260万人の人々が死亡していた。安全かつ有効なワクチンが利用できるようになってからも、幼児を死に至らしめる主要疾患の1つとなっている。2012年、約122,000人の人々が麻しんによって死亡し、その殆どが5歳未満であった。

麻しんウイルス

麻しんはパラミクソウイルス科のウイルスによって引き起こされる。麻しんウイルスは咽頭や肺の細胞で増殖する。麻しんはヒトの感染症であり、動物で病気を引き起こすことは知られていない。

麻しんワクチンの有効性

麻しんワクチンによって、麻しんによる死亡者数が大きく減少した。2000年以降、ハイリスクの国々の小児の10億人以上が集団接種キャンペーンによってワクチン接種され、2012年には約1億4500万人が接種されている。その結果、世界での麻しんによる死亡は78%減少し、推定で562,400人から122,000人となった。

症状

麻しんの最初の症状は高熱である。これはウイルスに曝露してから約10~12日で始まり、4~7日続く。また、鼻汁、咳、目の充血や流涙、頬部内部の白い小斑点が初期症状としてみられる。数日後、顔面および上部頸部に発疹がみられ、約3日の経過で手や足にまで拡大する。発疹は5~6日持続して消褪する。ウイルスに曝露してから平均14日(範囲7~18日)後に発疹がみられる。

合併症

重篤な麻しんは栄養状態の悪い幼児に多くみられる。特に、ビタミンA欠乏の幼児やHIV/AIDSなどによって免疫が低下している幼児にみられる。麻しん関連死亡の殆どが合併症によるものである。合併症は5歳以下の小児および20歳以上の成人に多い。最も重篤な合併症には失明、脳炎(脳浮腫を引き起こす)、重症下痢と脱水、耳感染、重篤な呼吸器感染症(肺炎など)である。厳しい低栄養で適切な健康ケアを受けることができない人々では麻しん患者の10%が死亡する。妊娠中に感染した女性もまた重篤な合併症のリスクとなり、流産や早産になりうる。麻しんから回復した人々は終生免疫を獲得する。

ハイリスクの人々

ワクチンが未接種の小児は麻しんおよびその合併症(死亡も含む)の最大のハイリスクである。未接種の妊婦にもリスクがある。免疫化されていない人(接種されたことのない人々、接種したが免疫が発生しなかった人々)は感染しうる。麻しんは多くの開発途上国(特にアフリカやアジアの一部地域)で一般的にみられる。毎年、2,000万人以上の人々が麻しんに感染する。そして、麻しん死亡のほとんど(95%以上)が1人あたりの収入が低く、健康基盤が弱い国々で発生している。

麻しんのアウトブレイクは自然災害や戦闘を経験しているか、そのような状態から回復中の国々で発生しうる。健康基盤やサービスへのダメージによって日常的な免疫化が遮断され、住居キャンプが混雑することが、感染の危険性を増大させている。

伝播

麻しんウイルスが咳やくしゃみ、濃厚接触、鼻汁や咽頭分泌物への間接的接触によって拡散する。ウイルスは空気中もしくは環境表面で2時間も感染性を保っている。このウイルスは発疹の始まる4日前から発疹後4日後まで感染者から伝播しうる。麻しんのアウトブレイクは多数の死亡(特に幼児、低栄養児)を引き起こす可能性がある。麻しんがほとんど排除された国々では、他の国々からの輸入症例が重要な感染源となっている。

治療

麻しんウイルスに対する特別な抗ウイルス薬治療はない。麻しんの重篤な合併症は良好な栄養、十分な水分摂取および脱水治療(WHO推奨の経口補水液による)によって避けることができる。この補水液は下痢や嘔吐によって失った水分や生体必須元素を補う。抗菌薬は目や耳の感染症や肺炎に対して用いられる。

麻しんと診断された開発途上国の小児全員にビタミンAのサプリメントを24時間間隔で2回投与する。ビタミンAのサプリメントは麻しんによる死亡を50%減らすことができる。

文献

  1. 国立感染症研究所 麻しんとは
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles.html
  2. WHO. Measles.
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles.html

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長