ケンエーIC News

24号 クロストリジウム・ディフィシル
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2010年、米国病院疫学学会(SHEA:Society for Healthcare Epidemiology of America)および米国感染症学会(IDSA:Infectious Diseases Society of America)は「成人におけるクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI:Closetridium difficile infection)のための臨床実践ガイドライン」を公開した[ケンエー IC News 2012年3月 3 号参照]1)。2013 年、米国消化器学会が「クロストリジウム・ディフィシル感染症の診断、治療、予防のためのガイドライン」を公開し2)、SHEA&IDSAガイドラインを補足した。このガイドラインの勧告部分を抜粋して紹介する。

CDIの診断検査

Closetridium difficile(CD)の検査は下痢を呈する患者の便のみに実施すべきである。再検査は推奨しないし、治癒を確認するための検査も実施しない。CD毒素遺伝子の核酸増幅検査(NAAT:nucleic acid amplification test)は毒素A+BのEIA検査よりも優れている。

軽度、中等度、重症CDIの治療

検査前にCDIを強く疑う患者では検査結果に拘わらず、CDIのエンピリック治療を考慮すべきである。このような患者においては、CDI検査の陰性的中率はCDIを除外するためには不十分だからである。CDIの治療においては、可能ならば、原因と考えられる抗菌薬を中止することが大切である。

軽度~中等度のCDIはメトロニダゾール内服(1回500mg×1日3回×10日)で治療する。重症のCDIはバンコマイシン内服(1回125mg×1日4回×10日)で治療する。メトロニダゾール治療にも拘わらず5~7日以内に反応しなければ、バンコマイシン内服(標準量)への変更を検討する。メトロニダゾールが耐えられない患者(アレルギーなど)、妊婦、授乳中の女性における中等度~重症のCDIについては、バンコマイシン内服(標準量)で治療する。経口抗菌薬が大腸に到達できない患者(回腸瘻造設、空置大腸など)では上記の治療に加えて、バンコマイシン浣腸を症状が改善するまで継続する。

CDI(疑い)による下痢を制御するために抗蠕動薬を使用することは避ける。抗蠕動薬は症状を不明瞭にし、病状を複雑にしてしまうからである。

重症および複雑性CDIの治療

すべての患者には支持療法をおこなう。これには静脈内補液、電解質補充、薬剤による静脈血栓症予防が含まれる。イレウスや強い腹部膨満がなければ、経口もしくは経腸栄養は継続する。複雑性CDI[註釈1]には腹部および骨盤のCTを推奨する。強い腹部膨満のない重症および複雑性CDIでの治療では、バンコマイシン内服(1回125mg×1日4回)およびメトロニダゾール経静脈(1回500mg×1日3回)を選択する。

イレウスもしくは中毒性巨大結腸症や強い腹部膨満のある患者にはバンコマイシン内服(1回500mg×1日4回)およびバンコマイシン浣腸(500ml溶液に500mg×1日4回)に加えて、メトロニダゾール経静脈(1回500mg×1日3回)をおこなう。

すべての複雑性CDIには外科コンサルトをおこなう。外科治療は下記のようなCDIに由来する状態が1つでもあれば考慮すべきである。

  • 昇圧治療を必要とする低血圧
  • セプシスおよび臓器機能障害(腎臓および呼吸器)の臨床症状
  • 精神状態の変化
  • 白血球数≥50,000/µl
  • 乳酸≥5mmol/l
  • 内科的治療5日後も改善がみられない

再燃CDIの治療

CDIの最初の再燃は初回治療で用いられたものと同じレジメンで治療できる。但し、重症ならばバンコマイシン内服を用いる。2回目の再燃ではバンコマイシンのパルス・レジメン(pulsed vancomycin regimen)で治療する。パルス・レジメン後に3回目の再燃がみられれば、糞便微生物相移植(FMT:fecal microbiota transplant)[註釈2]を考慮する。再燃CDIの患者における再再燃を減らすためのプロバイオティクスを用いることについてのエビデンスは殆どない。静注用免疫グロブリンは再燃CDIの単独治療法としては用いないが、低γグロブリン血症の患者では有用かもしれない。

CDIの感染対策

下痢のない入院患者へのCDの日常的なスクリーニング検査は推奨されない。また、無症状のキャリアは治療しない。抗菌薬の適正使用はCDIの危険性を減少するために推奨される。

CDIの患者への接触予防策は下痢が改善するまで継続する。CDI(疑い)の患者は個室もしくはCDIが確定している別の患者と同室とする。CDI(疑い)の患者の病室に入室するすべての医療従事者と面会者は手指衛生を行って、バリアプリコーション(手袋とガウンを含む)を用いるべきである。

CDIの伝播を防ぐために、単回使用の使い捨て器具を用いる。使い捨てできない医療器具はCDI患者の病室専用にするか、CDIの患者に用いた後に十分に洗浄する。CDで汚染した可能性のある区域は5,000ppmの塩素を含んだ洗浄剤などを用いて環境表面の消毒を推奨する。

2つのプロバイオティクス(ラクトバチルス・ラムノサスGGおよびサッカロマイセス・ブラウディ)が抗菌薬関連下痢症の頻度を低下させるという中等度のエビデンスはあるものの、プロバイオティクスがCDIを防ぐというには不十分である。

文献

  1. Cohen SH,et al.Clinical practice guidelines for Clostridium difficile infection in adults:2010 update by the Society for Health-care Epidemiology of America(SHEA)and the Infectious Diseases Society of America(IDSA).Infect Control and Hosp Epidemiol,2010;31:431‒455.
  2. Surawicz CM,et al.Guidelines for diagnosis,treatment,and prevention of Closetridium difficile infections.
    Am J Gastroenterol,2013;108:478‒498.

[註釈1]複雑性CDI
複雑性CDIは下記の症状の少なくとも1つがみられるCDIのことである。

  • 集中治療室への入室
  • 低血圧(昇圧剤の必要の有無に拘わらない)
  • 38.5℃以上の発熱
  • 強い腹部膨満
  • 精神状態の変化
  • 白血球数≥35,000/µlもしくは<2,000/µl
  • 血清乳酸値>2.2mmol/l
  • 主要臓器不全

[註釈2]糞便微生物相移植(FMT:fecal microbiota transplant)
健康な人から得られた便を再燃CDIの患者の胃、小腸、大腸に入れることであり、成功率は高い(≥90%)

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長