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22号 米国公衆衛生局のHIV職業上曝露ガイドライン
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2013年9月、米国公衆衛生局(US Public Health Service)は「HIVの職業上曝露の対処のためのガイドラインおよび曝露後予防の推奨」を公開した1)。このガイドラインは2005年に公開されたガイドライン2)の改訂版である。このなかで大きな変更点が2つあった。それは「曝露後予防(PEP:postexposure prophylaxis)の薬剤レジメの変更」と「曝露後のフォローアップ期間の短縮」である。ここでガイドラインの勧告の要約と新規勧告について紹介する。

改訂ガイドラインの勧告の要約は下記の通りである。

  1. HIVの職業上曝露が発生したときにはPEPが推奨される。
  2. PEPの必要性を判断するために、(可能であれば)曝露源の患者のHIV感染の有無を確認する。
  3. HIVの職業上曝露が発生したら、できる限り迅速にPEP薬剤レジメを開始し、4週間継続する。
  4. 新規勧告:HIVの職業上曝露すべてにおいて、PEP薬剤レジメは3剤(もしくは3剤以上)の抗レトロウイルス薬を含むべきである。
  5. HIVへの如何なる職業上曝露であっても、専門家に相談することを推奨する。
  6. 曝露者には濃厚なフォローアップが提供されるべきであり、それにはカウンセリング、ベースラインおよびフォローアップのHIV検査、薬剤毒性のモニタリングが含まれる。フォローアップはHIV曝露後72時間以内に開始すべきである。
  7. 新規勧告:HIVに曝露した医療従事者のフォローアップ検査として、新しい第4世代HIV検査(HIV p24抗原とHIV抗体の併用検査)が用いられるならば、HIVのフォローアップ検査は曝露後4カ月で完了してもよい。新しい検査法が利用できないならば、フォローアップ検査はHIVの曝露後6カ月で完了する。

新規勧告:PEP薬剤レジメは3剤(もしくは3 剤以上)の抗レトロウイルス薬を含む

2005年のガイドラインではPEPとして、2剤レジメ(2種類の抗レトロウイルス薬による治療のこと)が推奨され、リスクが高い場合に限って3 剤レジメが推奨されていた。基本的に2剤レジメが推奨されていたのは、内服継続を容易にするためである。抗レトロウイルス薬には副作用があり、4週間の継続が必要であるにも拘わらず、途中で脱落してしまう医療従事者が多かった。実際、HIV感染者よりもPEPを受けている医療従事者のほうが抗レトロウイルス薬への忍容性が低いことが知られている。そのため、3剤レジメは2剤レジメよりも副作用が強いので、3剤レジメが副作用によって途中で中断されるよりも2剤レジメを4週間継続できた方が有利と考えられていた。しかし、個々の曝露において、HIV感染するリスクの程度を決定することは難しく、また、PEP薬剤レジメにおいて 2 剤もしくは 3 剤( 3 剤以上)のどちらが適切かを確定することも困難であった。

最近、毒性が少なくて内服に耐えられる薬剤が利用できるようになった。それらを用いればPEPからの脱落を減らすことができるかもしれない。そのようなことから、改訂ガイドラインでは「PEP薬剤レジメでの薬剤の数を決めるために、HIVの曝露の程度を用いることは推奨しない。すべての職業上曝露において、3剤(もしくはそれ以上)を含んだレジメを推奨する」としている。すなわち、PEPをするときには、2剤レジメではなく、基本的に3剤レジメが推奨されることになった。この場合、「エムトリシタビン(FTC)+テノホビル(TDF)+ラルテグラビル(RAL)」の3剤レジメが推奨される。FTCとTDFの合剤であるツルバダ®を用いてもよい。このレジメは曝露者が内服に耐えることができ、抗ウイルス効果が強力であり、内服しやすく、薬剤の相互作用が少ない。また、妊婦にも用いることができる。HIVの職業上曝露に対処するために、勤務場所の手元に1回分の「スターター・パケット」としてこのPEP薬剤レジメを準備しておけば、PEPの適時な開始が可能となる。

「FTC+TDF+RAL」以外の組み合わせも状況に応じて用いることができる。例えば、TDFは腎毒性がみられることがあるので、腎疾患を持っている人にはジドブジン(ZDV)をTDFに代替として用いることができる。このとき、「TDF+FTC」に替えて、コンビビル®(ZDVとラミブジン(3TC)の合剤)を用いてもよい。その他、RALの替わりに「ダルナビル(DRV)+リトナビル(RTV)」などを用いることもできる。ただし、ネビラピン(NVP)はPEPとして禁忌である。また、ジダノシン(ddI)、ネルフィナビル(NFV)、チプラナビル(TPV)もPEPには推奨されない。PEPは曝露後、迅速に開始して4週間継続する。

新規勧告:第4世代HIV検査を用いるならば、HIVのフォローアップ検査は曝露後4 カ月で完了してもよい

HIVの職業上曝露のあとには、HIV抗体の陽性化を監視するためにフォローアップ検査を実施する。この場合、曝露時のベースライン検査のあと、6週間後、12週間後、6カ月後にフォローアップ検査が実施される。HIV抗原/抗体の両者を測定できる第4世代HIV検査を用いるならば、HIV感染を早期に検出できるので、曝露後6カ月より早期にフォローアップを終了することができる。例えば、曝露時、6週間後、4カ月後である。ただし、HIVおよびHCVの両方に感染している患者に曝露して、HCVに感染した医療従事者にはHIVのフォローアップを曝露後12カ月後まで延長することが推奨される。

文献

  1. Updated US Public Health Service Guideline for the management of occupational exposures to human immunodeficiency virus and Recommendations for postexposure prophylaxis. Infect Control Hosp Epidemiol 2013;
    34(9): 875-892.
  2. Updated US Public Health Service Guideline for the management of occupational exposures to HIV and Recommendations for postexposure prophylaxis.
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5409.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長